ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階

リーマンショックの少し後に出た本なのですが、当時書店で立ち読みしたままで、なんとなくちょうどいまくらいの時期に読むとよさそうかなということで、読みました。 

ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階

ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階

 

うまくいった企業がなぜ衰退するのか

2009年に原著が出ているのですが、ちょうどリーマンショック後の信用収縮が進行しているあたりのようで、序章からその話が出てきます。この研究は5年ほどやっていたそうなので、2009年になったのは偶然で、サブプライムローン問題で破綻したファニーメイについては付録に記載した、とのこと。

本書では素晴らしい業績をあげた企業が、衰退していく例を詳細に追ったものです。前著のBuilt to LastかGood to Greatで調査した、偉大な企業にまで成長した企業群のうち、その後、衰退して凡庸になった企業が対象で、基本的には株価でスクリーニングしているようです。付録に詳細な条件が書いてあります。条件にあった企業と時期は以下の通り(付録1より引用)。

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スクリーニングののち、各企業のニュースなどの資料を時系列に追っていく手法で調査したそうです。「後で語る」系のものは後知恵バイアスがかかるので除外し、衰退前に出ている情報やインタビューを調査したようです。

ちなみに本書は(Wikipediaによると)、Built to Last、Good to Great、公共セクター版 に続く本ということになるみたいです。日本語訳は、ビジョナリーカンパニー、2、3という名前になってます。

見えてきた衰退の5段階

第二章で説明されるのが、分析によってわかってきた、衰退企業に共通する5段階です。

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発売当初、私の目に刺さってきたのは「第4段階: 一発逆転策の追求」です。業績がやばくなると、むしろ大きな勝負に出がちなんだろうなぁ、と思ったのを覚えています。衰退時期に行われる一発逆転策の例として、カリスマ性のある経営者を呼んできたり、大きな買収などで新規事業に進出したり、ということがあげられています。本業が十分に儲からなくなった時に、本業に集中するのではなく、違うことをやろうとする。しかし、顧客から信頼を集めている本業がそんなに急に悪くなることはなく、むしろその逆転の博打の失敗によって、衰退していく例が多いようです。

実は第2段階で、大きな差が生まれる

まだ業績が伸びている第1-2段階が、非常に重要な部分とのことです。これは後で効いてきます。第1段階では、企業が成功することによって、判断が少しだけ傲慢になる、というところから始まります。ここではまだ大きな問題ではないものの、「成功して当然」というマインドが育ち、偶然を軽視し、自分たちの成功の理由を自分たちで信じるようになります。

■ 主要な弾み車に残っている可能性を無視するのは傲慢である。それ以上に悪いのは、主要な弾み車は退屈だと考えて無視し、成功はほぼ間違いとの思い上がりから、つぎの大事業に関心を移す傲慢である。中核事業が近く没落する事態になったとしても、この事業を惰性に任せる理由にはならない。完全に撤退するか、執念を持って若返りをはかるべきであり、主要な弾み車を無視してはいけない。

■ ここでの要点は、「変革しなかったから衰退した」というような単純なもののではない。衰退の後の段階でみていくように、一貫した根拠がないままたえず変革を続けた企業も、全く変革しなかった企業と変わらぬほど確実に衰退している。具体的な慣行と戦略を遵守すること自体は、本質的に間違っているわけではない(偉大な企業は時代を超えて、驚くほどの一貫性を維持しているのだから)。しかし、これらの慣行の背後にある理由を理解し、維持すべき時期と変えるべき時期を判断できなければならない。

そして第2段階で、内部で十分に人が育つよりも速く、事業を拡大してしまうのです。

だが、第二段階にある企業は悪循環に陥りうる。パッカードの法則を無視して、不適切な人を主要なポストにつけるようになると不適切な人の血管を補うために、官僚的な手続きを確立するようになる。その結果、適切な人材を追いやる(官僚機構のもとでは苛立ちが募るか、能力が低い人々と共に働くのが耐えられなくなるか、両者が重なる)。こうなると、不適切な人が増えたのに対応して、官僚制をさらに強化することになり、適切な人材がさらに逃げ出す。こうして、官僚制の凡庸な文化が規律ある卓越性の文化に徐々に取って代わっていく。官僚的な規則が幅をきかせて、基本的価値観と厳しい基準の枠組みの中で自由と責任を重視する精神が侵食されていくとき、凡庸さの病に感染しているのである。

創業者の後継者不足の問題もここで発生します。いずれも、表面上は事業が成長しているので、なかなか判断は難しいところかなと思いますが、この調査は外部から入手可能な記事などでのみ進めているので、後から見ればサインが見て取れたということでしょう。

章末のチェックリストが素晴らしいです。タイトルだけ引用します。

第3章 = 第1段階 成功から生まれる傲慢

  • 成功は当然だとする傲慢
  • 主要な弾み車の無視
  • 何からなぜへの移行
  • 学習意欲の低下
  • 運の役割の軽視

第4章 = 第2段階 規律なき拡大路線

  • 持続不可能な成長の追求と、大きさと偉大さの混同
  • 関連しない分野への規律なき飛躍
  • 主要なポストのうち、適切な人材が配置されているものの低下
  • 容易に利益を得られることによるコスト面の規律の緩み
  • 官僚制による規律の破壊
  • 問題のある権力継承
  • 組織の利害より個人の利害を優先

この時点で本業がどうして顧客に期待されているのかを再認識して、本業に集中していれば、また堅実な成長路線に戻ることができたかもしれない、という指摘です。

第3段階で間違え、第4段階でトドメが刺される

続く第3段階では、経営陣に届くデータが悪化し、経営陣の議論も立ち行かず、完全な合意型か独裁型になるそうです。また、判断の原因を外部に押し付けるようになったり、組織再編を繰り返すようになるとのこと。

■ 組織再編とリストラを行うと、何か生産的なことをしているとの錯覚が生まれかねない。企業はいつでも組織を動かしており、組織の進化ではこれが当然である。しかし、悪いデータや警戒信号に対応する時に組織再編を主要な戦略として使うようになると、否認の段階に入っている可能性がある。深刻な心臓疾患やガンの診断を受けたときに、リビング・ルームの家具を並べ替えて対応するようなものである

理想的な組織などというものはない。どのような組織構造にも利点と欠点があり、どのような種類の組織にも非効率的な面がある。我々の調査では、あらゆる状況で理想的だといえる組織構造は見つかっておらず、どのような組織構造をとってもリスクや危険が消えることはない。

だいぶ辛辣です。ここが最後のチャンスです。

第四段階は、具体的に業績の低下が明らかになっているので、博打をうつような施策が出てきます。カリスマ経営者、新技術、大型買収など。第6章の表を引用します。

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しかし希望はある

経営資源を使い尽くす前に本業に回帰して、経営規律を回復すれば、復活した例もあるとのこと。第8章はこの点を論じていて、一文一文が檄文のようです。

■ 真に偉大な組織がそこそこ成功を収めているにすぎない組織と違う点は、困難にぶつからないことではない。一時は後退しても、壊滅的な破局にぶつかった時ですら、回復して以前より強くなる能力をもっていることである。偉大な国は後退しても回復しうる。偉大な企業は後退しても回復しうる。社会セクターの偉大な組織は後退しても回復しうる。そして偉大な人物は後退しても回復しうる。完全に打ちのめされて退場するのでないかぎり、つねに希望がある。

少しだけ感想

ということで、ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階のメモでした。
衰退する原因は様々な経営環境の変化なのでしょうが、拡大期の失策によって、衰退が加速されるというのは納得でした。景気の雲行きが怪しいいま、読むべき本だった気がします。

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