外から見ている限り、仕事って簡単に見えてしまう

外から見ていると、難易度の非常に高い達人の仕事でも、さも簡単にやっているかのように見えてしまう。....これを思い出すような体験をしたのでメモしておく。

 

スクラムの改善ワークショップで..

こないだ、旧知の方が勤めるある会社さんで、スクラムの基本を紹介するセッションをやった。3時間半から4時間で行うそのセッションでは、ピンポンゲームを使って、改善の仕組みを学んでいただくことが多い。今回はその旧知の方がピンポンゲーム体験済みだったので、ゲームの参加者グループからは外れてもらい、外部からの視点で見ておいてもらうことにした。

一通りゲームが終わり、全体のふりかえりをすることにした。協調問題解決の練習の一環として、参加者全員でそれぞれ気づいたことを付箋に書き出し、全体でまとめていくというプロセスをとる。まとまった付箋について、誰かに立候補してもらって、外側の人間(講師である私)に対して説明していただく。説明をすることで、よりよい共通理解を作ることができるという寸法だ。

いつも通り参加者から説明役の立候補を募ったところ、横に外れていた方が、「私やりましょうか?」と、手をあげてくれた。通常は参加者にお願いするのだけれど、今回は旧知ということもあり、その方にお願いすることにした。

説明を始めると、その方はまず付箋の大きなカテゴリだけをざっくりと説明した。そして、自分なりのアドバイスを始めた。これはちょっと私の意図とは違ったのだけど、面白いなと思ったので続けてもらった。彼はこう言っていた。

「客観的な視点でみると、こういう点がもっと改善できそうだと思いました」

もしかすると、これは世の中のマネージャーの人たちが多くハマっている罠なのかもしれない、と感じた。

 

 マネージャーの人たちがハマりやすい罠

手を動かしてなにかを作っていると、決して思うとおりにはいかないものだ。「全く無意味な失敗」も「文句のつけようのない成功」もめったになくて、そこそこうまくいくところとうまくいかないところ、やってみてはじめてわかることがあり、思いつくアイデア、次にやってみたいことが出てくるものだ。動作や表情に出ているかどうかわからないが、心と頭の中はグルングルンと回っている。

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しかし、外から観察していると、細かなことを無視して、全体を見通し「本質」が見える感じがする。やっていないので、心のざわめきも雑念もない。中の人では気づけない、価値ある仮説が見えた気がする。アドバイスしたくなる。そもそも参加していないわけだし、なにか貢献したくてウズウズする。その分野に経験があるし勘所もあるので、自分がしたような失敗を超えてもっとすごいところまでこの人たちならば行けるのではないか。できれば自分もそこに貢献できるのではないか? 

 

抽象化は悪 - チーム自身が獲得した情報量を活かそう

ちょっと待ってほしい。手を動かしている人たちの課題認識やアイデアを無視してはならない。実際にやってみて、また、これからもやっていくだろう人たちが、どのようなことを感じて、苦労して、学んで、これからどうしたいと考えているだろう?

先のゲームの話に戻ると、本当にすべきなのは、チーム自身の手で、チーム自身のふりかえりをしてもらうことだと感じた。そこで、こんどはチームの中から一人立ってもらって、今度は付箋の内容を忠実に紹介してもらうことにした。なるべく省略しないで、忠実に。意味がわからなかったら書いた人に補足してもらう。そうして、全体ではなく、実際に作業した人たち自身が、具体的にどんなことを考えたのかを知ることができた。

業務をしている人たち自身が、一番の解決者なのだ、ということを、私たちは繰り返し見てきたように思う。下の写真は、ヴァル研究所さんの総務部門の方々の看板を視察させていただいたときのものだ。このように、非IT部門の方々でも、自らが一番知っている業務を見える化することで、自分たちで解決していくことができる。カンバンの作り方をアドバイスしたくなってしまうかもしれないが、それだけで業務が良くなるとは思えない。大事なのは、現在どのような成り立ちで、どういう人たちが、どのように業務を回しているかであり、実際にやっている人たちだけが知りうる膨大な情報がそこにあるのだ。

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専門家に頼ることも必要なことがある - 必要な知識を高速に取り込む

もちろん、専門知識が不足しているという悩みもあるだろう。その場合は、教えてくれる人を雇って、教えてもらえばいい。コンサルタントというのは特定業務について教えてくれる人たちのことだ。自分たちの状況を整理して、新しい情報をもらい、改善案になりそうなアイデアを発想するための手助けをしてもらおう。一定期間業務を委託して、その間に学ばせてもらうというのでもよいだろう。専門知識を学べば、専門家ほどのアウトプットは出せないかもしれないけれど、少なくとも専門家の苦労のしどころは理解できるようになる。「専門家なのに、もっとうまくできないのか?」というような上から目線での評価はしなくなり、相手との協業関係を深めることが出来る。それは経済的にも価値がある。専門家は、よくわからない相手にはリスクバッファを積むが、わかっている相手にはいろいろと実質的に安く請け負えるように工夫してくれるものだからだ。よいパートナー関係を築くためにも、相手の痛みを知る必要がある。

 

現場の知識を活かすサーバントリーダーシップ

業務は複雑の一途を辿っている。最も状況をよく知っているのは、上司ではなく、業務を行っている個人ないしチームだ。マネジメントは、現場の知識・経験を最大限に生かさなければならない。

そのためには、必要な情報をすべて現場で共有し、自分たちの手で課題の定義を行い、解決への試行を繰り返さなければならない。そうしてチームが自律的に学ぶ状態を作り、チームでは解決できない課題へのサポートを行う。こうしたマネジメントスタイルを、サーバントリーダーシップという。問題解決をするチームに対して、ボスとして振る舞うのではなく、サーバント(執事)として振る舞うのだ。

私の経験上でも、上手なマネージャーは、多かれ少なかれ、上手にサーバントのような役割をこなしている。話を聞くのがうまく、必ず部下の意図を確認して、困っていることを聞く。自分で解決できそうなことは、発想の転換を促し、個人では解決できなさそうなことは引き取ってエスカレーションする。

簡単でもないし、誰にでも出来ることではないだろうが、そういううまいマネージャーが増えていくことを願っている。

 

 p.s. 上の写真のチームの事例は、こちらの勉強会で発表を聞けると思います。

connpass.com