RSGTのセッション採択はどのように決まるのか

adventar.org

RSGTアドベントカレンダーの3日目です。昨日は天野さんが「僕がスクラムマスターになった訳 - はてブロ@ama_ch」という実践者ならではの記事を書いてくれました。こうした事例があるのも、この八年くらいで大きく変わったところで、大変頼もしいですね。今日はセッションの決め方について書いてみます。書いてみて思ったことは、これ興味あるのカンファレンスやる人だけじゃない?ということですが、きっと深読みすると様々なプロダクトバックログ作成にも通じるものがあるのではないかと思います。そう、これはプロダクトオーナーシップの話なのです!(どうかな?)

 

オープンプロポーザルとLike投票機能を使ったセッション採択の進め方

Regional Scrum Gathering Tokyo (RSGT) は、永瀬さんが書いてくれたような紆余曲折の結果、おかげさまで大変多くのセッション公募をいただくようになりました。全てのテーマをご発表いただくことができないので、採択するセッションを決める必要があります(Regional Scrum Gathering Tokyo において、たくさんの落選セッションが出てしまってごめんなさい。 - kawaguti’s diary)。ConfEngineでオープンプロポーザルとLike投票を行うようになってからは、だいたい毎年同じような決定方法になっています。RSGTにセッションを投稿いただいた皆様、Likeやコメントでお手伝いいただいた皆様へのご説明を兼ねて、ここにその概略のプロセスを書いてみます。

(ここではプロポーザルが集まってからの採択決定にかかわるプロセスについてだけ書きます。よいカンファレンスになるための前提として、よいプロポーザルがたくさん集まっていることが重要なのはいうまでもありません。RSGTに多くの素晴らしいプロポーザルを投稿していただいた皆様に大変感謝しております。)

目次

  • Like機能による投票
  • Likeはあくまで一つの指標
  • Likeが少なくても落選にしない
  • 一軍でカンファレンスの骨格を作る 
  • テーマを集めてトラックを形成する
  • 全体の流れをみながら、あいている枠に実行委員推薦のセッションを入れていく
  • 参加者のペルソナを想定してウォークスルーをする
  • そして寝かす!
  • 実は手間のかかる作業はここから
  • ここまででセッションスケジュールの作業は完了。最終チケット販売へ
  • 現在プロポーザル募集中のカンファレンスもあります!

 

Like機能による投票

RSGTのセッション公募にはインドの Naresh Jain氏が中心となって運営している ConfEngineを利用しています。ここ数年安定して運用されていて、グローバルなアジャイル系のカンファレンスでの採用実績が多いサイトです。リーンスタートアップを使って開発しているようで、カンファレンス運用者にとって楽になるような機能が必要十分に装備され、要望を出すと修正してくれたりします。

ConfEngineのセッション公募には、Like機能があります。誰でもアカウント(無料)を作ってログインすれば、セッションプロポーザルにLikeをつけることができます。カンファレンスごとにポイントが割り当てられていて、ポイントがゼロになるまでLikeしていくことができます。ポイントが底をついても、すでにつけたLikeを取り下げれば、その分のポイントは戻ってきます。また、自分で新しくプロポーザルを投稿したり、コメントをつけたりといった貢献をすることで、新たにポイントを獲得することもできます。

ConfEngineでの自分の持ちポイントは右上に表示されています。

自分の持ちポイントは右上に表示されています。

各プロポーザルの獲得したLike数はピンク色のハートマークの中に表示されます。

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獲得したLike数はハートマークの中に表示されます

このLike数が表しているのは、このセッションは「ConfEngineでログインした人の中で、どのくらい支持を得ているか?」です。RSGT全来場者に比べれば、ConfEngineでログインした人の数は決して多くありませんが、今回投稿した人は全員アカウントを持っていることになりますし、過去にプロポーザルを投稿した人も持っているので、気になったらLikeを押してくれているに違いありません。そのセッションに参加したい人の数を予測する上では、完全には程遠いかもしれませんが、手がかりとして非常に参考になります。

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Likeが多いのは参加したい人がたくさんいることを示す

Likeはあくまで一つの指標

Like数が多いから通過、とは限りません。実行委員としてはプロポーザルの持っているテーマがカンファレンスの全体像やカテゴリに合うかどうかをみながら採択するセッションを決めていきます。

ここ3回ほどのRSGT実行委員会では、特にLikeが多く、かつ内容がカンファレンスにふさわしいと考えられる一部のセッションを「一軍」と呼びました。(ちなみに一軍のLike数の基準ははっきりとは決めていません。採択の場で数や内容を見ながら決めます。)

また、Likeが多いセッションを一律に一軍に入れるわけではありませんので、結果的に落選してしまう可能性が出てきます。しかし、Like数は一部の参加者の声を反映していますから、落選にするには、説明を用意する必要があると考えています。(セッションの提案者が説明に納得していただけるとは限りませんが) 実行委員会ではかならずこの点を議論するようにしています。

 

Likeが少なくても落選にしない

なお、Like数が少ないセッションには2つの可能性があるとみています。一つは参加したいと考えた人が少ないケース。もう一つは、プロポーザルの投稿時期が期限ギリギリ(期間が短かったか、すでに多くの人がポイントを使い切っていてLikeできなかった)というケースです。このため、Likeが少ないからといって落選にはしていません。

あくまで落選とは、様々な理由で採択を試みたが採択の中に入れられなかったセッションということであって、なんらかの理由で落とされたわけではありません。

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Likeが少ないのは投稿が遅かっただけかもしれない

一軍でカンファレンスの骨格を作る 

まず一軍に選ばれたセッションでカンファレンスの骨格を作っていきます。最後の時間枠と最初の時間枠を埋めます。聴衆として、どういうセッションで一日を終わったら、前向きで、学びの多いカンファレンスだと思ってくれそうか、一番影響を及ぼすのは一番最新の記憶である最後の枠ですので、ここは重要だと考えています。

今回のRSGTでは、会場をほぼ同じ規模で2分割する都合上、どちらかに人気が偏ると集まったほうの部屋は環境が悪くなってしまいますのでそれは避けたい。ですので、最終枠は一軍がそろう、ということになります。(人気の高いセッションが裏番組になってしまうので残念だという声をいただくことも多いのですが、ここはご理解いただければと思います。)

そして、最初のセッションは基調講演後のランチ明けのセッションです。ここも午後のセッションを盛り上げるうえで重要な時間枠になります。

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最初と最後の時間枠が重要



 

セッションは公募の時点で希望する長さ(20分/45分/100分)を選んでもらっています。45分のセッションであれば、そのままスロットに納めます。20分のセッションの場合は、もう一つ20分のセッションと組み合わせて、45分の時間枠を埋めることになります。

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20ふんセッションは二つ入る

100分はワークショップルーム専用です。参加人数は20名程度に限られますが、じっくりと手を動かすワークショップを行うことができます。

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100分のワークショップ部屋

 いったん骨格を作ったところで、セッションのカテゴリをみながら、ばらつきが適切になるように、入れ替えたりして、整えていきます。例えばスクラムマスター視点で行くとどちらのセッションに行くか?これからスクラムを始めようとしている、ないし始めたばかりの人にとって参加できるセッションはあるか?あまりに似たようなテーマのセッションが裏番組になっていないか?などの観点です。

この時点で、全体の大枠が見えてくることが多いです。どういう風に会場の人たちが盛り上がるか、セッション概要をみながら想像します。

テーマを集めてトラックを形成する 

一軍には入らなかったがLike数が多かったセッションを中心に、近しいテーマで流れを作りながら、骨格以外の時間枠に当てはめていきます。今年の場合は、はじめての事例を20分枠で募集しましたので、事例を中心に二日目午後のトラックを形成しました。ここで同じ会社の事例が複数あった場合は、2つ合わせて45分セッションのような形にして、聴衆にわかりやすい流れを作ってもらうようお願いすることがあります。一方で、同じ会社から採択するのは3セッションまで、というルールを設けています。

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トラックを作る

今回は、概要の修正をお願いしたかったり、申請された時間枠が短すぎる/長すぎると思われる、など、課題が提案されたプロポーザルがいくつかあり、いったん「パーキングロット」に置いて、後の議論に回すか、発表者に連絡をとって情報をもらう時間を設けるようにしました。先にそういった課題のないセッションを当てはめて全体像を作ることを優先します。(これらの課題は実は公募期間中にも明らかであったと思われるので、コメントを付けるなどして事前に解決できていたらよかったのにね、という気づきはありました。来年頑張ります。)

ここまでの作業で80-90%の時間枠が埋まっている感じにします。後でまた変えるかもしれませんが、いったんは実行委員全員の目に具体的なセッション名が目に入るようにし、常に具体的な議論をできるようにします。(この時点で「こんなジャンルのセッションがあったらいいのに、応募されたセッションがない」という話になったら、来年の募集に生かすべきですので、メモしておきます。セッションが応募されてないのは、たぶん公募のときの説明に込めるメッセージが弱かったのでしょう。)

全体の流れをみながら、あいている枠に実行委員推薦のセッションを入れていく

Likeがそれほど多くなくても、テーマとして特徴があり、Like数の多いプロポーザルだけではカバーできない分野は、実行委員各員の推薦に基づいて採択の議論を行っていきます。このプロセスを行うことで、投稿時期が遅くLikeが多く得られなかったセッションにも可能性が残されます。

今回はこのプロセスの際に意見が割れたため、実行委員内の多数決によって決める場面がありました。概要がよく書けていたり、特色があったり、今回特にやるべき必然性があったり、著名な方で実績があったり、多様な優位性を持つセッションが複数ありましたので、最終的には投票という手段を取ることになりました。逆にいうと、ここまで投票はほぼ行わず、必ず実データをみながら議論によって決めています。人数が6-7人であるからこそ、具体的な議論をもって意思決定を効率的にできるのは、スクラムにおける開発チームとも共通していると思います。

参加者のペルソナを想定してウォークスルーをする

セッション全体が仮組み出来たら、いくつかの参加者のペルソナを想定してウォークスルーを行います。どういう参加者が、どのような順序でセッションを選択しそうか、ホワイトボードに線をひいて確かめます。このあたりは「ユーザーストーリーマッピング」だとか、「実践アジャイルテスト」で出てくるスチールスレッドと似ているといえばピンとくる方もいらっしゃるでしょうか。

ウォークスルーで問題が見つかったら、裏番組とセッションを入れ替えたりして、スムーズに興味のあるセッションに参加できるようにします。あるテーマでセッションを聞きたいのに、会場がころころ変わるようだと煩雑ですので、なるべくそういうことが起こりにくいようにセッションのならびを整えていきます。完璧はないですが。

また、セッションカテゴリの偏りがないか、特定のペルソナばかり聞けるセッションが多かったりしないかもチェックします。

ここまでの議論を経て、全体のセッションスケジュールをいったん確定します。

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今回の第一次案のホワイトボード写真。議論はこのホワイトボードとセッション概要を映すプロジェクタを使って行われる

そして寝かす!

ここまで、時に盛り上がりつつ、時に淡々とセッションの並びを議論しながら作ってきたのですが、フェイストゥーフェイスの議論は素早い一方で、一時の熱狂で決めてしまってあとで後悔した、なんて経験の一つや二つ、誰もが経験するところかと思います。ここは「ひとまず完成!」というところで作業を止め、数日の冷却期間を置きます。一晩寝たらおかしな点を思い出したり、見逃したポイントに気づいたりすることがあります。オンラインで引き続き議論する期間を取っておきます。この寝かす期間のうちに、当日参加できなかったメンバーが内容に追いつくこともできるでしょう。

実は手間のかかる作業はここから

採択が決定したセッションについてはスピーカーに登壇の意思確認を行う必要があります。そのためのメール原稿を用意します。辞退された場合にはセッションの組み直しが必要ですので、補欠リストも合意しておきます。今回は投票を行っていたので、票数が次点のセッションが補欠ということになりました。

採択セッションがすべて決まり、登壇意思も確認出来たら、次は落選のご連絡をすることになります。落選者にはなんらかのベネフィットをお渡ししたいので、出せるベネフィットの議論をします。今回はチケット枠の優先確保と割引の提供を行うことができました。

次回以降のチケット売り出しまでに、セッションスケジュールを確定し、公表します。今回は残念ながら11月売り出しにはこの作業が確定できず、12月売り出しまでに確定する形になりました。ConfEngineに詳しい委員がちょうど欠席していたり、運用上の課題がいくつか見えたところがありますので、来年に生かせればと思います。このあたりは複雑にしたところでカンファレンスの価値はあがらないので、もっと楽しよう、というのがコンセンサスです。

ここまででセッションスケジュールの作業は完了。最終チケット販売へ

以上でセッションスケジュールの確定しますが、まだ作業があります。

落選者向けのチケットのうち利用されないと分かった部分などを回収し、12月の最終販売チケットをねん出していきます。一枚単位で地道にカウントをしていく作業が続きます。

これらの作業を進めながら、「票読み」と呼んでいる月次キャッシュフロー表を更新して、ノベルティや、カンファレンス会場で使えそうな備品のコストを確定します。

ここは本当に担当している実行委員の努力に涙が出ます。

 

ということで、永瀬さんから発表があった通り、12月チケットの発売とボランティア募集があります。なんとかひねり出したラストチャンスです。ご活用いただければ幸いです。 

8回目のRegional Scrum Gathering Tokyo #RSGT2019 - ナイスビア珍道記

発売開始日時は、2018年12月11日(火) 12:00 pm(日本時間正午)です。
以下のURLからお申し込みください。
なるべく多くの方に行き渡るようにしたいため、複数枚購入はできません。
1回あたり1名のお申込みになりますのでご了承ください。

www.eventbrite.com

また、当日ボランティアも募集を開始します。
募集要項および応募はこちらから。
ご応募お待ちしています。
RSGT2019 ボランティア登録フォーム

 

現在プロポーザル募集中のカンファレンスもあります!

手前味噌で恐縮ですが、RSGT以外にも筆者が実行委員を務めるカンファレンスでConfEngineを利用したオープンプロポーザルを採用しています。いずれも現在プロポーザルを募集中ですので、発表できそうだ、という方はぜひ投稿をご検討ください。Likeやコメントも絶賛受付中です!

confengine.com

confengine.com

 

予想外の長文になってしまいました。お付き合いいただいた方、大変感謝です。

明日は、高柳謙さんのアドベントカレンダー四日目の予定です!