How to Change the World 〜チェンジ・マネジメント3.0〜 を出版しました。

共訳で翻訳書を出版いたしました。昨日、達人出版界さんの書籍ページがオープンし、購入が可能になりましたので、ぜひともよろしくお願いいたします。

How to Change the World 〜チェンジ・マネジメント3.0〜
http://tatsu-zine.com/books/howtochangetheworld

一緒に翻訳していただいた、前川さん、吉羽さん、時間のない中レビューコメントを寄せていただいた、原田騎郎さん、高江洲さん、永瀬美穂さんに感謝いたします。

前書きは、ストーリーテリング本 "Springboard" の スティーブ・デニング

本書の最初にあるのは、ストーリーテリングブームの火付け役といっても過言でない、スティーブ・デニング氏の前書きです。これがまさにスプリングボード(踏切台、跳躍台)になっています。なぜこの本を読むべきか。何が課題なのか。

世界が変化を必要としていることは、秘密でもなんでもない。この小さな惑星を見渡してみると、私たちが苦労して作り上げた組織は、働く人の希望を失わせ続け、成果を利用する人をいらつかせ続けている。新たに職場に入る若い人たちは、この世界は本当に意味のあるものが存在しない空っぽな場所だと思うようになってきている。

ひいきめに見ても、私たちの組織は失敗している。今日のリーダーがいかに自信を持って宣言したところで、今の組織の生産性は低下し、廃業、倒産は増え続けていることは明らかだ。20世紀にうまくいった方法は、もはや私たちの役には立たないのだ。

同じように、20世紀に私たちが変化を起こしてきたやり方も、失敗しつつある。かつて導入されたような、トップダウン方式で承認手続きが8階層なんていう変更プログラムはすでに信頼性を欠いている。ましてやそれが、本当に必要とされるものや、人々がそこに在りたいと望む有意義な未来を作り出してくれるものだなんて、誰も信じていない。

幸運なことにJurgen Appeloがいた。彼の書いたこのハンドブックは、新たに生まれつつある世界でいかに変化を起こすかについてとても大きな助けになる。これは、人々の心と魂を結びつけるためのキラキラした変化の話だ。そしてトップのエキスパートだけでなく、全員の才能と創造性を引き出す変化の話だ。

組織や社会を変えるには、戦略がある

今世紀のマネジメント手法は、特定の天才やリーダーがアイデアを出し引っ張る形式から、チームとしてアイデアを出し自律的に進んでいくパラダイムへと変化してきました。デザイン思考やスクラムは、全てを抱え込む孤独なリーダーから、多様な専門家が集まる創発的なチームへと、その軸足を移しています。

最高経営責任者(CEO)の椅子がどんなに大きくとも、組織は所有者が運転できるマシンではない。組織は社会ネットワークだ。人々は、企業の階層内の全てのレベルを超えて互いに対話する。

このために、筆者は「チェンジ・マネジメント3.0」というモデルに戦略をまとめました。それぞれの部品は、筆者が考案したものではありませんが、本書ではそれぞれについて分かりやすく説明しています。

企画と実践とメトリクス = PDCAサイクル

筆者はエリックリースのBuild-Measure-Learnなども参照しながら、やはりデミングらのPDCAサイクルを使い続けると言っています。

システムとのダンスはリードすることとフォローすることである。方向性を計画し、ステップを踏み、反応を見地し、成功を評価する継続的なサイクルだ。また予想、適応、探索を兼ね備えている。

この場合、"Plan" が何を意味しているか、という点に注意しないと、実体を読み違えると思います。筆者にとってのPlanは、「何を行うか」という根源的な目的について考え、議論し、合意しよう、ということです。詳細な実行スケジュールやマイルストーンを作り上げることは意味していない点にご注意ください。

そして、実行の後にはフィードバックを貰い、結果を測定することを推奨しています。

コメントをもらうことは素晴しいが、定性的なフィードバックだけでは十分でないことも多い。(中略) どうしたら「アジャイルになる」や「学習する組織である」のように抽象的なものを測定できるだろうか?

それぞれの人に変化を起こすための仕組み = ADKARモデル

人が変化するにはプロセスがあります。ADKARはそれをモデル化したものです。まず最初のAはAwareness つまり、認識してもらうことです。

チェンジ・プログラムにおいて人々を動かすためには、あなたがいくらそれを緊急であると考えたとしても、例えば「別のやり方をしなさい、来週の月曜から。」などと告げるだけでは不十分である。

人に変化してもらうためには、自分で変化したのと同じプロセスを、より効率的に提供する必要があるはずだし、それには時間も順番も重要です。

人々の変化のプロセス = イノベーション普及曲線

100人の人がいれば5人くらいは、それが目新しいこと、ということだけで手伝ってくれたりします。しかし、多くの人はその5人を「変わった人」だと思っているので、その説得を聞こうとしないし、「変わった人」も普通の人をあえて巻き込もうとも思わない(慣れっこになっている)わけです。

組織とはネットワークであり、社会の複雑系システムではいつでも、なんらかの行動はウィルスのように伝播していく。アジャイルマニフェストが言うように、個人と相互作用こそ全てなのだ。組織のチェンジ・エージェントになりたいなら、ネットワークを把握しておけば、変化への抵抗に打ち勝ち、社会システム全体を変えるのに役立つだろう。

チェンジ・エージェントは組織にとって必要な変化のきっかけを作る人です。これまでも多くの組織を変化させてきた(チェンジエージェントの自覚があったかどうかは別として)でしょう。多くの場合、組織の中で、一番最初に、変化の必要性に気付いてしまった人だったりするのではないかと思います。つまり、周囲には「その」変化に向かうべきと考える同志も上司も経営者はいない状態からはじめるわけです。それでもはじめますか?はじめるならば、どこからはじめますか?

舞台装置を整える - 環境づくり

変化を持続的なものにし、人々を引きつけ続けるには、舞台装置が必要です。
分かりやすい目印、問題を素早く知らせる情報ラジエーター、振る舞いと結果に対する褒賞、障害を取り除くこと、組織とルール...。

まとめ

本書は多くのことをコンパクトにまとめていますので、各章はまた別の専門書をあたった方がよいということもあるでしょう。時間もなく、権限もなく、毎日は忙しく、どうしていいかわからなくなるかもしれません。でも、ひとつだけ覚えておくべき言葉を、最後に引用しておきます。

チェンジ・エージェントが全身全霊をかけてコミットしなければ、変化を起こす努力が成功に結びつくことはない。

本書が役に立つことを祈ってます。