AsianPLoP 2011 に参加しました
AsianPloP 2011 という、パターンランゲージについての国際的なカンファレンスに参加しました。
パターンランゲージとは
パターンランゲージというのは、すごくざっくり言うと、建築家クリストファーアレグザンダーが提唱した参加型の建築設計の仕組みのことです。一人の建築家が芸術作品として建築を行うのではなく、利用者自身が積極的に関わり、建物や待ちを作り上げていきます。そこで建築デザインという言語による形式知化が難しいに領域にプロセスを持ち込み、利用者自身の言葉で表現しようと試みてきました。これを、ソフトウェア開発に取り入れた人々が Hillside Group というグループを作り、始めたカンファレンスがPLoPです。その後、ケントベックらのXP(eXtreme Programming)、エリック・ガンマらGoFによる「デザインパターン」、ウォードカニンガムのWikiWikiWeb( いわゆる Wiki のルーツ) など、多くのムーブメントにつながっていきます。 (このあたりは 『パターン、Wiki、XP』がオススメです)
パターンの「カタログ」形式で書かれた本も多く、「デザインパターン」と銘打たれた書籍は無数にあるし、Jim Coplien "Organizational Pattern"、Mary Lynn Mans and Linda Rising "Fearless Change", Dave H. Hoover and Adewale Oshineye 柴田訳 「アプレンティスシップ・パターン」など、名著がたくさんあります。さらに、スクラムの最初の発表も PLoP 95 で行われており、パターン形式で記述されたそうです。
今回のAsianPlopは2回目で規模はたぶん40-50名くらいです。30-40%くらいは海外の方で、英語が公用語でした。英語が公用語のソフトウェアのカンファレンスの機会を探している人に取っては、この参加費は破格だったと思います。
パターンを書くプロセス
今回参加したのは形式知を作る方法としてパターンは一体どうなっているのかを知りたかったからです。私が理解した限りでは以下の手順でした。
- 1.ブレインストーミングを行い、元となるパターンを書く
- 2.ライターズワークショップを行ってパターンを洗練する
ステップ1.ブレインストーミングを行い、元となるパターンを書く
一つのパターンは、一つの「なにかを解決する方法」を表します。基本的なパターンの項目は以下の通りです(「Fearless Change」より )。
- Summary 要約
- Context 状況
- Problem 問題
- Forces フォース (そこに作用している力 )
- Therefore 解決方法
- Resulting Context 結果状況 (良いものも悪いものも)
- Known Uses ケーススタディ
今回のチュートリアルセッションでは、飲み会パターンを書いてみました。たくさんでたアイデアの中から、特に解決方法としてみんなやっているものを取り上げ、一つのパターンを記述しました。ここで誰か一人がうまく行ったと主張するパターンではなく、何人かに共通の体験があるものを選ぶことが大事です。グループでやりますので、グループで洗練していく価値がある、共通で再利用可能な知識を扱いたいのです。(個人の発明やノウハウを否定するものではありません)
私たちは「2時間ドラ 2-hour gong」というのを書いたのですが、この解決策は複数の問題を解決できると信じていました。しかし、Josh Yoder師匠は「メインの問題はなんだ」と聞きます。パターンでは、基本的に一つの問題を解決する方法に絞って記述するようです(もちろん結果状況で各種の好影響を書くのは問題ないとの理解です)。一つ一つの解決方法の優劣を競うのが目的ではないので、シンプルに記述し、議論しやすいようにする、ということではないかと推測します。
また、どのパターンから手を付けるかというのも重要です。皆さんの時間を無駄にしないよう、最初に最も重要だと考える、かつ記述可能な解決方法を選んでいく必要があります。書いて議論することがゴールなので、議論する意味のないものは避けたいですし、書けないものは論外です(書けるようになったら書けばいいので)。
ステップ2.ライターズワークショップを行ってパターンを洗練する
パターンやパターンのつながりであるパターンランゲージが書けたら、シェファーディング(査読)やライターズワークショップを行って、内容を洗練していきます。今回私はこのプロセスには参加できませんでしたので、ぜひこちらの説明を読んでください。
http://patterns-wg.fuka.info.waseda.ac.jp/asianplop/japanese.html
パターンに書かれた形式知だけが情報ではない
上記のようにパターンは、「複数の人の中でうまく行った方法を書き出し」、「多くの人の手で洗練されて」、完成していきます。言葉にできるのは非常に限られていますから、その底辺には無数の暗黙的な知識 (tacit knowledge) が息づいています。このため、できる限りパターンの説明にはストーリーを用いて文脈が伝わりやすいように配慮します。
パターンから学習する際も、パターン単体を文書として取り上げるのではなく、それを書いた人を招いて話を聞きながら読んだり、読書会を開いて他の人のストーリーを聞きながら学んでいくとよい、とのことです。ですので、パターン・コミュニティというものが重視されています(勉強会や読書会に参加される方にとっては、なにをいまさら、ということかもしれませんが、その感覚は正しい、と感じられる一つのヒントなのではないでしょうか)。