このエントリーは、Regional Scrum Gathering Tokyo & Scrum Fest Advent Calendar 2023 の 12月13日の記事として書きました。本日はすでに12月21日です。遅れてすみません。
脱予算経営に出会った
2012年にAgile 2012のキーノートで脱予算経営に出会いました。そのあと、当時日本語で訳されていた本を二冊ほど読みました。後から出ている方が読みやすかったです。と思ったらキーノートスピーカーはそちらの本の方でした。当時の理解は、予算を使わない代わりにキャッシュフローの透明化をして、各部門の裁量になるべく任せる、というかんじでした。やろうと思ったらできそうだけど、部署間の信頼がないとできなさそうなのと、大きな会社だと、そんなに役員同士が仲良くないというか、仲はいいのかもしれないけど競争させられてたりするので、普段の会議は割と攻防戦になっちゃうよなーと思ってました。
2022年にもう一度脱予算経営に出会う
2022年に Joe Justice さんのトレーニングで、テスラ社が脱予算経営を実施している話を聞きまして、当時のセッションがビデオで出ていたので、内容を聞き直して、日本語でセッションをしました。テスラ社は給料が時給制で均一で、リーダーは特に偉いわけではなくそのロールをこなしていて、ただ技術進歩のためにみんな働いて、ストックオプションをもらって後日の資産形成をしている、ということでした。雑な理解ですが、ああ、確かにそうすれば、お互いの削りあいは不要になって、みんなで前を向けるかもね、と思いました。
脱予算経営の12原則を訳した
合わせて、脱予算経営を推進するBBRTという団体が出している12の原則を訳してみました。アジャイルを学んで作ったわけではないのに、すごくアジャイルとの共通性が高いと感じました。現代のマネジメントの「よい原則」というものが変わってきたことをそれぞれが感じて、偶然にして一定していたと言うことかなと思います。Agile 2012 のキーノートになっているくらいなので、そう感じている人が多数いるのでしょうね。
リーダーシップ原則
- 目的 - 大胆で崇高な目的のために人々を巻き込み、奮起させる。短期的な財務目標ではなく。
- 価値 - 共有された価値観と適切な判断によって経営する。細かいルールや規則ではなく。
- 透明性 - 自律的な規制、イノベーション、学習、コントロールのために情報をオープンにする。それを制限しない。
- 組織 - 強い帰属意識を育み、責任あるチームを組織する。階級的管理・官僚主義を排除する。
- 自律性 - 人々を信頼し、自由に行動させる。もしそれを乱用する人がいても(それ以外の)全員を罰することはしない。
- 顧客 - 全員の仕事を顧客ニーズと結びつける。利益相反を回避する。
マネジメントプロセス
- リズム - ビジネスリズムやイベントに合わせて、ダイナミックにマネジメントプロセスを組織化する。年次の決算に合わせるだけでなく。
- 目標 - 方向性と、野心的・相対的な目標を設定する。固定の、カスケード(上位から分解した) 目標を避ける。
- 計画と予想 - 計画や予測を、無駄のない公平なプロセスにする。硬直的で社内政治的なエクササイズではなく。
- リソース配賦 - コスト意識を醸成し、必要なリソースを提供する。年次の詳細な予算配分を行わない。
- パフォーマンス評価 - 学習と能力開発のために、パフォーマンスを総合的に評価し、ピア(1対1の)フィードバックを行う。計測のみでなく、報酬決定のためだけでなく。
- 報酬 - 競争ではなく、ともに成功することに報いる。固定のパフォーマンス契約に対してではなく。
スクラムフェスとRSGTの運営でやってみた
これをどこかの企業でやってみるのはなかなかハードル高いかなと思っていたのですが、ちょうど私が代表理事をやっている「一般社団法人スクラムギャザリング東京実行委員会」は、全国各地でスクラムフェスが立ち上がってきたのも支援しており、それぞれは独立した実行をしているものの、会計・資金リスクは助け合いたいなーと言うことで進めているので、ここでやってみよう、と考えてきたのですが、ちょうど年度が替わる2023年7月から、やってみることにしました。
カンファレンスのキャッシュフロー
カンファレンスの会計はだいたいこんな感じです。
これを、私たちが「票読み表」と呼んでいるExcelシートで管理してきました。スポンサー数や参加者数は読めないので、それを予想しながら、準備期間を1-2か月単位で区切って、その中でなるべく収益のバランスを取っていこうという考え方です。ある項目を、売れたらやるし、売れなければやらないと考えてシミュレーションしていきます。
期間収支は、ざっくり書くとこんな感じかなと思います。まだ確定していないお金は、昨年実績を使って仮にアテておきます(昨日の天気)。
- 序盤 (セッション確定前)
収入: 最初から乗ってくれるスポンサー、アーリーバードチケット
支出: 会場確保、キーノートスピーカー予算
(最低限の開催にかかる費用をカバーする) - 中盤 (セッション確定後)
収入: 通常のチケット
支出: ノベルティ、配信やZoomなどのコスト
(チケットの売れ行きに合わせて参加者還元を考える) - 終盤 (開催一か月以内くらい)
収入: 終盤でのチケットやスポンサー
支出: 会場で使う物品の配信やZoomなどのコスト、お弁当
付箋などの少額備品類
(余裕があればできる納期で参加者還元をする)
当初はスポンサーもチケット収入もゼロですが、昨年と同じだとどうか、50%ならどうか、100%ならどうか、などは件数のところを書き換えれば簡単にシミュレーションできるわけです。これで継続的に無理のない運営を考えます。
そして今回、これを、月単位での集計にして、全国で行われるスクラムフェスを横に並べて月単位で集計表を作りました。
やったのはこれだけです。
これで、各カンファレンスでの月額収支と、全体での残額が月単位で把握できるようになりました。実際にどのカンファレンスがどのようにお金を使ったのは、各カンファレンスの集計表で明らかです。
ポイントは見える化と相互扶助
ポイントはなるべくちゃんと使ってほしいというところなのと、お互いの助け合いを引き出すところです。赤字になれば他のカンファレンスから借りることになりますし、黒字なら他のカンファレンスを助けることになります。
ここで足を引っ張りあうかどうかは、実際はマネジメントの問題ではなく、日々のお互いのコミュニケーションの問題なのだと思います。そして、私達のカンファレンスはボランティアで、給料は出ていませんので、お互いに格差も競争もありません。一年を通してマイナスだといずれ破綻しますが、それも一年くらいなら特に問題ありません。やり方をみんなで考えることができると信じています。
ですので、私は代表理事ではありますが、「こういう経費使っていいですか?」というような問い合わせも承認もしていません。(以前はありましたが基本すべてYesと答えてました。) すべて各地の実行委員の皆さんが自律的に検討していただいています。
私たちは会計の専門家でもないですし、予算を仕切るマネージャーを置いているわけではないですが、全員ボランティアで、使えるお金をうまいこと再分配して、何とか運営できてるかなーというのが今のところの感触です。
実験を始めたばかりなので、今後どうなるかはわかりませんが、良かったら、RSGTで話し合えればと思っております。よろしくお願いいたします。