角川書店さまにご恵投いただきました。
スクラムのコミュニティのカンファレンスを手掛けるようになって長いですが、源流はオープンソースコミュニティのカンファレンスや勉強会です (ブログを古くたどるといろいろ出てくるかと思います)。
本書は20年以上をオープンソースコミュニティで過ごしてきた著者が、オープンソースの成り立ちやライセンスの種類から、参加方法、コミュニケーション方法、イベントの運営や参加の心得、会社からオープンソース活動に参加するための説明方法まで、とても実践的に指南してくれている本です。
オープンソースは多くの人の貢献から成り立っているコミュニティなので、文化とか、コミュニケーションがとても重要になります。ソフトウェアを開発するという部分はきわめて技術的な作業でありながら、お互いを尊重して、貢献から大きな力を生み出していく、ある種の政治が必要な部分は、最初はなかなか理解が難しいところかなと思います。
私たちのコミュニティも、主たる成果物はオープンソースプロジェクトではないものの、多くの文化をオープンソースコミュニティから学んで、取り入れてきました。本書はその点を思い起こさせてくれますし、新たに参加する人、運営する人にも読んでいただきたいです。
なお、FOSSというのは、本書でフリーソフトウェア(GNUライセンスなどのコピーレフト型で、改変者にも公開を強制するタイプ)とオープンソース(MITライセンスやApacheなどより緩い利用を許すタイプ)の総称として使われている用語です。
「第8章 FOSSは人のことである」はコミュニティやミートアップでの行動や、開き方についての部分です。カンファレンスに関わる方にお勧めしたいです。
第8章 FOSS は人々のことである
すでに気付いているかもしれないが、本書の大部分は他者との交流の方法やヒントを説明している。FOSSにおいて最も重要なのは、コードではなく人々だからだ。FOSSに貢献するというのは、コード、デザイン、ドキュメントを作るだけでなく、コミュニティに参加するということでもある。ソフトウェアを利用可能にするのはライセンスだが、ソフトウェアを作っているのは人々であり、人々はコミュニティがサポートしている。この関係性が失われると、全体のシステムが壊れてしまう。
この章でのふるまいの記述や、コミュニティの内側に徐々に入っていく(正統的周辺参加といわれるやつと重なる)話は、みんなでカンファレンスに参加する前に話し合うといいかもしれません。
本書では以下の図が出て来ます。それぞれ貢献や経験の度合いの違う人々がどのようにコミュニティを形成しているかということの説明ですが、一方で、参画スタイルの変遷も示していて、新しく来た人は、外側、オープンソースプロダクトの利用者からだんだん貢献の度合いと人間関係を深くして、中に入っていくわけです。もちろん、途中で中に入らなくなって止まる人も、出ていく人もいます。じっくりと、貢献とフィードバックを確かめながら、コミュニティでの立ち位置を深めていくとよいのだろうと思います。

初めてカンファレンスに参加する時には、まさに以下のアドバイスがありがたいと思います。
8.2.2 セッションよりもネットワーキングを優先する
FOSSプロジェクトのカンファレンスの目的は、コミュニティで集まり、学び、作業することである。そのために、チュートリアル、ワークショップ、講義、司会付きディスカッションなどのブレイクアウトセッションが企画され、トピックが似ているセッションはトラックとしてまとめられる。はじめてカンファレンスに参加するのであれば、すべてのセッションに参加したくなるだろう。もちろんそれも可能でだが、一つ秘密を教えよう。すべてのセッションに参加する必要はない。もっと価値のあることをしているのであれば、セッションをスキップしても問題ない。「もっと価値のあること」とは何か?それは、廊下トラックと呼ばれるものである。
廊下トラックとは、公式に企画されたセッション以外の学びの場である。たとえば、廊下、スポンサーブース、コーヒー飲み場での会話のことを指す。多くの参加者は廊下トラックで多くのことを学んでおり、イベントで最も価値があると考えている。メインセッションでも多くのことを学べるが、廊下トラックではセッションを座って聞いているだけでは出会えないような人たちや会話に出会える。こうした会話では、コミュニティ、プロジェクト、業界について多くのことを教えてもらえる。ここで、将来の友人やメンター、時には次の雇用主が見つかることもある。
次の章での「クソったれ (asshole)」への対処方法などは、短くまとまっていて、他の人と一緒に読んで、自分たちの文化を確認しあうと、事態の悪化を避けられる可能性がちょっとだけ上がるかもしれません。
9.7.4 コミュニティの政治
「過剰に反応するコミュニティ」のセクションからもわかるように、FOSSプロジェクトのコミュニティは政治的な問題を抱えることがある。2人以上の人間がいれば政治的な問題が発生すると言われるが、FOSSのメンテナー、コントリビューター、ユーザーは非常に情熱的な集団だ。その情熱が対立を引き起こし、対立が政治的な問題を引き起こす。もちろん、すべての政治が悪いわけではない。人間は政治的な生き物であり、そのおかげで素晴らしい成果をやり遂げてきた。だが、政治が引き起こす、あまり好ましくない結果もよく知られている。
よく見られるのは、プロジェクト内の派閥争いだ。この派閥はこの意見を持ち、その派閥はその意見を持ち、あの派閥はあの意見を持つ。具体的な意見が何であれ、他の2つの派閥がやろうとしていることには反対する。もうひとつよく見られるのは、野心的なメンバーによる帝国の構築だ。権限を保持することと同様に、他人から重視され、認められることが人生において重要だと考えている人たちがいる。FOSSプロジェクトの小さな権限(ロードマップの設定や変更の承認など)でさえも、それを利用して自分の目的のために他人や貢献を操ろうとするのである。
コミュニティにはいろんな人がいて、その多様性の良い面が大事なのだけど、逆に、未熟というか、コミュニティには適さない考え方やふるまいをしてしまう人も、ごくたまにいるのは否めないわけですが、まず悪い行動を顕在化させないことが大事で、「まああの人だから仕方ないか」で済んでるうちはいいし、学びのチャンスだと思います。
でも、どうしてもそういう枠内での行動に納得できない人もいて、いずれはコミュニティから離れていくのでしょうけど、それまでしばらくは、それなりに周りが疲れてしまうような行動をとってしまうことがあるのかもしれません。
本書はそのような場合の「クソったれ(asshole)」との付き合い方や、疲れた時にコミュニティから一時的に離れる方法などにも言及しています。
自分も「クソったれ(asshole)」になってしまうこともありえますので、思う通りにならない時には一旦距離を置いて冷静になるのが大事でしょう。
従来、OSSコミュニティの運営について、うまく表現した話が「伽藍とバザール」で、以下の本に収録されていたり、他にも翻訳を山形先生が公開してくれています。
本書は、そこから20年たって、実践的で網羅的で、かつコンパクトな指南書として、まとまっている本だと感じました。
また、日本のOSSの代表格RubyのMatz(まつもとゆきひろ氏)との対談を元にしたこの記事も読みやすくておすすめです。
本書のAmazonリンクはこちら。


























