沖縄でみんなでつくった Fun! Done! Learn! が広がりをみせていて、作った人の一人としてとても嬉しいです。ちなみに私の貢献は寝坊して起きてきた朝に「いいねそれ!」って言ったことと、「Deliverは長いし、汎用性考えるとDoneのほうが使いやすそうだし、なにより英語でも日本語でも語呂がいい」って主張したくらいです。つまりだいたい私のおかげだと思っております(壮大な勘違い)。
大事なポイントは、私たち、全然教えてないのに、これだけ広まって、成果の声が届いていることです。これは、なんかすごいものを、見つけてしまったのではないかと感じています。みなさんの共通の、心のなかにあったものを、見える化できたんじゃないかと。
このエントリは、私の心の中にあったものを、書き出してみたものです。Fun! Done! Learn! とは一体なんなのだろうか。私なりの捉え方です。(捉え方は人それぞれでよいと思います。)
KPTじゃだめなの?
私としてはKPTを否定したいつもりは1ミリもありません。第一人者である天野勝さんからお話聞いたときに「Keepで現状よかったことをちゃんと認識するのが大事」というのを聞いて、ほんとにそうだなぁ、と思っています。ProblemやTryの前に、ちゃんとKeepがあるのがいいんですよ。課題認識と改善のネタ出しは大事なんですけど、それだけでは、チームにないことばかり話してしまいます。
メンバーが自信を持って前に進むには、ちゃんと、できてることを認識して、増やしていかないといけません。チームにできることがあるから、次の仕事の依頼があるわけですし。チームの価値を、自分たちがわかってないと売れないし、誰かに言わないと勘違いしてた時に直せない。
スタート・ストップ・コンティニュー
海外の書籍では、ふりかえり手法としてスタート・ストップ・コンティニューがよく参照されていて、海外ではデファクトスタンダードなのかなと思います。やめること、続けること、始めてみること、ですね。
チームや個人の態度とかではなくて、事実としてコトを認識して、合意するのがよいところなんじゃないかと思います。犯人探しより、「問題対私たち」の状況を作って、ポジティブに対応できそう。
XPとプロジェクトファシリテーションが日本のアジャイルコミュニティを牽引してきた
日本では、2000年代前半からXPコミュニティがアジャイルコミュニティを推進してきました。また、フルのXPを入れられなくても、見える化などを進めましょうということで、プロジェクトファシリテーションと銘打って、ふりかえりやタスクかんばんを中心に普及を進めてきた、という流れがあります。
まず開発チームで、ふりかえりをやってみましょう、と。ウォーターフォールのままでも、今週やったことをちゃんとふりかえって、課題があれば解決を考えていきましょう。そこからアジャイルは始まるんじゃないでしょうか、という提案でした(と思います)。
もちろんいまでも、XPを中心にしているチームがありますし、プロジェクトファシリテーションやふりかえりを中心に普及活動されている方がいます。
スクラムの中で使うことを考える
で、2010年代は日本でもスクラムが普及してきまして、最近はスクラムからアジャイルに入った人たちが多いかなと思います。私がスクラムを教えたりカンファレンス運営をしている都合上、多く耳に入ってくるってだけかもしれませんけれど。
スクラムを前提として考えた時に、ふりかえり(レトロスペクティブの役割はちょっと変わるのかもしれないな、と気づきました。(いやそれは違うぞというご意見もお待ちしてます)
スクラムおさらい
スクラムではPDCAサイクルに似ていて、スプリントと呼ばれる1-4週間のサイクルを、プランニング→ワーク→レビュー→レトロスペクティブ(ふりかえり)で一周します。
- プランニング : チームとして取り組める範囲を予想し、実施計画を立てる
- ワーク : 仕事を進め、各プロダクトバックログ項目を完成させ、出荷判断できる状態にする (毎日デイリースクラムをして動的に再計画を行う)
- レビュー : 成果物を関係者に見せてフィードバックをもらう、状況をアップデートしてプランを見直す
- レトロスペクティブ : 計画、実施、フィードバックを踏まえ、チーム自身で進め方について見直す
それぞれのミーティングや役割はいろいろ決まっている(ベストプラクティスがある)のですが、目指すところは、
- ワークの時間をなるべく中断なく、多くとって、
- チームが自律的に作業を進められるようにし、
- 進め方の改善もチーム自身で行うことで、
- 顧客や組織の課題に対応できるチームを作る
ということです。作る人々(チーム)を中心にして、アウトプットを出しながら、ちゃんと育っていくようにする。
Ping Pong Game ピンポンゲームでスクラム体験ワークショップ - Speaker Deck
スクラムは経験主義に基づく
スクラムでは、レトロスペクティブをやる前に、まずはプランニングをしているわけです。プランニングの完了時点までに、チームがワークに着手できる状態にします。チームはこのスプリントで自分たちが何をやろうとしていたのかを知っている前提です。
また、デイリースクラムでもやり方を話し合っていたり、レトロスペクティブ以外に、やり方を話し合うチャンスがいくつもあります。チームのコミュニケーションを密に保つのが特徴です。
そして、スクラムは「経験主義(empirical)」に基づきます。チームの実力は、前回までの スプリントの成果をもとに予想します。「チームはどうあるべき」という理想論ではなく、過去の実績値に基づいて天気予報のように先をみていこう、というのが根底にあります。速度=ベロシティの予測で、昨日の天気*1というのを聞いたことがある方も多いと思います。まずちゃんと現実を見ようよ、ということです。誰かが決めた目標値ではなく、自分たちの体温を見て、今日の体調を確認しようということです。
スクラムのレトロスペクティブで陥りがちな罠
一方で、これはスクラムのコミュニティでよく聞くのですが、「レトロスペクティブでKPTをつかっているのだけど、Problemばかりが出る。また、Tryがまったく着手されなくて残る」ということがあるようです。
この問題はチームのマンネリ化を呼んでしまうので、対策として「Tryはアクションアイテムとして必ず次にやるようにする」という話もよく聞きます。よいことと思います。自分たちでそう決めるなら、特に。
でも、なんかルールが増えていっても、あんまり楽しくない感じがします*2。なにか大事なことが言語化できてない気がする、と感じていました。
レトロスペクティブの第一法則
以前、レトロスペクティブの祖であるノーム・カースさんの第一法則を紹介しました。
どんな道をだどったにせよ、当時の知識・技術・能力・利用可能なリソース・状況の中で、みんなができる限り最高の仕事をしたはずです。それを心から信じます。
これを調べた時、「これだ!」って思いました。
まずは、これを言語化したらいいと思うんです。自分たちは、ベスト尽くして、なにをやってきたのか。現状のベストの確認です。
そのあと、沖縄で生み出されたばかりの Fun! Done! Learn! に出会うわけですが、そこでも「これだ!」って思うわけです。みんな同じようなこと考えてたんですね。
自分たちがやったことにフォーカスする
改善案を考える前に、まず、現状をちゃんと見回すべきだと思います。このスプリントでなにをやってきたのか。なにが楽しかったのか (または大変だったのか)。そこからなにが学べたのか。... シンプルにこれを見直すためのフレームワークがFun! Done! Learn! です。
そこには、感覚的なものも含め、事実しかありません。感情もまた、その時誰かが感じた事実です。実際やってみた人たちから「すごくたくさん事実が集まる!」という反響もいただきます。
そんな事実も、時間がたってしまうと記憶が風化して、あいまいな思い出に変わってしまいます。ですので、スプリントの最後にやって、まだ新鮮な記憶のうちに、共有するとよいのではないかとおもいます。
https://speakerdeck.com/kawaguti/fun-done-learn?slide=34
ProblemもTryも仮説にすぎない
その事実の上に、課題を見つけ、解決策を考えていくとよいはずです。私の感覚だと、事実を話し合うと、自然と課題や解決策の話も出てきます。やったことがあることには、もっとうまくやる方法のアイデアが出てくるものだと思います。
人は、学び続ける動物である。なぜそういえるかというと、人が問題を解いていたり、新しい問題の解を見極めたりする時どういうことが起きているかを詳細に観察してみると、人は、何かが少し分かってくると、その先にさらに知りたいこと、調べたいことが出てくることが多いからだ。人はなにも知らないから学ぶのではなく、何かが分かり始めてきたからこそ学ぶ、ともいえる。
(第一章 P.13-14)
だってみんな、今後もずっと付き合っていくような、自分たちの仕事なら、もっとよくしたいと考えますよね。もっと効率的で、価値が高い仕事をして、お客さんやユーザーさんに喜んでいただいて、ちゃんとお金をいただきたい、と考える。
そこを信じましょう、というのがスクラムの根底であり、アジャイルでも語られていることです。アジャイルマニフェストの12の法則に、こうあります(下段は私が作った反例です)。
Flipped Agile Manifest - Speaker Deck
まずは、自分たちの目で、自分たちがやってきたことをちゃんと見る。そのうえで、もっといいやり方を考えていく。この順番が大事だと思います。
ベターベターの積み重ね
話は飛びますが、トヨタ自動車の豊田章男社長が、年頭のメッセージで、トヨタの文化は「ベターベターの積み重ね」だとおっしゃっていました。これを見たとき、まさにそれだ!と思いました。ちゃんと現場をみて、自分で動いて、よりよい方法を一つ一つ試していく。スクラムでもその意識が大事なんじゃないかなと思います。このビデオとても素晴らしいので是非どうぞ。
INSIDE TOYOTA #1 豊田章男からのメッセージ ~”自分”のためにプロになれ!~
結論: Fun! Done! Learn! は現状のチームを把握するのにとってもいいよね!
ということで、とっちらかってますが、Fun! Done! Learn! は現状のチームを把握するのにとってもいいよね!っていう思いを書きました。今日よりも明日。今週よりも来週。仕事は続くよどこまでも。いいチームを目指していきましょう。
みなさんが、いい成果を出せることを願ってます!
Fearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン
- 作者: Mary Lynn Manns,Linda Rising,川口恭伸,木村卓央,高江洲睦,高橋一貴,中込大祐,安井力,山口鉄平,角征典
- 出版社/メーカー: 丸善出版
- 発売日: 2014/01/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (16件) を見る
- 作者: リチャード・シェリダン,原田騎郎,安井力,吉羽龍太郎,永瀬美穂,川口恭伸
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2016/12/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (3件) を見る