Regional Scrum Gathering Tokyo 2022 ご参加ありがとうございました

今年も年初から、Regional Scrum Gathering Tokyo 2022 のスタッフワークをしてきました。今回も非常に多くの、熱意ある皆様に支えられて、学びの多いギャザリングになったことをお礼申し上げます。「ギャザリング」という言葉をとても尊重していて、ふだん集まらない同志、実践者の皆さんが集まる会として、より深く、話し合える場所を提供していきたいと考えています。Twitter#RSGT2022ハッシュタグで検索していただければ、多くの参加報告記事を見つけることができると思います。

2022.scrumgatheringtokyo.org

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キーノート: Johanna Rothmanさん

今回のキーノートはJohanna Rothmanさんにお願いしました。アジャイルと組織運営について長年コンサルティングをされてきた方で、また米国のAgile Conferenceでも主導的な立場を取られてきました。日本語に翻訳されているManage It!をはじめ多くの著作があります。今回は Agile Program Management について話していただきました。Program Manager というのは米国企業である役職で、大きめのプロダクトを統括する役割です。例えば Microsoft だと、Visual Studio全体を統括したり、という役割かなと思います。今回よくわかったのは、部長に対する本部長のような、上位職ではなく、あくまで全体に寄与することを考える役割だということ。そしてアジャイルではその役割を、大きな組織で円滑に人々を結びつけるハブとして使えるということでした。Johannaさんが、Program Managerが上司の上司に見えないよう、注意深く役割の説明をされていたのが印象的でした。組織はツリーではないのです。

Johanna Rothman - Management Consultant - Johanna Rothman, Management Consultant

Johanna Rothman (@johannarothman) | Twitter

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キーノート: Diana Larsenさん

Day2のキーノート入るDiana Larsenさんでした。Dianaさんとも何回会ったか分からないのですが、「いつもだいたいAgileカンファレンスの食事のテーブルだよね」と言ってくれました。そう、あのカンファレンスは食事のテーブルで多くの人が出会うんです。RSGTもそうなれたらいいなといつも思っています。DianaさんもAgileカンファレンスの初期から参加されて、あのカンファレンスの雰囲気を体現する立役者の一人です。チーム文化、技術面、組織全体を包括するアジャイル普及モデルとして、Agile Fluency Modelを紹介していただきました。『アート・オブ・アジャイル デベロップメント』の著者で技術コーチの James Shore さんとのコラボレーションの成果です。『アート・オブ・アジャイル デベロップメント』は昨年原著の第二版が出ました。Dianaさんの『アジャイルレトロスペクティブズ』も待望の第二版を準備中とのことです。

Agile Fluency Project: Chart Your Agile Pathway

DianaOfPortland #BLM (@DianaOfPortland) | Twitter

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クロージングキーノート: 牛尾剛さん

クロージングキーノートは牛尾剛さんにお願いしました。10数年来のお付き合いなのですが、常にチャレンジを続ける姿勢がいつもすごいな、と思います。英語を勉強しに留学しに行ったり、Microsoft の本社に飛び込んでクラウドプラットフォームの内側を作っているというものすごいキャリアチェンジの話や、最近の Microsoft の開発文化について聞きたいなー、ということでお願いしました。すでに、ほぼ書き起こしのPublicKeyさんの記事が出てますので、内容を見ていただくことができます。

www.publickey1.jp

講演中、特にDiscordが盛り上がっていたのが、「納期がない」という話でしたね。話を遮って質問を入れてしまいましたが、みなさんにとってよい気付きになっていれば嬉しいです。実は8月にあったAgile2021で、ケント・ベックさんが「デッドラインを自分で決められると思っている人々がその権力をいまだに手放していない」点を憂いていて、XPの計画ゲームやスクラムのスプリントプランニングの仕組みに触れていながらも、やはりなかなか説得が難しいと考えているところが、「作業の見積もりを開発者が行い、進捗は開発者を信頼して任せる」ところなんだろうな、と想像します。今後の皆さんの取り組みに期待しています!

www.publickey1.jp

あと、「ガチ三流」というタイトルに過激に反応している人がいるようですが、牛尾さんは本心から自分のことを「ガチ三流」だと思っているのだと思います。決して、誰かを下に見て言うとか、思ってないけど卑下して言う、という器用な人ではないことだけは、ここで言っておきたいです。

品川アジャイルとして配信

今回は品川アジャイルとしての配信は二回目になります。iRig2を知ったことと、CenterStage対応のiPadが発売されたことで、機材を一新して配信を行いました。この機材セットは安価で軽量でありながら、どなたにでも扱いやすいものなので、マイクやスピーカーがあるような会場でハイブリッド配信をしようかな、という方には参考にしていただければと思います。

bayashimura.hateblo.jp

昨年は会場に張り付かざるを得なかった品川アジャイルのスタッフが、ほとんどスタッフルームでの監視とZoom運用に回れたのが非常に大きく、来年こそはスタッフルームラジオをやりたいですね、などと話している余裕っぷりです。一方で、課題もいくつか見つかっていますので、今後の実験がまた楽しみです。特にOSTについては、通常の会議室を使ったハイブリッドはかなりうまくできたようですが、オープンな環境のテーブルでは会議スピーカーが環境音を拾いすぎてしまってリモートからの参加が難しかったようです。そうなんです。課題は音。これは本当に難しくて、上手に設計しないとやってられません。ネットが潤沢にあれば全員がスマホとヘッドセットでDiscord/Zoomにつないでしまうほうがいいわけですが。

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アギレルゴコンサルティングとしてスポンサー

アギレルゴコンサルティングとしてはスポンサーを行いました。松元健さんがスタッフとして加わってくれたので、スポンサーセッションで話していただいています。二人ともRSGTのスタッフワークがあり、スポンサーブースはほとんど何もできませんでしたが、アギレルゴコンサルティングでは今年も珠玉のトレーナー陣による通訳付き研修を行っていきます。

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アギレルゴ アジャイル研修

Roots of Scrum (2005)を紹介してきた

スクラムの共同開発者ジェフ・サザーランド博士が2005年に行った講演について紹介しました。デンマークで行われた講演ですが、驚くほど日本からの影響について語ってくれています。2011年に始めてお招きして、Innovation Sprint をやったわけですが、それがどれだけジェフさんにとって大きなことであったのか、改めて認識した思いです。資料はこちらです。

speakerdeck.com

 

ビデオは現在参加者向けに公開されていますので、参加者の方は会場のDiscordチャンネルの概要欄のURLから見てください (ZoomのURLがあったのと同じ場所です)。Room C Day1 04:40:00 くらいからです。

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リアルとバーチャルを全部活かす

昨年に比べ、状況はよかったので、リアル参加を選択された方が多くいらっしゃいました。RSGTとしては、コロナ対策として半数の席数のみに制限し、とにかく場を閉めず、参加者の皆さんが自由に選択できるようにしています。そのためにハイブリッド開催への投資も行ってきました。オミクロン株の流行で一気にまた感染者が増えている状況ですので、来年以降もまた流動的な状況での開催になる可能性があります。できるだけ軽量にハイブリッド開催できるようなノウハウも開発していければと思っています。

前回の開催は、スクフェス大阪以降で普及してきた、DiscordとZoomを利用したオンライン開催のノウハウと、品川アジャイルで地道に研究してきた配信の仕組みを組み合わせて、スクフェス三河でご協力いただいた地元田原の技術集団オレンジボックスさんのご協力もいただき、ハイブリッド開催にこぎつけました。アギレルゴコンサルティングの研修の通訳でいつもお世話になっているISSさんともZoomでのオンライン研修のノウハウを溜めてきたことも有用でした。今回はさらにそこに日英通訳としてSeth Reamsさんに加わっていただくなど、これまでの関係を活かしながら、さらにスムーズな開催をできたのではないかと思います。コーヒー提供の縁の木さんもゴミのリサイクル100%を目指す「蔵前モデル」を紹介してくださいました。

www.tokyo-np.co.jp

アフターコロナの時代では、多くの企業やチームがリモートでの作業を強いられてきました。でも、もう2年経って、だいぶ慣れましたよね。有用性も限界もわかってきた。RSGTに参加する皆さんは、そうしてツールやコミュニケーションのコツについて実験を繰り返してきた方がほとんどだと思いますので、こうした皆さんがリアルでつながり、バーチャルでの活動を続けていくことで、新しい地平が開けていくと感じています。たとえば英語学習で言えば「全然できない」「ネイティブのように流暢」のように過激な二分法で考えるのが、初心者レベルで陥りがちな罠です。アジャイルか?ウォーターフォールか?のように二分法で考えるのも、だいたいやったことがない方なんじゃないかと思います。私たちは実践者なので、そういう表層的なレベルにとどまらず、何がどう役立つのか、具体的に試しながら、選択肢として手に付けていきたいと思うんです。きっと皆さんそうですよね。

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スクフェスに向けて

今回は各スクフェスのスタッフの皆さんや、開催に興味がある皆さんもリアルに集まれた人もいらっしゃいました。RSGTに比べてスクフェスの「よさ」は、その間口の広さ。スクフェスで始めて発表しました!という方が多くいらっしゃって、内容も生々しい努力の発表が多く、ある意味RSGTよりも学びが深い部分があります。

各地域のスクフェス開催がぐっと進んだ感じがします。すでに行っている大阪札幌三河に加え、すでにRFPを募集している新潟が今年加わる予定ですが、仙台、福岡が企画を具体的に進め始めて、広島もやりますよーと言ってくれております。あとやりたいと言ってくれているのが鳥取、金沢、Twitterでにわかに始まっている青森、などなど、まあいずれそのうち、と思っていただいている方々もいるので、決して焦らず、できるときにはできる感じでできたらいいかなーと思っております。あと、品川もやりたくなってきてます。

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残っている仕事

残っているスタッフワークは、荷物やノベルティの整理のほか、スタッフの皆さんの交通費や経費の精算と、講演料支払いです。幸いスタッフの皆さんの旅費や経費を支払える余裕がありますので、お支払いしていきます。海外講演料については、今回は米国向けということで、租税条約の手続きをするためには米国居住者証明を先方に取ってもらう必要があるので、20.42%の非居住者向けの源泉所得税を支払うことにしました。本来二重課税を防ぐ目的で結ばれている租税条約が、米国IRSはどうも90日以上かかるケースがあるようで(多段居住者証明ですよ?)、このように利用しにくくなっていることは本当によくないと思います。

あと、どこかのタイミングで、参加者以外にも録画を公開することになろうかと思います。現在でも参加者の方と同時視聴することはできますので、ぜひコミュニティの同時視聴会とか、社内での同時視聴会をご検討いただければと思います。

aki-m.hatenadiary.com

自己組織化とは、ある程度の不便を受け入れることかもしれない

今回のカンファレンスを通じて、思い出したところがあるので最後ですが書いておきます。スクラムでは「自己組織化 Self Organization」したチームを重視しています(最新のスクラムガイドでは自己管理に代わりましたが意味するところは同じと思います )。この用語は、竹内野中 “The New New Product Development Game” から来ています。優れたプロダクトチームの人たちは、それぞれが自律的に動き、創造的に解決していくさまを表しています。メンバーを子供扱いせず、自分からチームに貢献するすべを考えていただくことを、信頼するということです。RSGTというカンファレンスが、これだけ少ないスタッフで、また多くのスピーカー、スポンサー、参加者の皆さんに支えていただけているのは、多くの参加者の方々が、この場を「よいもの」だと思い、もっとよくしたいと感じて、自ら動いていただいているからに他なりません。もしかすると、他の多くのカンファレンスに比べると、丁寧な文書での説明や、入り口での大声でのアナウンスが欠けているんじゃないかなと、思います。この点は初参加の方には申し訳なく感じることもありますが、少なくとも私は「いつも来てくれる皆さん」を重視しています。そしてそうした皆さんが、さらに新しく来た方々と繋がって、親切にご案内いただいたり、会の外でも新しい活動につなげていただいているのを見聞きします。「正統的周辺参加」という概念があります。人は専門知識を身につけるときに、組織の外延から参画して、徐々に学びながら、活動しながら、徐々に中心に向かっていく、という組織学習のモデルのようなものです。今年もしかしたら、残念だったなー、知らなかったなー、というところがあったかもしれません。会期の終了後に聞いた、面白い取り組みがあったのかもしれません。でも、焦らないでください。また来年も、その先も、できる限り同じような場を作っていきたいと考えています。みんなが飽きて来なくなるまで、RSGTがRSGTであり続けたらいいな、と考えています。

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最後に:一歩一歩進もう

技術は変わっても、人は自分の思う通りには変わってくれないものです。RSGTに関わってくださった皆さんが、徹底したリアリストとして、今年も一歩一歩、実験を繰り返していただければと、切に願っています。今年のRSGTは終わりました。お祭りの熱狂が引くのは一瞬のことです。しかし、多くの方の心の中に灯った種火は、これからの行動の糧になるんじゃないかと思います。所属組織で、コミュニティで、家庭で、そしてスクフェスで、RSGTで灯った種火を、具体的な一歩に変換して、一つ一つの実験を進めていただけることを願っています。いきなり膨らませてしまうと、割れるのも早くなります。内部のよさを磨きながら、それでいて機会を逃さず、少しずつ活動を成長させていっていただければと思います。きっと一番面白いのは、次の実験です!なので、今の実験はそこそこにして、休んでしまったほうがいいかもしれません。ゆっくりいきましょう。一歩一歩行きましょう。「スクラム自体は問題を解決しません。解決するのは人間です」

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来年もRSGTでお会いできれば幸いです。たぶん6-7月くらいからスポンサーやプロポーザルを募集するのではないかと思います。長文、お読みいただきありがとうございました。