※楽天テクノロジーカンファレンスでお話いただく方の紹介をしてみたいと思います。概要の紹介はこちらにありますので、全体像を掴みたい方はぜひご参照下さい。
『職業は武装解除』
今回、企画側の一員として、一番頑張って実現したセッションは、この、瀬谷ルミ子さんの講演です。大変お忙しい方ですので、まだ残念ながらセッション概要は出ておりませんが、もうスライドとかトークとかなくてもいいから、来ていただけるだけで結構です、と思っています。
瀬谷さんは全くIT業界とは関わりのない、紛争地の復興を支援する活動を長らくされてきた方で、専門は DDR ( Disarmament : 武装解除, Demobilization : 動員解除, Reintegration : 社会復帰 ) という分野だそうです。内戦や紛争がおこると、しばしば国連のPKO部隊が派遣される、というニュースに触れた事がある方は多いと思います。自衛隊もしばしば後方支援などの名目で参加していますよね。PKO ( Piece Keeping Operation : 平和維持活動) は基本的には軍隊が中心となった Operation (作戦) なわけですから、戦闘が沈静化すれば、撤退することになります。問題はその後で、武器を持ってしまった軍閥やゲリラ部隊、自衛のために武器を持っている人達などから、武器を取り除き、もう元の部隊に参加しないようにし、職を持たせて社会復帰させていく過程が必要になってきます。 その活動がDDRです。
その情熱と凄まじい体験の数々は、『職業は武装解除』という本にまとめられています。
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もし万が一、瀬谷さんがカンファレンス会場にこられない場合は、この本について私が45分語ります。... 嘘ですごめんなさい。
「肩書きも所属も関係なく、身一つで現場に放り込まれても、変化を生める人間になる」
瀬谷さんは高校時代に偶然見た一枚の写真に引き寄せられ、世界の壁を乗り越え、ルワンダにホームステイをすることになります。ルワンダはご存知の通り、多くの人が大虐殺で亡くなる深刻な内戦のあった国です。そこにたどり着いた、一人の日本人学生。英語はぺらぺら。海外経験も積んできた。しかし、そこで発見するのは、自分の力の至らなさ。誰も助けられない、という現実でした。
要は、若造の私には彼らの問題を解決するスキルが何もなかったのだ。好奇心だけで人々の心の中を土足で踏み荒らした挙げ句、「良いことをした」と自己満足して帰国しようとしていた。もし本気で現地の人々の抱える問題の解決に貢献したいなら、そのための技術や経験が必要だという当たり前のことに、私はこのときようやく気付いたのだった。
「肩書きも所属も関係なく、身一つで現場に放り込まれても、変化を生める人間になる」
ルワンダを訪れた20歳のときに強く感じたこの思いが、私の仕事の目標になった。 (『職業は武装解除』 P.32-33 )
深刻なコンフリクト
その後、英国留学を経て、NGO職員としてはじめてルワンダ、次いでシエラレオネに赴くと、複雑な事情が現実のものとして目の前に現れます。その一つが、武器を手にとり、他人を手にかけてきた者が、優遇されてしまう不公平、それが生み出す深刻なコンフリクトでした。
犯罪に問われる恐れがあるのに武装解除や和平に応じるお人好しはいない。DDRで仕事を得ても、自分たちが逮捕される可能性があれば意味がないからだ。そのため、多くの場合、和平合意の際は武装勢力が武器を手放して兵士を辞めることと引き換えに無罪にすると明記される。(中略)
平和とは、時に残酷なトレードオフの上で成り立っている。安全を確保するためのやむを得ない手段として、「加害者」に恩恵が与えられる。(中略)
一方で、家族を失ったり、身体に障害が残ったり、家を失い避難民になっている「被害者」に、同じレベルの恩恵が行き渡ることは滅多にない。加害者の人数と比べて、被害者の数が圧倒的に多いからだ。(中略)
被害者達は、元兵士達の不満が爆発した時、犠牲になるのは自分たちであり、我が子であることがわかっている。そして、「平和」という大義のために、加害者の裁きをあきらめ、理不尽さを飲み込み、自らの正義を主張する事を身を切られる思いであきらめる。(中略)
日本には、当たり前のようにある「平和」という状況を、紛争地の人々は、我が身を削りながら、少しずつ積み上げて創り上げている。 (『職業は武装解除』 P.67-68 )
属する組織の名前も肩書きも、その人のなにを保証してくれるものでもない、ということ
そして、様々な組織を通じて、紛争地で活動を続けて来ました。
私は、外務省、国連、NGOと、自分の専門を軸にしながら、所属をそのつど変えて働いてきた。どの組織でも役に立てる人間は、現場のあらゆる問題に対処できる本質的な力を持つはずだと信じていたからだ。だから、どこの組織に所属しているかは、あまり重要視してこなかった。そして、その考え方は、正しかったと思っている。
自分がどれだけ立派な肩書きを持っていても、現場の人々の抱える目の前の問題を解決できなければ、紛争地では何の価値もない。 (『職業は武装解除』P.109)
現在は、JCCP(日本紛争予防センター)という日本のNPOの理事長として、活動を続けられています。
ここはテクノロジーカンファレンスです。
忘れてしまいそうですが、今回はテクノロジーカンファレンスです。IT技術との関連性のあるセッションを行うのが本筋です。実際、瀬谷さんの招聘を提案した時、実行委員の一人から「賛成できない。それはテクノロジーではない」という至極真っ当なコメントを頂きました。でも、そう問われてなお、案を取り下げることはしませんでした。なぜだか自分でもよく説明できないのですが、私がIT技術者として歩んできた道、これから歩んでいこうとしている道にとって、瀬谷さんの考え方や体験は非常に参考になる、という予感がありました。きっと、それは他の人達にとっても同じじゃないだろうか。全員じゃないかもしれないけど、10%くらいの人は同意してくれるに違いない。90%の人はこないかもしれないけど、やるべきだ、と強く思いました。
IT技術者の祭典、デベロッパーズサミットを10年間開催されてきた岩切晃子さんはよくこういいます。「世界を変えるのは、政治家か、デザイナーか、デベロッパだ」。ジェフパットンさんはいつもこう言います「私たちが製品を作るのは、世界をよりよい場所にするためだ」。私たちのカンファレンスも、技術的なことだけに留まらず、技術を使って何をするのか、ということを考えられる場を、ちょっとだけ用意したらいいんじゃないか、と思っています。そして、技術者にもファミリーがいます。ITに携わっていなくても、一緒に来て、少し楽しんでいって頂く会にできれば、という思いも込めて、このセッションをお届けすることになりました。
結果的に実行委員や、関連するエグゼクティブの人達にも後押しを頂くことができ、実現することになりました。本当に感謝しています。
Registration (来場者登録) の方法
楽天テクノロジーカンファレンスは10月20日(土)です。11時から受付開始(ランチ提供)、12時からセッションが始まりますので、早めのご来場をお願いいたします。
休日ですので、ご家族、ご友人とご一緒に!
ご登録は公式サイト右側の "Registration Form" から来場者登録をお願いいたします。
蛇足
あと、自分の周りや組織をよくしたいと考えられているかたは、『How to change the world 〜チェンジマネジメント3.0〜』という電子書籍も、とても参考になるとおもいます(ステマ)。
よしおかさんも日記を書いていた!