このエントリーは、Regional Scrum Gathering Tokyo & Scrum Fest Advent Calendar 2023 の 12月6日の記事として書きました。
日本で最初のWomen in Agile カンファレンスをやりました
今年2月に、日本で初めての Women in Agile のカンファレンスを行いました。
エンタープライズアジャイル勉強会さんに共催の形をとっていただき、何とかリアル会場で一回目の場が作れたな、というところが嬉しかったです。参加された皆さんのOSTでの闊達な議論が、この場の必要性を強調していたと思います。
まず第一歩は、女性が発表する場所を自分たちで作る
Women in Agile の発起人の Jamie は第一回のAgile Conferenceに参加して、「いつか私も、あの人たちのように登壇したい」と思って、Lyssa Adkins に相談したそうです。女性がはじめて発表しやすいような場所を提案して作ればいい、ということになり、Women in Agile の活動が始まりました。それ以来、さまざままなカンファレンスで、Launching New Voices というセッションを作って、10分枠を複数用意して、初めて国際カンファレンスで発表する女性たちをサポートしてきました。この写真は10月のアムステルダムでのGlobal Scrum Gatheing でのセッションのものですが、この日も3名の新しいグローバススピーカーが生まれました。
私たちも日本で、まずは Women in Agile Tokyo で公募枠でのセッション提案を受け付けていこうと思います。幸い公募の仕組みは Scrum Gathering や Scrum Fest でいつもつかっていますので、いつも通りのセッションプロポーザルの仕組みを提供できると思います。そしてグローバルへの飛躍もサポートできたらいいですね。
実は世界どこでも苦労している。日本以上に
8月にオンラインで行われた Local Organizer ミーティングに参加しました。そこで日本以外の各国の人たちと、活動や悩みを共有しあったのですが、カンファレンスを始めるのが大変なものなので、なかなか始められないのだ、という意見をいくつか聞きました。一方で、ー私たちは今年、スクラムギャザリングやスクラムフェスの経験や知見、サポートを活かし、エンタープライズアジャイル勉強会の支援も得て、第一回のカンファレンスを成功させることができました。これにあたっては RSGT2023 で来日した Lyssa Adkinsさんの後押しもいただいています。
これはとっても恵まれていることだと認識しました。放っておいても勝手に動き始めるようなムーブメントになっているわけではないですが、少なくとも私たちが動けば動いた分だけ世界は動く。いろんな人が手助けしてくれる。こんな恵まれてるコミュニティは世界でもそんなに多いわけじゃない。私たちは「この指と〜まれ!」の指を上げ続けることが大事。それを押し留めに来るような社会的な力がかからない日本社会、素晴らしい。指を上げる腕力とカロリーをちゃんと培えばいい。言ってみればそれだけの話でした。
Lyssaさんは、人の資質を男性的(Masculine)と女性的(Feminine)に分解した例を出していました。これは男女関わらずどちらの指向性も持っていて、性差ではないと注釈をつけてます。競争的でゴール指向なのが男性的、協調的で関係性指向なのが女性的。「うまくいく」「解決する」というのを活動の目標にすると、「うまくいかないものはやっても仕方ない」と短絡的に答えを出しがちになりますが、それはおそらくここでいう男性的指向に引っ張られてるかなと気付かされました。しかし、私たちの前には人がいて、続いている営みがある。全てが繋がっていて、澱みはあるかもしれないけど、リセットはできない。地道に話しながらよりよい状態を一歩ずつ考えていく取り組みにも意味がある。傷を舐め合ってるわけじゃなくて、ちゃんと観察して、理解をしようとする。現在を壊さずベターを考える。ここでいう女性的指向というのは、コミュニティで私たちがずっと目指してきたこととも符合するような気がします。俺が俺が、ではなく、No Blame(非難しない)。うまくいかない時も、苛立つのではなく、ちゃんと悲しむ。
Lyssa Adkins "The Agilists’ Emerging Superpower and Our Planetary Challenge" (日本語字幕つき) - YouTube
米国のコンピュータ科学系大学での女性比率はむしろ下がってしまった
今年の Agile 2023 カンファレンスでは、Agile Together というセッションが行われました。これは主に、Women in Agile(性別の多様性) と Agile in Color (人種の多様性) の2つの活動を中心に、ダイバーシティ&エクイティを実現していこうという取り組みでした。その中で、興味深い話がありました。米国のコンピュータ系の大学での女性比率の話です。1985年には半々くらいだったそうなのですが、数字は忘れてしまいましたが、近年は大きく女性比率が下がってしまったのだそうです。米国ではBlack Lives Matter などの活動が盛り上がる一方で、ジェンダーの多様性についてはむしろ逆行してしまっている部分もあるそうです。ちょうどカンファレンスが行われていたフロリダ州でも、性の多様性に反対する法案を知事が通していることもニュースになっていました。
注目されないことをやり続ける。信頼を培い、社会を変えていく
2月のWomen in Agile Tokyoでは瀬谷ルミ子さんに基調講演をいただき、アフガニスタンの脱出支援の話をしていただきました。タリバンが実権を握った一昨年の秋は、アフガニスタンからの脱出に関するニュースでもちきりでした。しかし、そのあと、ウクライナ侵攻が起きると、国内外のニュースはそちらが中心になりました。しかし、アフガニスタンの問題がなくなったわけではないのです。瀬谷さんたちは引き続き、クラウドファンディングなどを通じて状況を報告し、支援を集めて脱出支援を継続しています。
私たちも、Women in Agile の活動や、ジェンダーギャップの解消に向けて、注目されてない時期であろうと、無理なく継続的に活動し続ける必要性を認識しました。問題がなくなったわけではないですし、単に慣れただけということになれば、ギャップが社会に受け入れられ、定着してしまうことになります。
瀬谷さんのお話で印象に残ったのが、支援地域でも女性の活動、エンパワーメントに力を入れていること。安定した地域を作るためには、復興プログラムに女性が入ることが重要だそうです。女性の比率が高い方が平和維持・復興プログラムが3倍ほど長持ちするという国連のデータがある、というようなことをおっしゃっていたかと思います。そのために有力者(主にシニア世代の男性)の協力をうまく引き出す重要性を話されてました。
Lyssa Adkins さんの RSGT2023 キーノートにみんなで字幕をつけました
Women in Agileの有志で、Lyssa Adkinsさんの基調講演に字幕を付けました。現代がこれまでと違う、連続的で偏在的で指数関数的な変化の時代を迎えていること、アジャイルがそこに役立つことをわかりやすく教えてくれています。私はもう擦り切れるほど見ているのですが、いろんな方にもお勧めしています。
Lyssa Adkins "The Agilists’ Emerging Superpower and Our Planetary Challenge" (日本語字幕つき) - YouTube
マイノリティ平等を実現するためには、マジョリティの力が必要
第一回のWomen in Agile Tokyo では、40%ほどは男性の方にご参加いただきました。ジェンダーギャップを解消するためには、マイノリティである女性だけでなく、現在のマジョリティである男性の協力や、知識のアップデートが不可欠です。そうしたことに問題意識のある多くの方々に参加いただき、今後私たちができそうなことを議論していければと考えています。
ジェンダーギャップを形成しているのは、誰かの悪意でも偏見でもなく、ちょっとした理解不足やコミュニケーション不足なのではないかと考えています。ひとつひとつの小さな違和感を表明し、そこに働くフォースを考え、緩和や解消に向けた一手を打っていく。まさにスクラムでいつも行っているようなことが、この問題にも対応可能なのではないかと考えています。
目指したいのは、みんなで勝てる社会。アジャイルコミュニティの力を活かして
私たちは長らくアジャイルコミュニティ、スクラムコミュニティで活動をしてきました。ここでは普段ジェンダーギャップを感じることがあまりないのが実情です。アジャイルやスクラムは、そこで活動する一人一人とコミュニケーションをとることを重視します。相手を「Javaプログラマー」などの属性で考えることはほとんどありません。スクラムのチームは基本的に片手ほどの人数で構成されます。ですので、全員と密に話ができる。これがおそらく、私たちの属するコミュニティでジェンダーギャップを感じることが少ない理由ではないかという仮説を持っています。そして、Women in Agile の活動は、スクラムコミュニティであればできることを、もう少し広げていく、という面もあるのかなと考えています。コミュニティのみなさまのご支援をぜひいただければと考えています。ぜひ一緒に考えていきましょう。
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