このエントリはRSGTアドベントカレンダーの非公式な27日目の記事です。
昨日は非公式な26日目としてきょんさんが「#RSGT2019 の歩き方 - うさぎ組」について書いてくれました。当日どんな風に過ごしたらいいか、大変参考になるお話だったかと思います。私は前回「RSGTのセッション採択はどのように決まるのか - kawaguti’s diary」というのを書きました。カンファレンス関係者しかうれしくなさそうな内向きの記事だったわけですが、長らく書き出そうと思って書いてなかった内容だったので、個人的には大変満足しています。
あと、ログミーさんの方で、昨年の基調講演であった河野通宗さんの記事がでています。改めて読み返して、本当に素晴らしいお話だったなと思います。
さて、今日のお話は、またカンファレンス運営に関する話をしようと思います。
非営利カンファレンスのキャッシュフローの話
RSGTはカンファレンス自体で収益を出すことを目標にしていないカンファレンスです。スタッフも給料や日当をもらわない、ボランティアでの参加が基本です。とはいえ、会場費や通訳などのコストはかかりますし、参加料やスポンサー料などもいただいております。
もともとスタッフが手弁当で始めていますので、なんらかの資金のバックがなく、損失が出れば実行委員が支払う必要がでてきます。また、途中でキャッシュが底をついてしまうと、一時的にせよ実行委員が補填しなければなりません。そういったあたりのファイナンシャルリスクを避けて、どのように安全にカンファレンスを行うかは、非常に大事な問題です。
では、カンファレンス開催日までにどのようなキャッシュイン、キャッシュアウトがあるのでしょうか?
まず、会場を借ります。多くの会場で前金での入金が必要になります。(企業さんなどで、無料の会場をお借りできれば、コストが大幅に下がりますが、その分、中の方が動かなければならない部分が多くなったりします。)
昨年からの蓄積がないと、まずは借金から始まるのです。いずれ参加費やスポンサー料などの収入を得られれば返済できるのですが、回収までの期間は短い方がいいです。そこで、アーリーバードチケットを設定し、早めに払っていただける方の協力を求めます。この時点ではコンテンツが決まっていない状態ですので、それでも支払っていただける皆様は、カンファレンスを支えてくださるコアな顧客層ということができると思います。本当にありがたいです。
またスポンサーさまにも協力をおねがいします。法人様は一社当たりの金額が大きいため大変助かるのですが、支払いが請求書ベースでになることがあるため、キャッシュフローには注意が必要です。RSGTに関して言えば、早めにお支払いいただけるスポンサー様が増える傾向にあり、非常にありがたいです。
開催1ヶ月前くらいまでに、アーリーバードやスポンサー様のご協力が十分に得られれば、会場費を回収して、ノベルティへの投資に回せるようになります。ノベルティとして優先なのは、まずは名札とストラップです。支払いの証明にもなりますので、ストラップはカンファレンスごとにデザインを変え、年号入りのものを作るのがよいと思います。お土産にもなりますし。
また、このあたりには全てのセッションを確定させます。このあたりで、企業から業務として参加する人にも、カンファレンスに参加することでどんな効果があるのかを説明しやすくなるのではないかと思います。
開催2週間前くらいからは、もし資金的に許すならば、飲み物やお弁当の手配を行います。ビデオ機材などレンタルものも調達をかけます。
通訳代をはじめ、請求書支払いで対応していただける業者様に関しては、後日支払いになります。ですのでカンファレンスの1ヶ月後くらいに、やっと全ての収支が〆になります。
もしこの時点でさらに資金に余裕があるならば、法人税を支払って翌年に繰り越します。そうすることで、翌年は会場代のマイナススタートを避けられるかもしれません。
キャッシュフローに基づく計画
ここまで説明したキャッシュフローのモデルを念頭に、時系列で大まかにキャッシュイン/キャッシュアウトを対応させて、計画していきます。同時期までのキャッシュインが少なければ、対応するキャッシュアウトを抑制します。入ってきた分は使えるが、入らなければ使わない、ということで全体が赤字になるリスクを抑制していきます。逆にキャッシュインが増えれば、きちんとコストを使って来場者向けのサービスを拡充していきます。
例えば、中期でチケットやスポンサー料が少ない場合は、ノベルティや当日費用をカットしていきます(作らない、出さない)。
また、前倒しでキャッシュインがあればあるほど、安定した運用や迅速な意思決定が可能になります。
RSGTでは、キャッシュフローの状態を常に把握する「票読み」と呼ぶ Excelを随時アップデートして、常にキャッシュフローの予測をたてています。
テールリスク(あまり発生しないが大きいリスク)について
私はまだ経験したことがないのですが、気象条件によってはカンファレンスを中止せざるを得ないこともあります。そのようなケースでも大きな負債を抱えないためには、ある程度の資金的な余裕を持っておくことが望ましく、営利が目的ではないのですが、継続的な開催のためにはある程度の資本蓄積は必要であろうと考えております。(もしくは企業や団体の後ろ盾が欲しくなります)
以上、カンファレンスのキャッシュフローとその計画の考え方をご紹介しました。一つの考え方に過ぎないので、色々な正解があるのだろうと思います。
謝辞と恩送り
上記のようなことができるのは、実行委員、スタッフ、参加者、スポンサーの皆様のご協力の賜物です。本当にありがとうございます。
また、2011年に開催した勉強会カンファレンスで、いくつかの大規模非営利カンファレンスの先達から知見をいただきました。現在に至るまでこの時のご意見は大変役立てさせていただいております。ご登壇いただいた皆様には足を向けて眠れないといつも思っております。
OSCの宮原さん、RubyKaigiの高橋さん、LLイベントの法林さん、CEDECの吉岡さんをお迎えして、1000人以上のカンファレンスを支える意思やノウハウを共有しようというセッションでした。私が進行をさせていただきました。
1000人以上ともなると、そこにかかるコストや不確実性も大きなものになります。
会場代、飲食の手配、スポンサーの獲得、チケット販売、入金までの資金繰りをどうするか(そのリスクをどう分担するか)、など、非常に多くの不安要素を抱えることになります。年度を越えると、その年の剰余金のなかから、法人税と事業税を支払う必要があります。簡易計算ではだいたい40%くらいらしいです。各カンファレンスで利益を出して翌年に繰り越す場合には、税に関する費用と手間がかかってしまいます。
他にも、アジャイルジャパン、デブサミ、JaSSTを通じて多くの知見をいただきましたし、私も実行委員として参画したXP祭りや楽天テクノロジーカンファレンスでの経験/実験は大きな糧になりました。
イノベーションスプリントでピークワンさん、RSGTで翔泳社さん、楽天テクノロジーカンファレンスでCNSさんといったイベントを運営されている皆様と一緒にやらせていただいたことも、学びが多かったです。
みなさまに、大変感謝しております。ありがとうございました。
恩送りといってはなんですが、大阪のスクラムフェス大阪、東京のDevOpsDays Tokyoでは、開催ノウハウの伝達をお手伝いさせていただいております。