イノベーションのDNA The Innovators' DNA の感想を書きます。

イノベーションのジレンマ」で世界を変えたクリステンセン教授の最新刊「イノベーションのDNA」の日本語版がでていましたので、感想を書きます。

イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル (Harvard Business School Press)

イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル (Harvard Business School Press)

イノベーションのジレンマから、イノベーションのDNAへ。観察から実行へ。

イノベーションのジレンマ」というのは、優れた企業がいかに論理的に失敗するか、というメカニズムを知らしめた本で、あまりにも有名だ。ざっくり一言で言うと、「企業は、正しい顧客志向によって、中長期的に失敗する。トップランナーとなった企業は、顧客から要望を集めて製品を改善していく。これはうまく機能し、企業をトップの位置にいることを保証し続ける。品質は最高だ。顧客はより高い品質を求めて意見を出す。企業は価格を維持/向上するため、それに応えていく。収益が上がっていく。気がつくと、低品質、低コストの競争者が現れる。彼らの品質は低い。中長期的にはその低品質の競争者の品質が向上し、顧客のニーズを満たしてしまう。気がつくと、トップ企業は高価格、過剰品質の製品を作る企業になってしまう。このメカニズムは、分かっていてなかなか変えられない。企業トップはイノベーションを求め、開発者が挑戦と実験を繰り返しても、意思疎通の段階でそういった雑多な情報は選別されてしまう。末端の開発者のちょっとしたイノベーションは、企業トップに届かずに終わってしまう。そして、低コストの競争者の発生は避けられない。対策としてできるのは、低コストの競争者を社内で作ることだ。つまり、"社内ベンチャー"だ。」ぜんぜん一言ではないし、だいぶ誤解している気もするけれど、そういうことなんじゃないかと理解している。

で、組織論は分かったけど、疑問になるのは、組織に属する一個人として、私はどうしたらいいのだろう、ということだ。企業の中でスカンクワークス(こっそり開発)で何かを始めるのはいいとして、それをどうやって組織に反映すればいいのだろうか。そもそも「意味のある」イノベーションを起こせるようになるには、どうしたらいいのだろうか。

サッカーゲームで言えば、「サカつく」で戦略思考が分かったときに、「リベログランデ」で個人視点でどうしたらいいのか、ということになるのではないかと思う。後者はやったことがないけど、多分そういう感じじゃないかと思う。サッカーでは同時にボールに触れるのはほぼ一人だ。しかし90分のゲーム中、チームの人々は常に動いている。フォーメーションや決めごとは練習で培い、本番では特に大きな声で指示しなくても、連動して動く。大きな試合だと歓声でまったく指示は聞こえないが、FCバルセロナの選手達にはそんなことは関係ないようだ。視覚による情報認識だけで、極めて流動的に人が動き、相手の裏をかき、少ないボールタッチでありながら、ボールを完全に支配下に置いてしまう。

だいぶ脱線したけど、そういう個人視点の本があるといいなあといつも思う。成功者の伝記は面白いし参考になるけど、客観的視点は疑問だ。状況も違うので活かせないことも多い。ハウツー本もたくさんあるが、合う合わないが激しい。その中で、この本は、インタビュー調査に基づき、コアになる要素を抽出している点で、とても価値があるのではないかと思う。そして、得られた結論が「極めて当たり前、しかし、実践が難しい」というのも非常に好感が持てる。例えば、質問力がだいじなのは、誰でも知っていることだけれど、ストーリーを持って説得してくれると、それを確信することを助けてくれるし、そのストーリーによって、他者に価値を伝えやすくなる。( ...また脱線)

というわけで、イノベーションのDNA

この本の骨子の要約がきちんと本の中(P.4)に書いてあったので引用する。なんとなく原著も引用する。

イノベータが人と違う考え方ができるのは、「人と違う行動」をとっているからこそだ。すべてのイノベータが、常に疑問を持ち、現状に風穴をあけるような質問を頻繁に投げかけていた。世界をこの上なく熱心に観察している人もいた。多彩な人たちとのネットワークを築いた人もいた。実験を軸にして、イノベーション活動を進めている人もいた。これらの行動、つまり質問、観察、ネットワーキング、実験は、継続的に携わることで、新しい事業、製品サービス、プロセスの源泉である、関連づけ思考を刺激する。一般に、新しいアイデアを生み出す能力は、純粋に認知的スキル、つまり頭の中だけで完結するスキルだと思われている。しかしわれわれの研究は、革新的なアイデアを生み出す能力が、知性だけでなく、行動によっても決まるという、重要な洞察を示している。これは誰にとっても喜ばしい知らせだ。誰でも行動を変えることで、創造的な影響力をますます発揮できるのだから。

But to think different, innovates had to "act different." All were questioners, frequently asking questions that punctured the ordinary. Others networked with the most diverse people on the face of the earth. Still others placed experimentation at the center of their innovative activity. When engaged in consistently, these actions -- questioning, observing, networking, and experimenting -- triggered associational thinking to deliver new business, products, services, and/or processes. Most of us think creativity is an entirely cognitive skill; it all happens in the brain. A critical insight from our research is that one's ability to generate innovative idea is not merely a function of the mind, but also a function of behaviors. This is good news for us all because it means that if we change our behaviors, we can improve our creative impact.

個人スキルとしてイノベーションを起こすリーダー像に迫るのがこの本の目的である。調査の結果、5つの特性(質問、観察、ネットワーキング、実験、そして、関連づけ思考)が特徴として挙げられ、それぞれ詳細な方法とと、能力を伸ばすヒントを挙げていく。世界的に著名なリーダーのインタビューを交えているのが特徴だ(世界的に著名な先生だからこそできる技だと思われる)。

P.203 補完的なスキルを持つ人材でチーム/組織を編成する

第2部ではチームに言及している。

五つの発見力に優れた人材をチームや組織に集めることは確かに大切だが、発見志向型の人材さえいればよいというものではない。組織を手っ取り早くダメにする方法は、実行をやめてしまうことだ。結果を出すのがうまい人材の実行力を必要とする。イノベーティブなチームを巧みに率いるリーダーは、自らの発見力と実行力の構成を知り、自らの弱みを他のメンバーの強みによってしっかり補っている。

以上を要約すると、世界で最もイノベーティブな企業には、イノベーションを深いところで理解するリーダーがいる。リーダーは優れた発見力でイノベーションの陣頭指揮をとり、絶えず画期的なアイデアを提供する。実行志向型のトップがいる企業の幹部がこぼしていた。「実行にとらわれていたら、社員は胃のベーティブになれない。そんなことでうまくいくはずがない」 (中略) 発見志向型と実行志向型の人材が互いに影響し合い、学び合い、支え合うことで、イノベーションの強力な相乗効果を生み出す土台ができる。

これはまさにスクラムがクロスファンクショナルチームを推奨する目的そのものだし、プロダクトオーナーとチームの関係にも似ている。発見を提供できないプロダクトオーナーに何の価値があるのだろうか?

※チームでイノベーションを起こすための多様な人材については、「100人のプロが選んだソフトウェア開発の名著 君のために選んだ1冊」で紹介したIDEOの本がとても参考になる。私の分の原稿はこちらに置いている。

P.257 哲学その3 -- 少人数の適切な構造のイノベーションプロジェクト・チームを配備する

グーグルの例を出して、イノベーションチームの説明をしている。革新的なイノベーションは、現状の組織体制からは、独立した小規模チームで生まれる。という話だ。このあたりは、スクラムの源流、1986年の野中竹内論文 "The new new product development game" でもはっきりと描写されている。近著「イノベーションの知恵 asin:4822248291」でもストーリーを持って語られている。80年代から、日本では、そういうことが極めて当たり前なのに、なぜかできない企業が多いのではないかと思う。空気を読みすぎる、まじめすぎる、というところがあるのかもしれない。「許可を求めるな、謝罪せよ」が足りないのかもしれない。「Fearless Change」が実践できずに力つきるのかもしれない。トムデマルコの言う「病んだ政治」によってスモールチームがつぶされているのかもしれない。単に「小さなチーム、大きな仕事 asin:4153200115
asin:415209267X 」を読んでないだけなのかもしれない。

熱くなってすみません。

イノベーションのジレンマイノベーションへの解

イノベーションのジレンマについては、この記事の最初の方で書きましたが、非常に重要な本ですので、企業組織に属している人は一回目を通されるといいと思います。上司が正しいと思っちゃいけません。彼らもきっと悩んでます。

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)

イノベーションへの解 利益ある成長に向けて (Harvard business school press)

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