アジャイルマニフェスト10周年 - アジャイルマニフェストはどう生まれたのか

2001年2月11日に、ユタ州ソルトレイクシティ近郊のスノーバードというところに人が集まって、みんなで考えたのが、アジャイルマニフェストです。

この週末は、その10周年を記念して、同じスノーバードに人が集まってわいわいやっています。(Twitter で #10yragile とか #snowbird10 とかのタグでつぶやかれてます。写真が公開されてます。雰囲気よさそう。)

アジャイルマニフェストに至る経緯はいろんな本で書かれているみたいですけど、訳されたり訳されてなかったりなので、ちょっと説明が難しい感じです。

というわけで、Alistair Cockburn の "Agile Software Development : The Cooperative Game" の付録に、ちょっと説明があるので、訳して置いておきますね。

Agile Software Development: The Cooperative Game (Agile Software Development Series)

Agile Software Development: The Cooperative Game (Agile Software Development Series)

  • Kindle版もあります。
  • 2006年の Jolt Award らしいです。

Appendix A.1. The Agile Software Development Manifesto and the Declaration of Interdependence (付録A.1 アジャイルソフトウェアマニフェストと、相互依存性の宣言)

The Agile Manifesto Revisited の 3段落目

ボブ・マーティンがミーティングを招集して、こう言った。「私たちが言っていることって、似ているように聞こえるんだけど、これって偶然の一致なのかなぁ?」彼はマニフェストを書くことに関心があることを付け加えた。(私はマニフェストを書くことには全く関心がなかったので、マニフェストへの世間の反応は、私はボブ以上に驚いたんじゃないかと思う)。ボブはワンダフルな人々をミーティングに招待していた。"軽量プロセス"の提案者として、他の誰より知られた人たちだ。北米だけでなく、イギリスを基盤とするDSDMの代表とも話すことができた。Ari van Bennekum はオランダからこのミーティングのためだけに来ていた。XP、スクラム、クリスタル、アダプティブFDD、DSDM、軽量で実践的な開発といわれるひとたち (Andy Hunt, Dave Thomas, Brian Marick) が集まっていた。


「こんにちは、私は xx です」というやり取りが一周した後、車座に座って、お互いをしばらく凝視した後、誰かが言った。「我々は、アジェンダ(今日話す議題)をどうやって作ればいいんだろう?」すると、誰かがアジェンダ項目をインデックスカードに書くことを提案した。XPの人たちは研修用にインデックスカードを持ち歩いていたのですぐに取り出して書き始め、書き終わったものを中央の床に放り込んだ。急に、過半数の人々が床にインデックスカードを入れ始めた。残りの人も、同じようにやり始めて、アイデアが尽きたときには、床のインデックスカードは山になっていた。


誰かが尋ねた。「このカードをどうやってまとめて、アジェンダにするんだろう?」誰かが言った(私はこのときすでに、誰がなにを言ったかを記録するパワーはなかった)。「アジェンダの順番に意見がある人は、このカードを並べ替えよう。そうでない人は、ここを離れてもいい。」私はトピックの順番は気にしていなかったので、休憩をとった。私が戻ったとき、インデックスカードは壁にテープで貼られていた。


後で、誰かが「私は他のアジェンダ項目を考えているんだけど、どうしたらいい?」と言い出した。誰かが「アジェンダの空いているところ、好きなとこに貼りなよ」と答えた。


私はこの作業にずっと付き合ったのだが、それは、このグループの2つの特徴が私の心を打ったからだ。

  • リスペクト(Respect)
    • その部屋にいた全ての人が、他の人に対して、絶大な信頼を置いていたこと。だれもミーティングをハイジャックすることを試みたりしなかった。全員が他の人の意見を極めてじっくりとよく聞いていた。常に、話している人に最大の信頼をおいていた。
  • 自己組織化(Self-organization)
    • そこは、最も優れた人々の自己組織化の場だった。それまで経験した他の場では、常に一人の人(または、もっと悪い場合は複数の人)がミーティングを "動かそう" とするものだった。偉い人が部屋にいて、お互いをよく知らない場合、まず最初に権力闘争が始まりやすい。そこでは、そんなことは一切起こらなかった。


自己紹介を兼ねて「私が推奨することと、私の立場」を語り合うのにしばしの時間を過ごした。それぞれのプロセスは、たった15分の説明だったが、他の人たちには新鮮な驚きがあったようだった。


私たちはすぐに、それぞれ推奨しているもの同士がとても似通っているのは偶然ではない、という結論に至った。そこには何か根底に流れる共通性があり、それが何であるかを見つける必要があると思われた。なぜなら、日々や分単位のプロジェクトの進め方には、食い違っている点があり、まだ解消していなかったからだ。このような食い違いがあるにもかかわらず、私たちには「私たち以外の人々とは違う」と言える、とても強い共通性が存在した。


誰かが言った。「私は、軽量(lightweight)という言葉が好きじゃないな。真剣な響きがない。」他の誰かが言った。「軽量は、何かに対する(against)反応のことだ。私は、何かを支持する(stand for)、という言葉が欲しい」そこで、一時間ほど、今後のタグとなる単語を探すのに費やすことになった。


この単語探しのプロセスも興味深かった。

  • まず、ブレインストーミングで20から30の名前を出し、それを書き記す
  • 次に、いくつかの名前をピックアップし、それが好きでない理由を議論する

後者の作戦は、私たちがなにを支持し、なにを支持しないかを理解するのに役立った。ある単語の「好きでない理由」を書き出すことは、その単語をふさわしくないものとして追い出してしまうことにはつながらず、むしろ私たちの頭の中にあることの理解を深めることに役立ったのである。


例えば、ある単語についての反対意見はこうだった。「この単語を言うときは、私はピンクのタイツをはかなきゃいけない気がする。私はピンクのタイツなんか履くのはごめんだね。」私たちは宮本武蔵の「防御するときは、ただ防御と考えるのではなく、相手を殺す動作の一部と考えよ」(私たちの場合、有用なシステムを届けるための) を表現するような、強い単語を探していた。


アジャイル開発は、必要とされるものをアグレッシブに届ける。単にペーパーワークを避ける、というだけではない。だから本書の表紙には、ベンガル虎を選んだ。体操選手やダンサーとは対照的な意味合いだ。私のもう1つのアジャイルマスコットは、Tシャツの絵柄で見つけた、邪悪そうな深海のモンスターである。(図 A.1-1)


ベンガル虎も深海のモンスターも、いますぐ食事にありつこうとしているように見える。こいつらが、ただペーパーワークを避けたり、自由度を高めるための稽古だけをしている、なんてことはありえない。

  • 3つ目にやったのは、私たちの考えを明確化し、各々トップ3までの単語に投票し、結果をランクづけすることだ。
  • トップ2つの単語は、アジャイル(agile) と アダプティブ(adaptive) だった。議論の時間をとり、最終投票を行って、アジャイル(agile) に決まった。前に書いた通り(p.266)、アダプティブにも長所があったが、アジャイルこそ、そのとき私たちが探していた単語だった。この数日で、私たちの方法論がまさにアジャイルかつアダプティブだと期待できた。


...この後、4つの宣言の選定に入っていくわけですが、ここでの翻訳はここで終わりにします。

指摘&修正

まだありません。
誤訳とか、変なところがありましたらご指摘お願いいたします。