Agile2012 の基調講演は スタンフォード大学のロバート・サットン教授です。
手がきのメモをベースに搔き起こしたものを置いておきます。生焼きのものですみません。
Keynote: SCALING UP EXCELLENCE by Robert Sutton
経営の分野、特に組織文化や習慣/ルールと結果の整合性について、「よく信じられていること」は本当なのか?という視点の著書がある。HARD FACTSという本についてはこのブログでも紹介した (HARD FACTS 〜 事実に基づいた経営)。
冒頭で、"Good Boss, Bad Boss" "No Asshole Rule" の2つの著書が紹介された。
- 作者: サットン,I.R.,矢口誠
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/04/11
- メディア: 単行本
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今回のメイントピックはよい企業文化(Excellence)を、企業規模の拡大に応じて行き渡らせる方法について、である。アジャイルな文化はしばしばスケールアップ問題に直面する。プラクティスやルールを文書化して全体に行き渡らせることは可能かもしれないが、それは文化を行き渡らせたことになるだろうか?結果としてうまくいくだろうか?形だけ真似ていないだろうか?という問いがある。その点は昨日のマイケル・サホタのセッションでもメインの課題として取り上げられていた。
Center of Excellence という活動がある。企業のよい文化とは何で、それを普及されるにはどうしたらいいか?よい文化を持っている企業には、Center of Excellence を持っていることが多いらしい。
組織文化のスケーリングとは何か、それは、同じマインドセットを持った人々の数を拡大する(spread)ことだ。同じ信念(same belief)を共有すること。アジャイルは、Dean Leffingwellによると、空中戦ではなく地上戦である。PowerPointのスライドで伝える、というようなものではない。マインドセットのシフトをおこす必要がある。
アジャイル開発の本質とスケールアップ 変化に強い大規模開発を成功させる14のベストプラクティス (IT Architects’ Archive)
- 作者: ディーン・レフィングウェル,玉川憲,橘高陸夫,畑秀明,藤井智弘,和田洋,大澤浩二
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2010/02/18
- メディア: 大型本
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Facebookには新しく参加した社員向けに、ブートキャンプという研修を行っている。期間は6週間。エンジニアによって企画され、エンジニアによって運営される。この研修が終わるまでの間、その社員の役職は明確に定義されることはない。この研修で、Facebookのコードベース(自社システムのソースコードは社内に共有されている)の全体を把握する。そして、"Move fast and break things" つまり、素早く開発して、現在のやり方をどんどん壊していく、というモットーを体験するのだ。"touching the metal (熱い金属に触る)" ともいうようだ。
スケーリングについて、選択を迫られるポイントが3つある
- 選択のポイント1: More (もっとたくさん) ve Better (よりよく)
- 選択のポイント2: Alone (一人で) ve with Others (他の人と)
- 選択のポイント3: Chatholicism (カトリック) vs Buddism (仏教)
1つ目のポイントは、人々のラーニングカーブ(学習曲線)を認識するということ。一度に拡大しても追いつかない。2つ目は、すごい人がより多くのアウトプットを出すか、協調を優先するかということ。P&Gは「Radical Collaboration (過激なコラボレーション)」というモットーを持っている。一方でPixorのいる映画業界は、industry of extreme "doing it alone" (独力でやり遂げることを突き詰めた業界) (そのなかでPixerがどうであるかは聞き取れなかった)。3つ目はカトリックというのは基本的に同じ考え方をコピーして広くあまねく布教するは、仏教はローカライズを中心に各地域の文化にあわせた布教をおこなったということ(日本人にとってはなじみ深い)。Replication trap(コピーの罠)というのがあり、同じものをコピーしても各市場で対応できなかったりする。アメリカのホームデポは中国に出展したが、当地にはDIY(日曜大工)の文化がなく、半数以上の店舗が撤退した。IHIという病院の例では、現場ごとの多様な対策で、88%の誤投与を削減したという。「話しかけないで」という黄色いジャケットを着て作業する写真が紹介された。
次にスケーリングに関する7つのキーポイントを紹介した。
- 1. Link hot causes and cool solutions
- 人間は感情で動くので、論理的な理由よりも、怒りなどの感情的なポイントが説得要因になる
- 一方で提案する解決方法は、論理的でスマートなものを
- スティーブジョブズは "マイケルデルをFxxx"とまで言った
- 2. Live in mindset, don't just talk about it
- 強い信念は、行為によって伝わる
- JetBlue の Bonny Simi はある施策についてスタッフに聞いた 「これがうまく行くと思っている人は何人いる?」だれも手を上げなかったので、とりやめた。
- 3. When in doubt, cut it out. Redice cognitive load -- but deal with necessary complexities
- 4. Little things pack a big wallop: Subtle cues mobilize mindset
- 5. Connect people and cascade excellence
- 6. The mindset is the steerling wheel, incentives are juice
- マインドセット(善し悪しの判断)が方向を決め、インセンティブ(金銭/非金銭)が燃料となる
- インセンティブは金銭だけではない
- マインドセット(善し悪しの判断)が方向を決め、インセンティブ(金銭/非金銭)が燃料となる
- 7. Don't put-up with destructive beliefs and behaviors
- 破壊的な行動を避ける
- 悪い行動の印象は、よい行動の印象の5倍残る
- Cost Plus Market 社の Barry Feld CEOの店舗観察のポイント
- 1. 快くゲストを迎えてくれるか
- 2. トイレは清潔か
スケーリングに関しての罠は2つ。
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- 1. Mistaking swarming for scaling
- 2. Too fast, too far
- 「本当にやるべきことをするには、時間が足りません」という発言があったら危険信号!
まとめ。
組織文化のスケーリングには、足し算と引き算をうまく使い分ける必要がある。よいものを付け加え、不必要なこと、よくないことをなくす。