Women in Agile 原因のわからない問題こそ難しい問題

このブログはスクラムギャザリング&スクラムフェス Advent Calendar 2022 の12月16日のエントリです。ちょっと日付が変わってからの公開になってしまいましたが、UTCで考えれば全然セーフでした。気にしすぎました。

2月17日にWomen in Agile Japan 初めてのカンファレンスをやります。なんとかWebサイトを開設しまして、チケットの販売も開始いたしました。これからコミュニティへの声掛けもしていきますので、なにとぞご支援のほどをお願いいたします。

www.wiajapan.org

Women in Agile のいつもの活動についてはジェーンこと知花さんがふりかえってくれているのでこちらをぜひご覧ください。月に2-3回は勉強会や対話会、研修などを行ってきました。

note.com

IT業界での就業に関するジェンダーギャップの存在

さて、私たちWiAが解決したいと考えている問題はIT業界におけるジェンダーギャップ(男女間格差)です。Indeed社が3月の世界女性デーに合わせて、IT業界でのジェンダーギャップについて調査結果を報告してくれています。

prtimes.jp

詳細な傾向は記事を参照いただければと思いますが、ポイントだな、と思ったところはこちらです。

他の職種と比べてIT技術関連職の方が、育児と両立しやすいと思うかをたずねたところ、48.8%が「子供・子育てを理由にした休暇を申請しやすい」、46.0%が「子供・子育てを理由にした勤務時間の調整がしやすい」、41.5%が「産休・育休などの長期休暇から戻ってきても復職しやすい」「未就学児がいる場合、業務上適切な配慮をしてもらいやすい」と感じていることがわかりました。また、これらの考えには男女間でそれほど大きな差はみられませんでした。

IT業界で技術職で働いていると、お客さん回りが中心になる営業職や、医師や接客業など業務を行う現場が固定される職種に比べれば、リモートワークもしやすいことが多そうだし、時間の融通もききやすい傾向があるのかなと、なんとなく想像はできます。

1990年代ですと、理系学部、特に工学部に進学したい女子学生に対して「ほとんど女子はいない」「女子トイレがない」といった助言を先生からもらった、なんて逸話もあるほど、進学に関する男女差は大きかったかと思います。当時はまだ情報系学部が少なかったというのもあるかもしれません。ですが、最近は特にそうした話も聞かれなくなりましたし、情報系学部で女性がほとんどいない、という話を聞いたことはない気がします。

しかし一方で、この調査にもある通り、

● チームや部署の男女比について男性が6割以上(女性が4割以下)と回答した人が全体の73.2%にのぼる。11.3%が男女同割合、10.8%が女性の方が多いと回答。

という問題があります。女性が少なく、多くのチームでマイノリティの境遇にいることがわかります。

ジェンダーによって隔たれている、見える壁はすでになさそう

ではマイノリティである女性は不利益な待遇を受けているのでしょうか。プロジェクトマネージャーの団体であるPMI日本支部さんの方で、2014年から女性部会の活動が行われています。こちらで男性、女性双方に、アンケート調査をして、結果を公表いただいています。ありがとうございます!

www.pmi-japan.org

こちらの調査で、少なくともプロジェクトマネージャーに関する職種につかれている方々の間では、ほとんど男女の間に昇進や評価の差はなく、目立った問題はなさそうだ、ということ見て取れます。そこにはっきりとした壁や問題はなさそうにみえます。差別的な待遇があるから、担い手がすくない、というわけではなさそうです。

これは裏返すと、なかなかむつかしい問題であるとも考えられます。課題が明らかであれば、それを解決すれば前に進むわけですが、この調査の通り、はっきりとした問題はなさそうです。

もしかすると女性の数が少ないこと自体、つまりマイノリティのむつかしさが多く存在するのかもしません。もしくはこの調査には出てこないような、小さな問題が、どこかに隠れているのかもしれません。小さな問題(バグ)が、社会全体に隠れているとするとなかなか厄介です。スクラムマスターのように一つ一つ障害を明らかにして、人々に対応を促していく必要があるのかもしれません。

変化には時間がかかる。ボトムアップの継続的な変化が必要

さて、まだまだ女性がマイノリティである日本の会社が少しずつ変わっていくには、どうしたらいいんでしょうか。先日、RSGTでもご登壇いただいているロッシェル・カップさんが対談されていて、企業のダイバーシティへの取り組みが進まない理由について話されていました。

www.nikkei.com

ドゥルーズダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂、D&I)施策でも『取締役会に女性を入れよう』という人がいます。女性がいさえすれば『ダイバーシティを実現している』と。でもそれだけでは不十分です」

「例えば今、社内にいる妊娠中の女性が取締役会で影響力を発揮する立場になるまでには十数年かかります。それまで現場レベルで施策を打ち続けることが必要なのです。育児休業をとった女性が復帰したときに、育休前と同じ職場・同じ仕事でキャリアを積める環境を整えたり、子どもの世話をしやすい働き方を実現したりする。様々な視点から女性のキャリアにとって何が必要かを考えるべきです」

トップのイニシアチブだけでなく、ボトムアップで、継続的に活動していくことが必要ということです。このあたりは、Fearless Change で語られている変化のプロセスと共通するご意見かなと思います。

必要なのは「考えすぎじゃない?やってみれば?」って言ってくれる身近な人かもしれない

マイノリティの境遇にあるということは、何かをするときに多くの「前例のない何か」を進めなければならないハメに陥りがちです。前例にないような何かを進めるとき、最大の敵になるのが、実は、自分の不安な心(杞憂)だった、なんてことがよくあります。読者の方にも「あきらめてしまったけど、よく考えてみると、なぜあのとき自分の不安にまけてしまったんだろう」ってあとでふりかえった経験をお持ちの方も多いのではないかと思います。

もしかして、私たちの周りの人も、多くの人はそうなんじゃないでしょうか。実は今日、Women in Agileで雑談をしていて気が付いたことがあります。

これは私個人の経験になりますが、コミュニティ活動をしていると、そこで知り合った人たち、利害関係のない知り合いのみなさんに勇気づけられた経験がなんども思い浮かぶんです。考えてみれば、これって、とても不思議な体験です。偶然知り合ったけど、おそらくそのたった一つの偶然がなければ、赤の他人であったであろう人たちなのに、普段接している家族や同僚以上に、心強い後押しをもらえた経験が何度もあるんです。これはどういうことなんでしょうか。

もしかすると、その「因果関係の薄さ」こそが、私がコミュニティ活動や、他の人たちが知り合う活動を遠巻きに後押ししている原動力かもしれない、と気づきました。

「因果関係が薄い」からこそ、強い後押しをもらえることがあるし、そして、そんな「因果関係が薄い」人と出会えるなんてまさに奇跡じゃないですか。みなさんが、そうした奇跡のような出会いを引き寄せる後押しを、コミュニティは果たしていて、私は、そういう奇跡が多くの皆さんにいくつも起きることを、支援したいのかもしれません。

WiA の活動や、2月17日のカンファレンスで、ぜひそうした仲間(=奇跡的に出会った元"赤の他人")を、見つけ出していただければと思います。友達100人なんて目指す必要はないと思います。「カンファレンスで偶然、隣に座った」という、その小さな縁が、もしかしたら、あなたの10年後の未来を大きく変えるかもしれません。そんな可能性に思いを馳せると、とても素敵な機会に思えてくるんじゃないでしょうか。少なくとも私には、そんな風に見えています。

社会が変わるには時間がかかるし、とても多くの努力と偶然が必要いなると思います。でも、どうせ変わるなら、自分が引き寄せた偶然で、自分が少しでもハッピーな方向に変わっていってくれたらな、と思います。ぜひ、あなたのためだけではなく、みんなのために、一つの「あなたをハッピーにするかもしれない偶然」を探しに来ていただければなと、そんなことを思いました。少なくとも、一人が少しハッピーになれば、世界全体は、ちょっとハッピーになるわけですから。

RSGT2023の基調講演はWiAの支援者であるLyssa Adkinsさん

RSGT2023では、Women in Agile の世界的な活動を後押ししている Lyssa Adkins さんが基調講演してくれる予定です。彼女の著書である Coaching Agie Teams の翻訳も進んでいるので、楽しみ。アジャイルコーチングを持ち込んだ第一人者で、毎回カンファレンスで満室になっていて、なかなか参加できないLyssaさんのセッションを日本で通訳付きで提供できるの最高です。オンラインでも配信予定ですので、ぜひご検討ください。Discordでわいわいしましょう!また期間中、個別にアジャイルコーチに相談できるCoaches' Clinic も開催されます。

2023.scrumgatheringtokyo.org

Women in Agile にある Lyssaさんのポッドキャストシリーズを見つけました。

womeninagile.org

WiA Tokyo 基調講演は紛争解決・復興支援の第一人者瀬谷ルミ子さん

2月17日 の Women in Agile Tokyo カンファレンスの基調講演は、瀬谷ルミ子さんにお願いすることになりました。私にとっては、楽天テクノロジーカンファレンス2012、アジャイルリーダーシップサミット2019に続いてのご縁となりますが、毎回示唆に富むお話をいただいていて、特に前回のアジャイルリーダーシップサミットでいただいた、紛争地の復興支援における女性の役割のお話が、今回の活動のきっかけのひとつになっています。

news.yahoo.co.jp

なぜ女性が参画することで上がるかというと、女性は社会が不安定になったり、戦争になったりしたときに、あらゆるしわ寄せを受け被害に遭いやすい。そのため被害者の視点で「社会の変革のために何が必要か」、そして子どもとの結びつきという観点から「この和平プロセスは本当に次世代を安全に導くものなのか」と考えられるからです。ただ、実際に女性が世界の和平プロセスに参加したのは過去19年間でたったの9%。しかも、その参加が単なるお飾り、数合わせ、男性や他者の傀儡(かいらい)のような形だと「逆に成功率が下がる」といった調査結果も出ています。

そのため、瀬谷さんが理事長を務められているREALsでは、復興支援の枠組みの中に、現地の女性が入るように支援を試みているそうです。もちろん部族長や軍閥の幹部などは男性が中心なので、さまざまな手段を駆使して、一歩一歩、地域と、女性の支援を行っている話を聞けるのではないかと思います。ぜひ、私たち一人一人の活動との共通点を見出していただいて、明日への一歩のヒントをつかんでいただければと願っています。

reals.org