学生向けPBL 最終回に伝えたいこと

この講義のスタッフは、現役の企業人で構成されています。実際の社会人生活で起きてきたことを、できる限り再現することを目標に作りました。

まず、受講者をお客様として扱わないこと。

企業では、皆さんはお客様ではありません。何か社業に関わることに貢献する人材として期待されています。ですので、準備が整った講義を予定通り受講できるような世界は、一切ありません。

私たちは一時的な大学教員ではありますが、皆さんに対して教育サービスを提供するつもりで準備はしていません。その点で他の講義と大きく違う点があり、戸惑った方もいらっしゃると思います。

でも、社会に出ると万事この通りです。そこは、できる限りリアルに作ったつもりです。

準備も、かなりできている方だと思います。皆さんも修士一年でお忙しいと思いますが、私たちもフルタイムの仕事がある中で、夜に時間を作り、環境を整えてきました。お互い様です。

人によっては、準備ができていないことに不満を持つ人もいるでしょう。人のせいにする人のことを「他責指向」と呼びます。社会に出て何か活動をするときに、他責指向の人は、なかなかうまくいきません。人を助ける人が、長期的には頼りにされ、一人でできる以上の実績を出していくのを、私たちはたくさん見てきました。他のチームを助けることを、この講義の評価としてとても重視しました。それは、皆さんにできる限りこの成功の秘訣を体験してほしいからです。

教育課程では、皆さんを競争させ、トップを取った人に良い成績を与えるという、外発的動機付けで評価をするケースも多くあると思います。一見それはフェアに評価できるように見えるかもしれませんが、社会で必要なのは、チーム全体やもっと大きな組織全体での成功に貢献することです。一人一人を競争させることで評価をつけるのは、それが単に楽だからです。

例えば、ある企業が何か製品を売っているとして、それを最もたくさん売った人が評価を受けることは、それなりの妥当性があると思いますが、一方で、その製品を作るために努力した人、とてもスムーズに運搬できるようにした人、売った後にサポートをして企業のイメージをよくした人...多くの貢献があってその製品が売られており、それがブランドの全体を構成します。優れた企業は、さまざまな立場の関係者の皆さんの内発的動機付けに支えられて成り立っているのです。

この講義は、情報科学の講義の一環なのですが、この仕事のなかには人間関係に関することが多くかかわります。そもそも人々の要求をかなえるという時点で、人とのコミュニケーションは欠かせないのです。

ソフトウェアが抱える問題の多くは、社会的なものです。 ―― Tom DeMarco & Timothy Lister『ピープルウエア』

それでも、チームとして結果を出していく必要があるのが社会です。もしかすると、他責指向の人がチーム内にいたかもしれません。すごくできる人かもしれません。でも、そういう人と仕事をするのは、とても疲れます。一緒に仕事をすると、気持ちが落ち込むような人たち。そういう人を、ブリリアントジャークとか、クソッタレ(Asshole)といったりします。これは経営学者が作った用語なので、一般的なものです。今後もそういう人はいらっしゃるでしょう。

参考:『あなたの職場のイヤな奴』ロバート・I・サットン(講談社)

準備が十分にできていない中でもベストを尽くす姿をお見せしたつもりです。社会人生活で必要なことの一つが、この姿だと考えているため、できてないふりをすることなく、皆さんにできる限り透明性をもってお伝えしたつもりです。


この講義の中ではあまりアジャイルを強調してきませんでしたが、私たちは、アジャイルのコミュニティに属しています。短い期間でスプリントを行い、毎回動くソフトウェアを使ってもらってレビューをもらったり、そのことを通じて多様な専門家が集まったチームで、より上手に作れるようになっていくことを目指しています。

技術を高めることは大変で、短い期間ではなかなかうまくならない部分もあります。必要とされる範囲も広く、さらに日進月歩で高度に発展してしまいますので、常に情報を集め、学び続けることが必要な業界です。ソフトウェアはコピーできるものですので、これから作る必要があるということは、まだ世の中に存在しません。ですから、予測も難しいことが常です。

ただ作ればいいということではなく、ユーザーのアウトカム、ビジネス上のインパクトを出してこそ、作り手である私たちの給与の原資が生まれるのです。

参考:あなたのプロダクトの価値はなんですか?いまさら聞けないアウトカムとインパクトの話 ジェフ・パットン氏基調講演 RSGT2025


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アジャイルは、予定通りに行かないビジネスの世界で、現実に即して、できる限りのことをするプラクティスの集合体です。そこには、お客様はおらず、全員が貢献者としてふるまいます。あなた方のために親切丁寧に準備を整えてくれる先生はいません。

私たちはこれまで、そういう世界で、準備が整っていない環境の中で、できる限りの準備を進めることをしてきました。

予定通りに事が進むなら、誰でもできることです。それでは商売になりません。


ぜひ、皆さんの今後の成功を祈っています。

興味を持っていただいた方は、アジャイルコミュニティでお会いしましょう。