Beyond Budgeting (脱予算経営) という概念について

昨年ヘンリックのTweetで知った Beyond Budgeting という概念について、昨日ちょっと触れたところ、(うちの代表でない方の)谷口さんにヒットしたみたいなので、自分なりに理解しているレベルで書いてみる。きちんと本を読んだわけでもないし、きっと間違っているところがあると思うので、いろいろご指摘いただけるとありがたいです。

予算で計画をする組織と、イノベーションのための社内ベンチャー

年次ないし四半期の予算およびその執行を監視するという従来のマネジメントのやり方というのは、中央集権的に組織を管理するためのやり方で、そうすると、現代のように顧客やステークホルダに寄り添ったところでイノベーションを生むことが重要視される企業運営にはちょっと向いてないんじゃなかろうか、という話だ。

企業全体をマネージするためには、全ての情報を中央に集め、一体的にスピード感をもって判断をしなければならない、というのは正しいように思えるのだけれど、判断が一カ所に集中するということは、伝達(形式知化)と時間調整のムダを最大化してしまう。それよりは現場をよく分かっている現場に近いチームが判断する方が効用が最大化するじゃないの、というのが、例えば現地現物とか、スクラムのようなマネジメントスタイルが主張している文化ではないかと思う。

そこで、企業のサイズを小さく保とう、というのは、最近のスタートアップ方面でよく聞かれる話ではないだろうか。37シグナルズの本「Rework ( 小さなチーム、大きな仕事)」でも、人を増やさないことがうたわれている。小さな組織が集まり、投資や育成を含めたエコシステムを作る、というのが Y Combinator のようなモデルなのかな、とも想像する。

一方で、既に大きな組織ではどうしようか、というのも議論されてきた(自分が議論してきたわけではないから、本を読んでそう思っただけだけど)。「イノベーションのジレンマ」「イノベーションへの解」でクリステンセン教授は「社内ベンチャー」という独立組織を提案しているし、「イノベーションの知恵」でも野中先生がそういった独立組織の成功例をあげている。これらのポイントは、従来型のサービスや製品で利用している、厳格/精密/最適化された予算と執行、人事評価の仕組みから切り離した、新しい挑戦と失敗を許容できるチームを作る、ということだ。そういう文化を好むイノベーティブな社員は会社を辞めてベンチャーに移ったり立ち上げたりしてしまうので、彼らを活かす方法、という意味合いもあるのではないだろうか。

Beyond Budgeting (予算レス経営 脱予算経営)

Beyond Budgeting は、同じく大きな組織での処方箋ではあるが、中央集権的な方法ではなく、各チームの自律性に任せ、メトリクスによって全体を調整するという考え方である。

従来型の組織は、継続的に利益を生み出している屋台骨であるがため、予算が予測可能、ということになっている。ある程度正確な予測をたてなければ、給与やオフィス賃料から福利厚生にいたるまで、会社のいろいろな計画が進まないのだから、やはり予測の正確性には気を使うようになっていきがちだ。予測性の根幹は売上予測なので、例えばリーマンショックのようなことがあると、企業運営に大きな誤算を生むようになる。資金というのは余るより足りなくなる方が圧倒的に困るので、緊縮型の予算を組む方に振れやすく、現在収益に直結していない部門から順、切りやすい順に予算を切り詰めていくことになる。そのため、期初は予算に余裕があり、期の途中で未執行の予算が絞られ、期末には税金対策のために経費の前倒し執行が奨励されたりするのは、わりとよく聞く話ではないかと思う。

予算というのは、税務や決算期に依拠すると、年次またはそれを1/4に細分化したものになる。年次の場合、最初にたてた計画を1年がかりで実施することになり、半年以上先のことが予測しがたい状況だと、後半に向かってロスが出やすいだろう。これはソフトウェア開発で、ウォーターフォールモデルが批判されるのと似ている。1年単位の納期の案件の相対的なボリュームが減ってきている、ということもアジャイルが注目される一因ではないかとみている。

Beyond Budgeting は「予算以外のKPIで経営判断をしよう」「資金がショートするかどうかは、執行情報を常に集め、リアルタイムでキャッシュフローを確認していく」「最も情報を持っている現場が最良の判断と執行を目指すことを信頼し、判断をなるべく現場に任せる」ということになる。

Beyond Budgeting は2000年代前半から出てきた考え方で、BBRT (Beyond Budgeting 円卓会議) という人たちが研究をしているようだ。洋書では2冊の本が有名で、メアリー・ポッペンディークの本でも、後者(Imprementing〜)が参照されている。

とりあえず今分かっている、考えていることはこれくらいです。

追記: 日本語訳が出てた

谷口さんに教えてもらいました。

追記

12の原則というのがあったので訳しました。
kawaguti.hateblo.jp