失敗を学びに変える アジャイルなマインドセット

これはRSGTとスクラムフェスのアドベントカレンダーの記事です。

Regional Scrum Gathering Tokyo & Scrum Fest Advent Calendar 2024 - Adventar

adventar.org

 

スクラムフェス関連の日程と場所、これまでの動画リンクを整理してるので、こちらもぜひどうぞ。

kawaguti.hateblo.jp

 

RSGTで話す内容はこんな感じです

マルチトラックのカンファレンスですし、ほかのセッションも充実していると思いますので、話す内容を公開しておこうと思います。

confengine.com

今回のお話は、私がアジャイルコミュニティで学んできたことをちょっとおすそ分けしようというセッションです。今回取り上げるのは、Agile2011 の Linda Rising、RSGT2023 の Lyssa Adkins、スクラムギャザリング東京2011 の Jeff Patton、そして、RSGT2020 で来日してくれた Michael Sahota の著書 "Emotional Science" です。

これまで記事にしたり、ほかのカンファレンスで発表したものがほとんどですが、Day1 午後の最初のセッションということもあり、まだこうした話を聞いたことがない方も想定し、アジャイルスクラムがどういうところを目指しているのか、私なりの視点で描いて説明してみよう、という気持ちで資料を作っています。

 

Linda Rising : 失敗を学びに変えるアジャイルマインドセットとは?

最初に紹介したいのは、Linda Rising さんの Agile 2011 クロージングキーノートです。

enterprisezine.jp

このセッションでは、キャロル・ドゥエックの『マインドセット』という本の内容を紹介しています。私はこの講演で初めて知ったのですが、そのあと多くのビジネス書で参照されるようになりました。Microsoft のCEOサティア・ナデラさんの本でも取り上げられていて、奥さんにお勧めされて読んだこの本に感銘を受け、会社のモットーの一つにGrowth Mindset が掲示されるにいたります。

人々の行動の傾向を大きく二つ「Fixed Mindset」と「Growth Mindset」に分けています。

Fixed Mindset は見栄えの良さとか、褒められることを目指しがちで、能力そのものは変わらないと考えているタイプの人です。外発的動機付けに駆動されているともいえるかと思います。こうタイプの方の問題は、少し難しい挑戦が現れると、それを避けたり、あきらめてしまったりしがちだということです。

Growth Mindset は、Lindaさんは講演で「アジャイルマインドセット」と言い換えてますが、学びを目標にしていて、熟達に向けて自ら努力できる傾向を持っています。こういう方は、困難に対しても、立ち直ったり、柔軟に挑戦できる傾向があるそうです。

アジャイルコミュニティでLindaさんが学んできたこと、コミュニティで語られてきていることは、まだにこの Growth Mindset に重なるのではないか?というのがLinda の語り掛けです。 アジャイルにはエンジニアリングが不可欠と思いますし、Lindaさんもコンピュータサイエンスを専攻したエンジニアですが、こうした心理面も無視しないでほしい、という願いを伝えてくれています。

 

 

Lyssa Adkins : 安定期のない変化の時代こそアジャイル

次に紹介するのは、RGT2023 のキーノートの Lyssa Adkins さんのトークです。字幕つけてますのでぜひお楽しみください。

speakerdeck.com

www.youtube.com

 

これまでの変化は、変化の後に一定の安定期が来る、という性質があったのですが、

昨今の変化は、安定期が来ない、連続的な変化が訪れている、という指摘にうならされました。

スクラムの源流の一つとなった論文 "The New New Product Development Game(竹内・野中)" は、変革期の新しい製品開発のやり方を調査研修したものです。特に、ホンダの初代シティ開発プロジェクトは、タイプC「スクラム」としてされており、結果的にJeff Sutherland 博士たちがスクラムを作るときの名前として採用するほど、影響力のあった事例です。

(なお、今回のクロージングキーノートは初代シティ開発チームにおられ、野中先生の取材対応もされた本間日義さんに話していただきます。)

私たちはもう変化変化の時代にいますので、安定期の手法ではなく、変革期の手法を学ぶべきなのではないか、というのが Lyssa さんのキーノートからの学びの一つです。

この来日の後、ついにLyssa さんの著書が日本語訳刊行されました。翻訳チームお疲れさまでした。

 

Jeff Patton : 話しながら付箋に書いて共有しよう

Jeff Patton さんは、第一回の「スクラムギャザリング東京2011」で初来日されました。今回のキーノートは2回目のRSGTということになります。ユーザーストーリーマッピングに限らず、プロダクトオーナー、アジャイルプロダクトマネジメントといえば Jeff Patton ということで、世界的に有名なスピーカーです。私が最も影響を受けた師匠の一人といって間違いありません。

 

序文に、ユーザーエクスペリエンスの大家、アラン・クーパーがこう記しています。デザイナーとプログラマーが全く違う言語を使っているため、なかなかうまく協業できないという業界の問題があり、そこで、Jeff Patton の手法が大きく役に立つだろう、という見解を示しています。

第一章で紹介されている事例は、史上初のユーザーストーリーマッピングになることになる、ゲーリーさんの事例です。Jeff Patton さんが支援して、音楽スタートアップの創業者であるゲーリーさんが考えているコンセプトをカードに書き出していったのですが、ゲーリーさんは業界にあまりに詳しく、機能を絞れなかったという課題を発見し、その整理を行ったのがこの床いっぱいのカードということになります。

しかし、この事例で忘れてはいけないのは、ゲーリーさんが詳しかったことはとても重要で、ただ、作るには整理が必要だった、という点です。逆に、あまり情報を持っておらず、シンプルなユーザー像や機能イメージだけを持っていたとしたら、もっと早く実現できていたでしょう....けれど、たぶん売れた可能性は低いんじゃないかと思います。

皆さんの職場で、利用者の現場を一度も見たことがないのに新事業を企画したりしていないでしょうか?「情報が足りてないとわかる」ことも重要なヒントなので、整理をすることは重要と思いますが、足りないとわかったら、情報を取りに行く必要があるのだと思います。

また、付箋にリアルタイムに書き出していく素早さが、Jeff Patton の特徴です。初めて見たときは大変驚きました。ああ、アジャイルってこういうことなのか!付箋に書くってこんなに早いのか!と感動したものですが、なかなか通じないのが現実です。付箋やMiro/Muralに情報を高速に、しかも全員で書き込んだり操作することが、アジャイルでは肝になります。未体験の方は、ぜひこのRSGTで体験してみてほしいです。

 

Michael Sahota : 感情的なささくれとうまく付き合おう

RSGT2020でキーノートをしてくれた Michael Sahota さんは、Certified Agile Leadershipという研修を日本で始めてやってくれたトレーナーです。社内のアジャイルリーダーを育てるための彼の研修も本当に素晴らしいのですが、今回は、オードリーさんとの共著の "Emotional Science" を取り上げます。

チームやコミュニティで密に話し合って作業をしていると、ときおり、心がざわめく瞬間に出会います。心理的安全性の高い、真摯に正直に指摘できる関係性であればあるほど、「えっ....」と思うような指摘も出してくれるからです。しかし人は、そうしたときにうまく感情を整理する方法がありません。過去の嫌な体験が思い起こされ、絶対にそれはいやだ、と頑なに反論してしまうこともあるでしょう。

そうしたときに、冷静に戻る重要さや、テクニックを教えてくれる本です。

変化の波を乗り越えていくときには、こうしたテクニックが頻繁に必要になるように思います。

 

アジャイルな変化を続けていくために

アジャイルといっても、ずーっと、アジャイルであり、変化を続けることは容易ではありません。

今回この4つのテーマを通じて、形式的なアジャイルのプラクティスやスクラムフレームワークが語っていない側面について、少し頭を巡らせていただければ、このトークをやる甲斐があるなー、と思っています。

 

気が向いたらぜひ会場でお会いしましょう。

オンラインチケットやサテライト会場もありますので、ぜひご検討ください。

2025.scrumgatheringtokyo.org

 

RSGT2025 虎ノ門サテライト会場【RSGT2025のオンラインチケット購入が必要です】 - connpass

 

ナイトセッション(17時以降に行うカジュアルセッション)もやりますので是非来てねー。(飲みに行く人や、会社に戻る方は気にせず行っちゃってください。)

Regional Scrum Gathering Tokyo 2025 - [ナイトセッション] これが私の生きる道 - 組織の中で自分らしさを貫くアジャイル実践者たちの物語 | ConfEngine - Conference Platform