ジョイ・インク (Joy, inc.) のメンローイノベーションズに行ってきた

Agile 2017 の帰り道、少し滞在を延長して、デトロイト近郊のアナーバー(Ann Arbor)にあるメンローイノベーションズの見学ツアーに参加しました。アナーバーは名門ミシガン大学(U-M)の本拠がある街です。ちょうど200年前に設立されたこの大学の周りに街ができたようなところみたいです。成田から直行便があるデトロイト空港から車で30分くらいでした。

 

ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント

ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント

 

 

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二匹いる Chief Motivation Officer のお一匹。

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今日の案内役は入社二年のEricさんと、5ヶ月のDaveさん。Ericさんは元3DCGエンジニアで、Daveさんはもともとメディカル系のエンジニア。文化に合うかどうかで、スキルは後、という採用方針を体現するような二人だ。

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ソフトウェアが世の中に悪い影響を及ぼしていたりするのが嫌だ、使いにくクレジットカード決済画面とか...と熱く語るリチャード(Richard Sheridan)さん。後ろにあるポスターには「より素早く失敗しよう(Make Mistake Faster)」って書いてある。アメリカの教育システムは失敗を許さないところがあって、いい大学、いい企業に入ることを目指すのだけど、メンローでは素早く失敗して、そこから学んでいきたい。この点が一番しつこく教えないとなかなかできないところだそうだ。

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中央にあるのはジョイ・インク6章に出てくるペルソナマップの実物。ハイテク人類学者(HTAs = いわゆるUX担当に近い要件定義担当)が、実ユーザの観察に基づいてペルソナを書き出し、さらにどのユーザーにまず注力するかを決め、顧客に提案する。

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デザイン思考とかユーザ中心設計に基づいて要件定義を進めていく部分だ。これを元にHTAsがユーザーストーリーに書き落としていく。

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つぎはプランニング。4章にある計画ゲームを行って、プロジェクトチームのペアがどのように一週間働くかをリソース計画する。

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ここでは「ペアがいくつアサインされるか」以上の情報は基本的にはない。顧客がだれをここにアサインを選ぶことはできない。結果的に誰が仕事してるかは、別に隠していないそうだけど。

個別のストーリーは白い紙で、サイズが見積もり時間を表す。ピンクは作業に割れていない大きな機能(いわゆるエピック)。黄色はプロジェクトごとに存在する必要な作業。ここではユーザー受け入れテストの結果のフィードバックへの対応の例が貼ってあった。紫はContingencyとあるが、通常20-30%ほどのリソースを安全余裕として取っておくのだそうだ。それもクライアントの前で見える化される。

スタンドアップ、プランニング、見積もり、ショウ&テル(スクラムでいうスプリントレビュー)のための時間は予め紙の上で控除されて、32時間がそのペアが週で使える時間としている。この机では6ペアがアサインされて、2週間スプリントで、3−4スプリント先までを計画しているようだった。(個別のカードはクライアントワークなので撮影はできなかった)。

この紙は、ジョイ・インクでは計画おりがみと訳している。とても特徴的な仕組みだと思う。

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ペア作業の模様。この島では手前に2ペア、対面に1ペア作業をしていた。

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つぎはチーム作業の進捗確認。毎日の進捗を明らかにする。計画おりがみからここに落とすのは「プロジェクトマネージャー」の役割だそうだ。Ericが指差しているところのスイカがペア名で、横に3ペアいる。一番右のピンクのペアは「QA」だ。各機能(白い紙一枚ずつ)は、計画折り紙から取ってくる。ステータスを丸いシールでアップデートしていて、赤はQA待ち、緑はQA完了、とかそういう感じ。一スプリントでは終わらない場合もあり、QA差し戻しなどもあるためシールは重ねて貼られていく。このあたりは4章の後半「ドットシール リアルタイム進捗レポート」に解説がある。

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このひもは、現在の時間を表す。毎日だんだん下に下げていくのだ。

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バグのインパクト分析のボードもおいてあった。

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下の写真はメンローの人材管理の肝となるボードだ。従業員の名前(部外者に読み取れないように記号化されている)が書かれた付箋がレベルごとのエリアに貼られている。

上に行くほど「チームに対してより高い貢献ができる」ということを示す。一番左のAssopciateで一番上までいくと、つぎは一つ右のConsultantの一番下に動く。左右は四列あって、左から右へ職位が上がっていく。この写真から、二列目のコンサルタントの3〜5あたりがボリュームゾーンというのが読み取れる。このレベルと給与はなんと「100%連動」だそうだ。

となると、下がるときにえらいモチベーションが下がりそうだけど、あまりいきなり上がったり下がったりはなくて、頻繁に話し合っているそうだ。「多くの企業は年に一度か二度の評価面談で決めているだろうが、うちは頻繁にやってる」ということだ。

ちなみに離職率は「普通(アメリカ基準)」だそう。「離職率ゼロを目指すという話を聞くけど、全然離職しないのもよくないとわかった」とリチャードさんは言っていた。ただ、やめても戻ってくることを奨励しているとことで、3回出戻った人もいるらしい。ちなみに1回目は解雇で、2回目はもっとベターになって帰って来たそう。別にぬるま湯なわけではないのだというのがうかがえた。

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10時に輪になって朝会がある。4章のデイリースタンドアップだ。

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フィードバックシートはシンプルにNPSと改善点だった。ヘンリックの研修で教えてもらって、私もそうしてる。

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6時にドアロックされるので、だいたいそのへんでみんな帰る人が多いらしい。...と思ったら話していたらすっかり6時。リチャードも帰っちゃったしガランとしたオフィスになっていた。学生の質問に答えている説明役の二人組と、柱の向こうでミーティングしているチームが一つあったくらい。日本で言えばベリーホワイト企業である。

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そういえばオフィスの場所もサイズも長らく変わっていなさそうなので、仕事の取り方は工夫がありそうだ。たぶんリソースがアサインできない仕事は受けてない。計画の仕組みからしてそうなっている。これは自分たちの文化にあう良質な顧客を、納得づくで関係を築いているということなんだろう。急に拡張しても品質的に破綻するわけだし。この点は聞いたわけじゃないので、次回お会いするときへの宿題にしとこう。

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ちなみにリチャードさんが帰る前に、日本語版にサインをしてもらった。

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こんなツアーを開催しているのは、「ジョイ」のビジネス価値を伝えるためだという。後ろにあるのはツアー客がどこから来たかを貼るボードで、日本からもいくつか来ていた。札幌と大阪と東京だった気がする。

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みんな帰ってしまったのでお土産は買い損ねた。

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Joy, inc. の訳書たち。

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とても勉強になりました。来てみると、決して海の向こうの全然環境の違う桃源郷の話ではなくて、16年前に走り始めて、ずっと地道に実験を繰り返して、今があるって感じがしました。そこの一端に触れさせていただいて、ありがとうございました!

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あ、大事なこと書き忘れてました。1/11-13に開催予定のスクラムギャザリング東京で著者の Richard Sheridan さんを基調講演スピーカーとしてお呼びする予定です。ぜひ質問攻めにしちゃってください。