Jim Coplien さんの認定スクラム研修シリーズが終わりました。つぎはまた6月に来るそうです。あとScrum Book (スクラムパターンの本) もいよいよカウントダウンで、もうすぐ出るみたいですよ!
プロダクトオーナーの研修を手伝いながら、多く受けた質問が「プロダクトオーナーって大変すぎませんか?」でした。いやぁ、間違いなく大変ですよね。
皆さんのお話を聞きながら、プロダクトオーナーの立ち位置について、ハッと気づいたことがありました。
サッカーのフォーメーションにたとえて考えてみる
サッカーというのは11人の味方プレイヤーが協力して、ボールを相手チームの奥にあるゴールに入れると得点、というゲームです。手を使うことが禁じられているので、ボールを誰かが確実に保持するということが出来ず、足元にボールをキープしたり、他の人に蹴ってパスしながら、相手チームの11人の隙をついてボールを運んでいく必要があります。相手ゴールに近いエリアを担当して、攻撃を担うフォワード、自陣に近いところで守備すなわち相手がキープするのボールを奪ったり、前に進むのを防ぐディフェンスという大まかな分担があります。絵に描くとこんな感じ。
上が相手のゴールで、そこに近い人がフォワード、下側にいるのがディフェンスです。(絵では省略してますが、相手チームも同じ人数が上下反対の構成でいます。)
作る人と売る人の分業の世界
ソフトウェア開発ビジネスは、長らくメディアを買ってもらったり、作る行為そのものをあらかじめ買い上げてもらう、事前支払いのモデルがほとんどでした。作る人が作ったものを売る人が売ってくるか、またはあらかじめ作る人の時間を売る人が売ってくることで、売上が立つことになります。サッカーのフォーメーションだとこんな感じ。
今も、こう考えている人が多いんじゃないかと思います。営業部隊を「フロント」と言ったりすることがありますね。顧客に商材を説明して、契約を取ってくるのが、フロントの大事な仕事です。
そして、売りものを作るのが作る人の仕事です。ちゃんと売れるものをちゃんと作る。売れそうなものを考え、予算を取り、人を集め、ものを作って、流通に乗せて届ける。
デリバリーの大きな変化
ソフトウェア開発は新しい分野ですが、多くの変化を経験してきました。パソコン、インターネット、クラウド、スマホ、データサイエンス、機械学習 ...。作り方も届け方もお金のもらい方も変化してきます。
パソコン(やワークステーション)の普及によって、開発現場は大きく様変わりしました。といってもその前を知らないのですが、少なくともパソコン普及以前はすべての人が汎用的なコンピュータを使うということはなかったはずです。作るのも変えるのも、一部の人しかできなかったのではないかと想像します。しかしパソコンやUnixワークステーションは、作る装置も使う装置も同じという特徴がありました。農地や工場に行かなくても、誰でも作る側に回れるのです!なので誰かにお願いして作って貰う必要が本質的にはありません。同じ部屋の中で、欲しいものを作れます。しかも外から買ってくることもできるし、買ったものと作ったものを組み合わせて使うこともできます。
そこで、分業をなくしてチームで作ろう、というのがアジャイルやスクラムの考え方です。あなたは営業、あなたはデザイナー、あなたはプログラマー、あなたはマネージャー、と決めたとしても、目の前のパソコンはケチらない限り共通です。
スクラムのプロダクトオーナーと開発チーム
以下の絵はスクラムのプロダクトオーナーと開発チームの関係について書いたものです。プロダクトオーナーはビジョンや情報に基づき、プロダクトバックログを開発チームに提示できるように頑張ります。開発チームはプロダクトバックログの優先順位に従ってデリバリーできるように頑張ります。
プロダクトオーナーは開発チームにバックログアイテムを提供し続ける
先ほどのサッカーの絵と並べたら、面白いことに気がつきました。
先ほどの図とは逆で、ゴールに近い上側、価値を届けるフォワードが開発チーム、下側でネタを提供するのがプロダクトオーナー、に見えてきました。
常に血液を送る心臓のような働き
特に現在はサブスクリプションモデルが多くなってきています。企業は使う前に契約でお金を取るより、使っただけ支払って貰う方式に変わってきました。ユーザーはいつでも契約を終了することができます。
継続的に使い続けてもらわないと、収入が発生しないのがサブスクリプションモデルです。顧客を引きつけるために、常に革新的なアップデートを提供し続ける必要があるのです。
プロダクトオーナーは、そのために開発チームに常にプロダクトバックログアイテムを提供し続けないと生きていけません。そうしないと、開発チームは価値のある機能を迅速に届け続けることができないのです。脳や手足に常に血液を送り続ける心臓のように、ずっと動かないといけないのかもしれません。
プロダクトオーナーとしては、いいボール供給してガンガン得点してもらえるといいですね。