AsianPLoPでアレグザンダー建築の盈進学園東野高等学校に訪問した

コロナ後リブート開催のAsianPLoPのエクスカージョンで、埼玉県入間市にある東野高校に行ってきた。米国の建築家であり、パターンランゲージという取り組みで、アジャイルの源流に大きな影響を与えたクリストファー・アレグザンダーが設計したことで、界隈では知らない人がいない場所だ。(ただし界隈はそんなに広くない気もする)

盈進学園東野高等学校は、ただ偶然に外国人の建築家を呼んで校舎を作ってもらったわけではなく、まず先生方が移転にあたって理想的な学舎を考えるという試みが2年あった上で、実現できる建築家を探して『オレゴン大学の実験』に辿り着き、偶然の伝手で、中埜先生が軽い気持ちで誘ってみるところから実現してしまったらしい。中埜先生がアメリカ留学で身につけた楽天的にトライする文化も、先生方の熱意も常務理事さんのビジョンも地域の協力もゼネコンさんの妥協も、全てが組み合わさってそこに結実してた。完璧はないけど、40年近く経ってもいまだに現役生に愛されるキャンパスは半端ない。

それを誇らしく説明してくれた当時を知る先生も素敵だし、そこに注目し続けて縁を紡いだ井庭先生始めパターンコミュニティの人たちも、何より当時の苦労をはにかみながら、でも誇らしく語る中埜先生も素敵だと思った。パターンと原寸設計と模型が繰り返し更新され、アレグザンダーが米国に帰っても作られ続けたし、重要なところは確認しながら進められていた。施主の、といってもオーナーではなく教鞭を取られる先生方の建築家へのリスペクト。それを作ったのはアレグザンダーからのしつこい全員インタビューだった。1986年前後の奇跡をもう一つ知った。

アレグザンダーに確認して追加した武道館のウォールクッションや、木枠から大判のガラスに変わっても守られ続ける意匠、当時に込められた一つ一つの工夫、一つ一つ全部違う教室。建物に込められた情報量がまるで違った。同じものを量産しない。多様性を楽しむ。でも共通性やシンプルさを尊ぶ。エゴレス。

自由で心理的安全性に富んだ現役生の皆さんの反応も素敵だった。珍しいであろう外国人の訪問客に自分から飛び込んでいく、先生の助言とかじゃない反応が、ああこの人たちは普段からこのように信頼されて日々を暮らしているんだな、と感じられた。建物以上にハートに心打たれた訪問でした。

建物はみんなのもので、未来に使っていく人たち自身のものにしなければいけないという、強い理想が、そのために現実との折り合いで理想と違う点が出たとしても、全体としては強く異彩と魅力を放ち、それが決して良い立地とは言えない私立学校の経営を多少以上に「成り立たせている」と感じた。

校舎裏の林は保護者の皆さんが小川復活を試行錯誤しておられた。雨水の調整池を兼ねる中央の人工池に流入させ、池の水の水質改善を目指しているのだそうだ。この人工池は、一度水を抜いて掃除したら大きな鯉が何十匹も出てきたらしい。

 

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この外門は守衛さんが常駐する場所。通路を抜けるとさらに正門がある。
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門を入ってすぐ右が大講堂。卒業式の準備がされていた。
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教室は交差並行。互い違いに並行して二列に並んでいる。中央は中庭で木が植えられている。校長先生がそこを通ると学生たちがキャーキャー言ってた。人気者。もしかしたら、いじられてるのかもだけど、心理的安全性が無茶苦茶高い。
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教室をつなぐ渡り廊下。雨が降り込むので不評な面もあるそう。でも開いていることが重要というのがアレグザンダーの意見。
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窓を通して隣の教室が見える。この景色の中で毎日を過ごすのが羨ましい。
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教室の床ももちろん木造。
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教室の後ろにロッカールーム(サンルーム)への入り口がある
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小割りの窓。現在は大判の窓ガラスに小割りのフレームをつけているが、当初は木のフレームに小割りのガラスを嵌め込んだクラシカルな窓だった。
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教室のロッカールーム(サンルーム)は窓があって生徒たちが溜まって話ができる小部屋になっている。
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教室は全て二面採光。両側が窓になっている。6x6=36名定員は当時としては少人数。
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池は現在少し淀んでいて、水を引きこんで綺麗にするプロジェクトをPTA主導で行われているということだった。この日(土曜日)も作業されていた。
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30x30cmの木材の柱は、奈良の仏閣建築の職人さんに依頼。アレグザンダーは土地の技術で作ることを重んじた。しかし職人さんもこの太さは初めてやったという。縦に裂け目が入っているが構造上は全く問題ないらしい。鉄の杭を入れているが、職人さんは鉄を入れると弱くなるのでやりたくなかったとか
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各教室は二階建てで2教室ずつの独立した建物。2階は独立した階段で直接入れる。エンブレムは建物ごとに全て違う
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図書館の入り口。もともと短大まで作る計画があり、大きめに作られた。蔵書数は二万冊以上。
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武道場の小割りの窓はオリジナルの木製フレーム。壁のクッションは、安全上アレグザンダー帰国後に追加。色を合わせている。アレグザンダーに追加についての相談をしたら、使う人たちが手直しすることで建物が完成していくという返事だったそう。
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中庭と教室の間の通路。ちょうどよい幅と置き石。単純な線がなくて、自然と情報量が多い。天気が良くてよかった。

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食堂(Future Vision Base) から池と校舎を望む。木の枝が自然に張り出している下を歩く。正面右が体育館。

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10代の小部屋。10代ではないジェダイマスターたちも吸い込まれてたのでジェダイの小部屋かもしれない。

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調整池は雨水を逃す機能のもので中埜先生たちが容量計算したそうだが、アレグザンダーの水と川へのこだわりでもある。先生方は運動場を広く取りたいというが、アレグザンダーは人が自然と集まる憩いの場所にこだわった。
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特徴的な正門。外から入ってくると門から急に風景が広がる。中埜先生によると門の位置は最初に決まったという。理由は「よくわからないがここしかないと、みんなが思った」
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大講堂の柱は地元川越の黒漆喰。当時は伝統技能が存続の危機になってて、全体を請け負えるなら安くやる、という条件だったらしい。その後、伝統技能も復活したそう。落ち着きがありながらチャーミングな特徴的な意匠はアレグザンダーによる。
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