【動画シリーズ】脱予算経営(Beyond Budgeting)をIT視点で学ぶ

「予算が足りないからできません」「予算は来期まで動かせません」——こんな言葉を聞いたことはありませんか?

でも本当に足りないのは予算なのでしょうか。足りないのは、現場に裁量を任せるだけの度量と、リスクのある挑戦的な活動に対する社会的な寛容さではないか。そしてそれを支える仕組みと文化の両面が必要なのではないか。

そんな課題に対する一つの答えが「脱予算経営(Beyond Budgeting)」です。

スクラムギャザリング東京実行委員会のメンバーが、会計の専門家を交えて脱予算経営について語る動画シリーズを公開しました。IT業界の視点から、なぜ今この考え方が重要なのかを掘り下げています。

脱予算経営との出会い

私(川口)が脱予算経営に出会ったのは2012年、Agile 2012のキーノートでした。当時の理解は「予算を使わない代わりにキャッシュフローの透明化をして、各部門の裁量になるべく任せる」というものでした。

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その後、2022年にJoe Justice氏のトレーニングでテスラ社が脱予算経営を実施している話を聞き、改めてこの考え方の可能性を感じました。テスラ社は給料が時給制で均一、リーダーは特に偉いわけではなくそのロールをこなしていて、技術進歩のためにみんな働き、ストックオプションで資産形成をしているとのこと。お互いの削りあいが不要になり、みんなで前を向ける仕組みです。

そこでBBRT(Beyond Budgeting Round Table)が提唱する12の原則を日本語に訳しました。

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アジャイルを学んで作られたわけではないのに、アジャイルとの共通性が非常に高い。現代のマネジメントの「よい原則」というものが変わってきたことを、それぞれが感じて一致していたのだと思います。

スクラムの源流にあった「任せる文化」

80年代、スクラムの源流になった野中郁次郎先生たちの論文「The New New Product Development Game」。そこで観察されたホンダの初代シティプロジェクトでは、風通しがよく自由闊達にアイデアを出し合う文化があり、そこに任せる上層部の意思がありました。

RSGT2025のクロージングキーノートで、当時のホンダで初代シティの開発に関わった本間日義さんがその様子を語っています。

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ワイガヤは単なる知識の集合ではなく、スパイラルアップしていくもの。異分野の人たちと横に広げていく。70年代後半から80年代前半、日本のプロダクトが世界で一番強かった時代に、こうした文化があったのです。

脱予算経営が目指す「現場への権限委譲」「信頼」は、かつて日本企業が持っていた強さの源泉でもあるのかもしれません。

スクラムフェスとRSGTでの実践

2023年7月から、一般社団法人スクラムギャザリング東京実行委員会で脱予算経営を実践しています。全国各地で立ち上がったスクラムフェスを横に並べて月単位の集計表を作り、各カンファレンスの月額収支と全体での残額を把握できるようにしました。

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ポイントは見える化と相互扶助です。赤字になれば他のカンファレンスから借りることになり、黒字なら他のカンファレンスを助けることになる。私たちはボランティアで給料は出ていませんので、お互いに格差も競争もありません。「こういう経費使っていいですか?」という問い合わせも承認もせず、すべて各地の実行委員の皆さんが自律的に検討しています。

動画シリーズ(全4本)

【前編】脱予算経営とは?IT視点で語る Beyond Budgeting 入門

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2014年のアジャイルカンファレンスでビャーテ・ボグネス氏が行った基調講演をきっかけに、IT業界における予算管理の課題と、脱予算経営がアジャイル開発とどう親和性があるのかを議論します。

主なトピック:

  • IT業界における予算問題の「あるある」
  • プロフィットセンターとコストセンターの対立構造
  • なぜエンジニアは「コスト意識がない」と言われるのか
  • 予算が問題解決の天井になっている現状

出演: 川口恭伸、永瀬美穂(スクラムギャザリング東京実行委員会)


【中編 Part1】会計の専門家が解説!脱予算経営の基礎知識

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早稲田大学大学院会計研究科長の清水孝先生をゲストに迎え、会計の基礎知識を整理しながら脱予算経営について議論します。

主なトピック:

出演: 川口恭伸、永瀬美穂、服部佑樹(GitHub Japan)、清水孝(早稲田大学大学院会計研究科長)


【中編 Part2】マイクロソフト地方銀行の事例から学ぶ脱予算経営

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GitHub Japanの服部佑樹さん(元マイクロソフト)の経験談を中心に、大企業における予算管理の課題と脱予算経営の実践について議論します。

主なトピック:

  • マイクロソフトと日本大企業の予算管理の違い
  • プロダクト開発 vs プロジェクト開発
  • インナーソースと「予算の切れ目が縁の切れ目」問題
  • 地方銀行における脱予算経営への転換
  • 顧客本位の経営と予算制度の矛盾
  • トラストを取り戻すためのBeyond Budgeting

出演: 川口恭伸、永瀬美穂、服部佑樹(GitHub Japan)、清水孝(早稲田大学大学院会計研究科長)


【後編】テスラの実践から学ぶ!脱予算経営を組織で実現する方法

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テスラ・スペースXでの脱予算経営の実践例と、スクラムギャザリング東京実行委員会での具体的な取り組みを紹介します。

主なトピック:

  • テスラ・スペースXでのBeyond Budgeting実践
  • 時給制+ストックオプションによる給与設計
  • スクラムギャザリング東京の地方展開と権限移譲
  • 「聞かれたら全部OK」から始める信頼ベースの運営
  • ローリングフォーキャストと相対的目標の使い方
  • 脱予算経営は「ツール」ではなく「考え方」

出演: 川口恭伸、永瀬美穂、服部佑樹(GitHub Japan)、清水孝(早稲田大学大学院会計研究科長)

※テスラ・スペースXでの実践については、スクラムフェス三河でのJoe Justice氏のキーノートで詳しく紹介されています。

Keynote: Joe Justice - Agile at Tesla and SpaceX(テスラとスペースXにおけるアジャイル

www.youtube.com


Beyond Budgeting 12の原則

動画の中でも触れていますが、脱予算経営にはBBRT(Beyond Budgeting Round Table)が提唱する12の原則があります。

リーダーシップ原則

  1. 目的 - 大胆で崇高な目的のために人々を巻き込み、奮起させる。短期的な財務目標ではなく。
  2. 価値 - 共有された価値観と適切な判断によって経営する。細かいルールや規則ではなく。
  3. 透明性 - 自律的な規制、イノベーション、学習、コントロールのために情報をオープンにする。
  4. 組織 - 強い帰属意識を育み、責任あるチームを組織する。階級的管理・官僚主義を排除する。
  5. 自律性 - 人々を信頼し、自由に行動させる。もしそれを乱用する人がいても全員を罰することはしない。
  6. 顧客 - 全員の仕事を顧客ニーズと結びつける。利益相反を回避する。

マネジメントプロセス

  1. リズム - ビジネスリズムやイベントに合わせて、ダイナミックにマネジメントプロセスを組織化する。
  2. 目標 - 方向性と、野心的・相対的な目標を設定する。固定の、カスケード目標を避ける。
  3. 計画と予想 - 計画や予測を、無駄のない公平なプロセスにする。硬直的で社内政治的なエクササイズではなく。
  4. リソース配賦 - コスト意識を醸成し、必要なリソースを提供する。年次の詳細な予算配分を行わない。
  5. パフォーマンス評価 - 学習と能力開発のために、パフォーマンスを総合的に評価する。
  6. 報酬 - 競争ではなく、ともに成功することに報いる。

ビャーテ・ボグネス氏 来日イベント

動画シリーズでも繰り返し登場するビャーテ・ボグネス氏が来日します!

RSGT2026 基調講演

Regional Scrum Gathering Tokyo 2026では、ビャーテ・ボグネス氏が基調講演を行います。

一日集中ワークショップ

RSGT2026の前日には、ビャーテ・ボグネス氏による一日集中ワークショップも開催されます。

Beyond Budgeting - 組織のアジリティを解き放つ

脱予算経営の第一人者から直接学べる貴重な機会です。

このワークショップは、ノウハウを得るだけでなく、会計、財務、IT、マネジメント、インナーソース、さまざまな立場の人が集まる場になったらいいなと思っています。

脱予算は、トップダウンで降りてくる予算がなくなるだけで、現場ではちゃんと自分たちで目標を立てて達成に向かって努力する。それを信頼する企業会計の取り組み。

脱予算経営はエンジニアにも会計関係者にも経営者にもマネージャーにも、急成長スタートアップにも大企業にも役立つ取り組みだと思います。むしろ「全方位から他人事にされそう」という危機感もあります。だからこそ、様々な立場の人が一堂に会して議論できる場を作りたい。

動画シリーズを見て興味を持った方は、ぜひご参加ください。


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