Regional Scrum Gathering Tokyo(RSGT)の運営で選択してきたこと

1月14日のパネルディスカッション「技術カンファレンス主催者のリアル〜RSGT、pmconf、emconf〜」に向けて、Regional Scrum Gathering Tokyo(RSGT)の運営で選択してきたことを整理しました。

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「こうすべき」という話ではなくて、「こうやってきた」という共有です。他のカンファレンスとは文脈も規模も違うので、何か考える材料になれば幸いです。

 

大前提:ボランティア運営とGathering

まず前提として、RSGTは全員ボランティアで運営しています。実行委員も当日スタッフも、誰も給料をもらっていません。本業の傍ら、この場を作ることに時間を使っている。

そして名前の通り「Gathering(集まり)」なんです。ドラマ「アウトランダー」に出てくるスコットランドのクラン(氏族)のギャザリングをイメージしています。数年に一度、氏族が集まって宴会しながらいろんなことを決めたりもする、あの感じ。基本は数百名が一カ所に集まって宴会するんですよ。日本で言えば地方のお祭りのイメージですね。お祭りには今年のテーマもなければ、主役もいない。正しい主張だから人が集まるのではなく、利益を得られるわけでもなく、ただ、話し合って学びたくて、楽しいから来てる。

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長年の関係が基本にあって、もしかしたら閉鎖的に思えるかもしれないけど、旧交を温めあってこれからの未来を考える。一方的に聴講するConferenceではなくて、参加者同士の交流を中心に設計しています。廊下での立ち話、懇親会での出会い、セッション後の議論。そういう「人と人がつながる場」を大事にしています。

 

比較優位で語らない

RSGTでは「あの人はすごい」「このセッションは人気」という序列や比較の文脈を持ち込まないようにしています。

登壇者も参加者も「実践者」として対等。スター講演者で集客するという発想がそもそもない。Likeの数だけでプロポーザルの採否を決めることもしません。あと、表彰なども、いまのところ、していません。アメとムチで差別化して外発的動機付けで人をコントロールしない、というのがスクラムチームの基本かなと思う部分もあります。

これは意図して設計したというより、一つ一つの選択を積み重ねた結果そうなっていった、という方が正確ですね。

外発的動機付けを排除する設計

RSGTには、外発的動機で来る人が来づらい設計になっています。

  • スポンサーに参加者リストを渡さない
  • 報告書も出さない
  • 講演は後日YouTubeで全て公開する
  • 66,000円で3日間という価格設定

この価格は昨年、新会場羽田空港に移る準備として、その会場代が上昇することに合わせて値上げをさせていただいた後の値段になります。多くのコストをご負担いただくことになってしまい、大変恐縮です。ですがスタッフはボランティアですし、営利を目指した運営もしていませんので、単純にコストと不確実性を加味した上での料金を考えたうえでのこの価格になっています。

一日2万円強。これは実は2011年に初めて開催したとき、当時のドル円レートで米国のカンファレンスを評価した際の一日あたり価格とだいたい一致するのですが、円が50ポイント下落したので、まだ海外と同じ基準の価格設定というわけではありません(こわい)。

リストが欲しいマーケティング担当さんや、発表で名を売りたい人、一方的に情報摂取だけしたい人などもいらっしゃるかとは思いますが、そういう方にとっては、来るメリットが相対的に薄くなっているのではないかと邪推しています。

スタッフはすべてボランティアの実践者ですので、そのコストをできる限り生産的で、かつ貢献する本人の納得するように活用していただきたいと考えています。ですのでいわゆる「顧客サービス」のような部分はあまりリソースを割いていません。お金で解決できる部分でもある気がしますが、だからといってカスタマーサポート担当さんを雇ったりということはしないつもりです。配信や会場担当、パーティやコーヒーや写真家さんなど、もちろんスタッフさんをお願いしないわけではないですが、できる限り自分たちでできることはする、という原則で、色々模索しながらやってみています。

そうした試行錯誤の結果、内発的動機で来る人が多く残ってくれているような気もしますし、そうなったらいいなと思っています。スポンサーをしてくださる企業のみなさんすらも「この場所に学びに来る姿勢を見せる」ことで、結果として良質な採用につながる、というような、正のフィードバックが効いたらいいなと考えています。

自己組織化と「ある程度の不便を受け入れること」

顧客サービスがないので、丁寧な文書での説明や、入り口での大声でのアナウンスが足りていないかもしれません。でも「いつも来てくれる皆さん」は、問題なく動けている気もします。さらに言うと、そうした皆さんが、新しく来た方々と繋がって、親切にご案内してくれたりしています。そうしたつながりが、会の外でも新しい活動につながっていくのではないかと期待しています。スクラムの基本は全員が貢献者であり、専門性を持った個人の集まりで、自己組織化によって構成されます。できる限りコマンド&コントロールは避けたいじゃないですか。もちろん多くの皆さんがスクラムマスターのスキルを持っていることも、この会の特異性かなと思います。できるんだからお任せしたほうがいいと思います。

一方で、自己組織化とは、ある程度の不便を受け入れることかもしれません。事細かに全部説明することもしません。スクラムでは、メンバーを子供扱いしないことも重要で、学びはメンバー相互の協調から得られるものです。優れた皆さんが、自分からチームに貢献する、その方法を見出していただく。それを信頼しています。

物は言いよう、というツッコミも聞こえてきそうな気がしますが、割と純朴に、時には熱心に、こうした自己組織化の原則を考えている自分がいます。正解かどうかはわからないので、いつでもフィードバックいただければ幸いです。

正統的周辺参加

人は専門知識を身につけるときに、組織の外延から参画して、徐々に学びながら、活動しながら、徐々に中心に向かっていく。

「残念だったなー」があっても焦らなくていいんです。来年も、その先もある。

初めての登壇者も多いです。失敗しても大丈夫な場として設計しています。

脱予算経営

RSGTとスクラムフェスでは、年次予算を組んでいません。

キャッシュフロー見える化と相互扶助。各地のスクラムフェスが自律的に判断して、承認プロセスがない。赤字なら他のカンファレンスから借りる、黒字なら助ける。「票読み表」で月単位の収支を全カンファレンス横並びで把握しています。

全員ボランティアで給料がないから、格差も競争も生まれない。部署間の攻防戦が起きない。

予算という仕組み自体が外発的動機付けを生む構造(予算の取り合い、数字で評価)なので、それを外しました。

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膨らませすぎない

いきなり膨らませてしまうと、割れるのも早くなります。内部のよさを磨きながら、それでいて機会を逃さず、少しずつ活動を成長させていく。

お祭りの熱狂が引くのは一瞬のことです。しかし、多くの方の心の中に灯った種火は、これからの行動の糧になる。

みんなが飽きて来なくなるまで、RSGTがRSGTであり続けたらいいな、と思っています。

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分散イノベーション心理的安全性

私たちのコミュニティは多様性を持っていて、それぞれ興味がある人が、先行して検証や投資を行い、新しい取り組みを立ち上げていくモデルです。

聴覚障碍者向けの情報保障、地方へのカンファレンス伸展、英語トラックを作る。これらは全ての実行委員や関係者が興味を持っていたわけではなくて、一部の熱意ある実行委員が先行して検討や人脈づくりを進めました。

他の実行委員は、冷ややかな目で見るのではなく、無理なく、見守る、サポーティブに対応した。困ったら助けてくれそうな心理的安全性がある。やりすぎそうなら止めてくれそう。やり遂げなくても、チャレンジに対して評価して、非難することはない。

こうした態度は、短期で集まった人間関係ではなかなか醸成されません。長期安定のチームがキーポイントだと考えています。

人を通じた浸透

スクラムの日本への伝来は、書籍やトレーニングだけでなく、人を通じて広がってきた側面があります。

野中郁次郎先生がSECIモデルをスクラムに結びつけ、本間日義さんがホンダの「ワイガヤ」文化とスクラムの接点を語り、Jeff Pattonがユーザーストーリーマッピングを持ち込んだ。

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RSGTはそうした「人と人が出会う場」として機能してきました。一人のエンジニアが参加して学び、実践し、やがて自分も発表する側になり、影響力を持つようになっていく。そういう循環が各地に広がっています。

背景にある考え方

いくつかの理論や考え方が、設計の背景にあります。

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アセモグル &ロビンソン(包括的制度とイノベーション — 特定のリーダーが引っ張る社会ではなく、みんなで作る社会の方が長期的に繁栄する。包括的制度では多くの人が参加でき、イノベーションが生まれる。

Google re:Work(心理的安全性) — 効果的なチームの最も重要な要素は心理的安全性。リスクを取っても安全、失敗しても非難されない、質問や意見を言っても大丈夫。心理的安全性があるから知的コンバットができる。

Fearless Change — 変化を起こすためのパターン。トップダウンではなく、草の根から変化を広げていく方法。

Growth Mindset(Carol Dweck / Linda Rising) — 能力は固定ではなく成長できるという信念。失敗を学びの機会と捉える。

Scaling up Excellence(Bob Sutton) — 質を保った成長戦略。成長にブレーキをかける勇気。

再現性について

正直なところ、これをゼロからブートストラップできるかどうかはわかりません。

意図して設計したというより、運営に負荷がかかるものをやめてきた結果、こうなった。

ただ「何を優先してきたか」は言語化できる気がします。それを書いてみたのが、今回のブログです。クネビンフレームワークにおける、複雑領域だと思いますので、透明性・検査・適応を繰り返しているつもりです。

いま現在だと、個人的に大変だとは思ってないですけど、まあまあ手数も判断も多くて簡単な仕事でないのは確かです。多くの皆さんでうまいこと回ってる繊細な仕組みには違いないと思います。「そんなのはダメだ!」って大声で叫ぶ人がいたらそれだけで崩壊しそうなくらいには繊細だと思います。私、声はデカい方ですけど。


1/14のパネルで、pmconfの久津さん、emconfの岸田さんの話を聞くのが楽しみです。

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