Scrum Fest Morioka 2026 基調講演にむけての参考文献(元ネタ)リスト

大変光栄なことに、2/20-21 に初開催される Scrum Fest Morioka 2026で基調講演の機会をいただくことになりました。

スクラムフェス盛岡2026

 

何を話すのか?

話す内容としては、いつも私が話してきたようなことを、まとめられればと思います。同じ人間が発信してきたことですので、その背景にはなにがしかの一貫性や、趣味性が現れるだろうと思いますが、改めてまとめてみないと本人も意識することは滅多にないもので、良い機会を与えていただいたと勝手に解釈して、ここにまとめてみました。

 

以下、基調講演に向けて、私が影響を受けてきた本や考え方のリストを公開してみようと思います。

 


スクラムの源流

野中郁次郎・竹内弘高「The New New Product Development Game」(Harvard Business Review, 1986)

スクラムの源流となった論文。ホンダやキヤノンの製品開発を調査して「ラグビーのように一体となって進むチーム」を描いた。Jeff Sutherlandがこの論文からScrumという名前を取った。スクラムの源流にあたる論文です。

The New New Product Development Game

野中郁次郎・竹内弘高『知識創造企業』

暗黙知形式知の相互作用(SECIモデル)。「最初に理論ありきではない。最初に思いがあって行動があって、その本質を極めて初めて同時に形式化する」という野中先生の言葉は、RSGTの運営そのものです。

Jeff Sutherlandからのビデオメッセージ(2011年)

Innovation Sprint 2011で初めていただいたビデオメッセージ。ここからRSGTが始まりました。


組織と制度

Daron Acemoglu & James A. Robinson『国家はなぜ衰退するのか』

包括的制度(inclusive institutions)と収奪的制度(extractive institutions)の対比。特定のリーダーが引っ張る組織ではなく、みんなで作る組織の方が長期的に繁栄する。RSGTが特定のスター講演者に依存せず、オープンプロポーザルで運営している理由の一つです。2024年ノーベル経済学賞

田中芳樹銀河英雄伝説

唐突ですみません。アセモグルの理論を物語として体験できる作品だと思っています(書かれた時代は逆ですが)。優れた専制君主による統治と、衆愚に陥りがちな民主主義。どちらが正しいかではなく、特定の英雄に依存しない仕組みをどう作るか。ヤン・ウェンリーの問いは、コミュニティ運営にも通じます。第一巻だけで十分なボリュームです。

 

幸村誠ヴィンランド・サガ

「敵なんていないんだ」。トルフィンがたどり着いたこの言葉は、「比較優位で語らない」という私たちの姿勢と繋がっています。競争相手を作らない、誰かを打ち負かすことを目指さない。

 

 

Bob Sutton & Huggy Rao『Scaling Up Excellence』

Buddhism vs Catholicismの連続体。同じプラクティスを複製していく(Catholicism)か、ローカルニーズに合わせたアプローチを許容する(Buddhism)か。スクラムフェスが全国に広がるとき、各地が独自のテーマを持てるようにしてきたのは、このBuddhism側の考え方です。「成長にブレーキをかける勇気」も大事にしています。

 

Beyond Budgeting(脱予算経営)

年次予算を組まない。入ったら使う、入らなければ使わない。承認プロセスを置かない。RSGTとスクラムフェスは10年以上この方法で運営しています。驚くほどアジャイルの原則と重なっています。

 


心理的安全性とマインドセット

Google re:Work「効果的なチームとは何か」(Project Aristotle)

効果的なチームの最も重要な要素は心理的安全性。リスクを取っても安全、失敗しても非難されない、質問や意見を言っても大丈夫。心理的安全性があるから知的コンバットができる。本間さんが「当時のホンダにあったようなワイガヤの場がここにありましたね」と言ってくれたのは、この心理的安全性があったからだと思います。

rework.withgoogle.com

Carol Dweck『Mindset』/ Linda Rising

Growth Mindset。能力は固定ではなく成長できるという信念。失敗を学びの機会と捉える。Linda RisingはこれをAgileの文脈で広めてくれた人。「比較優位で語らない」という私たちの姿勢は、Fixed Mindsetを誘発しないための設計でもあります。

enterprisezine.jp

Michael Sahota - Emotional Science

心理的安全性の高い場では、「えっ...」と思う指摘も出てくる。感情的なささくれとうまく付き合い、冷静に戻るテクニック。長く続けるコミュニティには必要な知恵です。

 


変化とパターン

Mary Lynn Manns & Linda Rising『Fearless Change』

変化を起こすためのパターン集。トップダウンではなく、草の根から変化を広げていく方法。私が翻訳に関わった本でもあります。

Lyssa Adkins - 安定期のない変化の時代

これまでの変化は、変化の後に安定期が来た。昨今は安定期が来ない、連続的な変化の時代。だから安定期の手法ではなく、変革期の手法を学ぶべき。野中・竹内論文も「変革期の新しい製品開発のやり方」を調査研究したものでした。

www.youtube.com

Dave Snowden - Cynefin Framework

複雑領域(Complex)では、因果関係が事前にはわからない。Probe-Sense-Respond(やってみて、感知して、対応する)。RSGTの運営も、報告書やめてみる、どうなるか見る、大丈夫だった。複雑領域での経験主義そのものです。

 

 


コミュニティと正統的周辺参加

Jean Lave & Etienne Wenger『状況に埋め込まれた学習―正統的周辺参加

人は専門知識を身につけるときに、組織の外延から参画して、徐々に学びながら、活動しながら、中心に向かっていく。「残念だったなー」があっても焦らなくていい。来年も、その先もある。RSGTとスクラムフェスはこの考え方で設計しています。

三宅芳雄、三宅なほみ『教育心理学概論(新訂)』

「人は、学び続ける動物である。なぜそういえるかというと」から始まる、学習と教育について学習心理学の立場から学べる名著。よい学びとは、応用しやすい学びであると説き、素朴理論(個人の経験)から自分で考えて科学的知識に結び付けることで、よい学びにつながると説明する。一方で、その過程でわかりやすい説明を受けてしまうと、「バブル型理解」となり、知識として定着しない。

 

William Schneider『The Reengineering Alternative』/ Michael Sahota

組織文化を4象限に分類するモデル。Control(管理)、Collaboration(協調)、Competence(能力)、Cultivation(育成)。Michael Sahotaがアジャイルマニフェストをこのモデルにマッピングしたところ、アジャイルの価値と原則はほぼすべてCollaborationとCultivationに集中していて、Controlに該当するものはゼロだった。多くの日本企業はControl文化が強いので、RSGTやスクラムフェスは異なる文化を体験できる場になっているのかもしれません。

kawaguti.hateblo.jp

 


実践者の言葉

Jeff Patton

ユーザーストーリーマッピングを日本に持ち込んでくれた人。「話しながら付箋に書いて共有する」という情報を高速に全員で操作するやり方は、アジャイルの肝です。私が翻訳した本でもあります。

本間日義さん(ホンダ・シティプロジェクト)

野中・竹内論文で取り上げられたホンダ・シティの開発メンバー。RSGT2025でクロージングキーノートをしていただきました。「サシミとラグビー」の話、そして「当時のホンダにあったような議論の場がここにありましたね」という言葉は、14年間やってきたことの意味を確認させてくれました。

www.youtube.com

 


自分のブログ記事

過去に書いた記事も、今回の整理の参考にしました。


こうして並べてみると、「比較優位で語らない」「内発的動機付け」「経験主義」「心理的安全性」「正統的周辺参加」といったキーワードが繰り返し現れます。意図して選んだというより、自分が惹かれるものに一貫性があったということなのかもしれません。

Scrum Fest Morioka 2026でお会いできることを楽しみにしています。

 

 

この記事は Regional Scrum Gathering Tokyo & Scrum Fest Advent Calendar 2025 - Adventar の記事として書かれました。

adventar.org

スクラムマスターは (たぶん)すでにいる

初めてスクラムを学んだ時、二人のリーダーに名前をつけていることに感動しました。

スクラム』によれば、トヨタの主査は人事権限を持たずにプロダクト全体を動かします。しかし、その役割を担えるようになるには30年かかる。だからジェフはその役割を二つに分けたそうです。それが、プロダクトオーナーとスクラムマスターです。

チームをペアで動かし、全体を前に進ませる。それがスクラムの本質で、美味しいところだと思います。なぜかというと、あなたが全部はできないから...です。

クリエイティブ・ペア

この「違うタイプのペア」が二人でリーダーシップをとるパターンは以前から存在していると考えていました。だいぶ後から知ったことですが、野中郁次郎先生はこれを「クリエイティブ・ペア」と呼んでいました。私が感じたそうしたペアを、いくつか紹介していこうと思います。

プロ野球

星野仙一島野育夫

燃える闘将・星野仙一監督の横には、常に島野育夫コーチがいました。中日ドラゴンズで11年、阪神タイガースで2年。島野が在籍していた時期、阪神は最下位になったことが一度もありません。

島野はアップ中の選手を注視することを徹底させていました。故障や体調、ときには気持ちの浮き沈みまで動きに現れるといいます。星野が退任を決めた時、最も心配していたのは自分のことより参謀・島野の今後だったそうです。

参考:阪神に生きる島野イズム(中日スポーツ)

落合博満森繁和

落合監督は野手出身です。投手起用は森コーチに完全に任せ、一切口出ししませんでした。「わからないことは、わかる人に任せる」という信頼です。

落合博満森繁和についてこう語っています。

森繁和は、すべてを任せられる参謀である。私の中日ドラゴンズでの8年間、勝負の本質は彼なくしては語れない

8年間すべてAクラス、4度のリーグ優勝、日本一1回。球団史上最強のドラゴンズを作り上げました。

参考:森繁和『回想』(ベースボールチャンネル)

サッカー日本代表

トルシエ山本昌邦

フランス人監督トルシエと日本人選手の間に立ち、現場を機能させたのが山本昌邦コーチでした。1999年ワールドユース準優勝、2000年シドニー五輪ベスト8、アジアカップ優勝、2002年ワールドカップベスト16。

通訳のダバディ氏は振り返ります。

選手が怒られている時は『無理に訳さなくていいんだよ』と、山本昌邦さんに言われましたね

激情家のトルシエの横で、山本は違う形でチームを支えていました。

参考:「赤鬼」と呼ばれたトルシエの素顔(THE ANSWER)

監督とチームドクター

以前、サッカー日本代表のフィジカルコーチの方に聞いた話では、日本代表は監督とチームドクターがそうした関係だそうです。勝負の世界を見る監督とは別の視点で、選手の心身を見守る存在です。

監督が植え付ける戦術を実行するためには、選手の体調を整え、怪我や心身の状態を常に良い方向に調整していくシェフやフィジカルコーチの役割が欠かせません。それを取り仕切るのがチームドクターであり、監督と同格の権限と責任を持っていたといいます。

ちょうど2026年北中米W杯の組分けが決まりました。日本代表はテキサス州を中心にメキシコ北部と、勝ち進めばアメリカ東部への転戦となるドローになりました。短い期間での転戦を支えるチームスタッフの力が結果に大きく影響することは間違いありません。

森保一山本昌邦

2023年から山本昌邦ナショナルチームディレクター(TD)として、森保一監督を支えています。トルシエ時代はコーチとして、森保時代はTDとして。同じ人が、違う監督のもとで違う形の「ペア」になっています。

会社経営

盛田昭夫井深大

ソニーを創った二人です。井深は技術者としての直感と創造性で新たな製品のビジョンを掲げ、盛田はそれを実現可能なビジネスとして確立する実務力を発揮しました。

井深はこう語っています。

嫌なこと、大変なことは、みんな盛田さんが引き受けてくれた

盛田は常に「ソニーは井深と私が創った会社」と語り、井深の存在を前面に出していました。

参考:「嫌なこと、大変なことは、みんな盛田さんが引き受けてくれた」(日刊工業新聞)

本田宗一郎藤沢武夫

本田宗一郎藤沢武夫に実印と会社経営の全権を委ね、自らは技術者に徹しました。モノづくりは本田、お金は藤沢。研究開発・技術は本田、営業・財務・管理は藤沢です。

藤沢は妻に「あなた我慢できるの?」と問われた際、こう答えました。

私は人と組める男ではない。それは分かっている。だけど、この人となら面白いんだ

藤沢が副社長の退任を決意すると、本田は「俺は藤沢あっての社長、俺も一緒に辞める」と言って、本当に社長を辞めてしまいました。

参考:究極のナンバー2―ホンダを世界企業に育てた藤沢武夫の経営哲学

そしてスクラム

野中郁次郎と竹内弘高

知識創造理論を世界に広めた二人です。『知識創造企業』は二人の共著です。そしてこの二人が1986年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』に発表した論文「The New New Product Development Game」が、ジェフ・サザーランドがスクラムを生み出すきっかけとなりました。野中先生は「竹内とは合わないんだ。それがいい」とおっしゃっています。

参考:野中郁次郎の理論が世界のITエンジニアに受け入れられる理由(Biz/Zine)

ジェフ・サザーランドとケン・シュウェイバー

Scrumを世に送り出したジェフ・サザーランドとケン・シュウェイバーもまた、違うタイプのペアでした。

ジェフはウェストポイント(米国陸軍士官学校)出身、ベトナム戦争で偵察飛行に従事し、スタンフォード大学統計学修士号コロラド大学医学部で生物測定学の博士号を取得した学術・理論志向の人物です。一方ケンは、40年の開発キャリアを持つソフトウェア開発者であり、Scrum Allianceを設立して認定スクラムマスタープログラムを創設した実践・普及志向の人物です。

1995年にOOPSLAカンファレンスでScrumを発表し、2010年に最初のScrum Guideを書きました。二人は今も別々の組織(ジェフはScrum Inc.、ケンはScrum.org)を持ちながら、Scrum Guideという一点だけは共同で守り続けています。

参考:The Scrum Guide

共通点

「俺とお前は違う」 という前提。最終責任者が、違うタイプを信じて任せる。だから知的コンバットが生まれます。

ただの役割分担ではなく、一緒に何かをしていこうと協調している。背中を預けている。まさに、熱意ある共犯者です。

クリエイティブペアへの第一歩は、野中先生が言うように「俺とお前は違うよね」です。徹底的に意見を闘わせ、その先にある相互理解、相互主観の世界に達することが重要だと、野中先生はおっしゃっていました。そんな簡単に人は分かり合えない。だから時間をかけてすれ違いながら、ぶつかりながら学ぶということです。

なぜこの構造が重要なのか

このブログはスクラムマスターについてのアドベントカレンダーでした。トヨタの主査のようなリーダーを二つに分けて、プロダクトオーナーとスクラムマスターに分けたのだ、という話を端緒に、私が知っている範囲の有名なペアの例を挙げてきました。

スクラムチームにとって一番大事なのは、ゴールに向かって成果物を生み出す貢献者たち、すなわち開発者です。人と人の間で仕事をする中間ブローカーは存在しません。人に仕事を押し付けるのではなく、自ら生み出し、協調し、課題を解決していく実践者たちが開発者(たち)です。

そして、それを導くのがプロダクトオーナー、支え促すのがスクラムマスターなのです。いずれの役割も、独りよがりになってしまってはこなせません。スクラムマスターがチームメンバーとつるんでプロダクトオーナーに対抗してるようじゃダメです。開発者たちを尊敬することは、周囲の人々を尊敬しないということではないんだと思います。

また、この「違うタイプのペア」という視点は、アジャイルの中でも「スクラム」でのみ注目されている部分だと思います。アジャイルが好きな人の中でも、この視点が好きな人ばかりではないし、できればもっと技術的な話だけをしたい人も多いでしょう。しかしそれも多様性なんじゃないかと思います。

スクラムマスターとしての第一歩

もしあなたが今スクラムを始めようとしているなら、まずスクラムマスターとしてできることがあるかもしれません。

優先順位を決めている人を見つけて、プロダクトオーナーとして、はっきりとビジョンを示してチームに任せるスタイルを提案して寄り添います。そしてチームメンバーには一人一人状況を明らかにし、徐々に協働を促し、Doneに導いて、リズムと自己効力感を高めていきます。

あなたがプロダクトを始めようとしているなら、そうしたことができそうなバディを見つけ、必要なスキルと経験を得てもらえるように支援しましょう。

スクラムマスターは人を見て支援する役割です。人によって得意不得意が出やすいエリアでもあります。共感性を持つだけでなく、寄り添いつつ、相手の成長のために押し返す勇気と誠実さが必要です。相手をコントロールしたい人には向きません。

 

スクラムマスターは(たぶん)すでにいる

しかし、スクラムマスターはスクラムが名前を付ける前から、その構造は存在していたと考えています。スクラムが2つの役割として名前を付け、野中先生はクリエイティブ・ペアと呼んだにすぎません。もともと存在している立ち位置なのです。

だから、あなたのまわりにもスクラムマスターはきっと既にいます。あなたが見つけてくれるのを待っています。見つけ、機会を与え、信頼すれば、きっとうまく働いてくれるはずです。あなたから「こうして欲しい」を伝えることが、その先に続く大きな成功への、大事な一歩目になるのかもしれません。

 

スクラムマスターについての素敵な記事が今後も続くと思います。ぜひチェックしてみてください。特に明日のJ.K.はむちゃくちゃいいことを書いてくれると期待しています!

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スクラムフェス名古屋を開催します #scrumowari

2026年3月28日(土)、ついに尾張の地でスクラムフェスを開催することになりました。

開催趣意書にはこう書きました。

名古屋といえば製造業、バッキバキなエンジニア達が生息している修羅の地として有名です。 みんなキラキラしたことは得意じゃない。三度の飯よりコーディング。トークの質よりコードの品質。printfより関数型。実績もないのにカンファレンスで話すなんてありえない。でもちょっとキラキラひかりも羨ましい。 のぞみと違い名古屋飛ばしと言われてカンファレンスは名古屋を飛ばしていく昨今、遂にリニアがやってきます。 ということで、遠い夜空にこだまする日本一地味な茶色いスクフェスはじめます。

三河生まれということもあって、スクラムフェス三河は5年ほど続けてきたのですが、尾張名古屋でもやることになりました。三河を支えてくださっている皆さまの中には、尾張地区に拠点やルーツを持っている方もいらっしゃって、今回はそうした方々が中心になって準備に参画してくださっています。名古屋といえば、金のしゃちほこ味噌カツ、坂角のゆかり、コメダ珈琲。なんとなく茶色いものばかりですが、その地味さが名古屋のいいところかなと思います。(いやあれは金だから!というツッコミを待つ。)

ハッシュタグ#scrumowari です。「スクラム終わり」という、なんともスクラムが終焉を迎えそうな語呂になっているのですが、考えてみればスクラムはDoneを目指してスプリントするフレームワークなので、終わりは良いことなのかもしれません。

スポンサー募集中です

スクラムフェス名古屋の開催にあたり、スポンサーを募集しております。ぜひともご支援をお願いいたします。

開催趣意書はこちら:https://docs.google.com/presentation/d/1ebAjJpbDYwjmAHxlkfB1div6tCyWi2pVClFGNJR5kEc/edit?usp=sharing

基調講演なし、みんなで作るカンファレンス

今回は基調講演を設けずに、公募セッションを並べる形式にしようかなと考えています。皆さんの参画で作っていくカンファレンス、そんな形が良いのかな?なんて愚考しています。

毎週金曜日に実行委員会をやっていて、徐々に準備が進んでいるところです。

会場は名古屋駅すぐの好立地

会場は名古屋駅すぐ、笹島にある名古屋コンベンションホールです。現地参加とオンライン参加のハイブリッド開催で、参加費は現地10,000円、オンライン7,580円を予定しています。RSGTまでの期間は早期割引で通常チケットも7,580円になります。7,5,8でなごや。

チケットはこちらから購入できます:https://pretix.eu/scrum-owari/2026/

東京からも大阪からもアクセスしやすい立地なので、のぞみに乗ってふらっと集まって終電で帰る、というのもやりやすい好立地なのではないかと推察しています。

ただ、ひとつご注意を。この週はF1鈴鹿開催週と重なっているため、名古屋市内のホテルがかなり高騰しています。私は豊橋に泊まることにしました。宿泊をお考えの方は、早めの予約をおすすめします。

 

(1月) 技術カンファレンス主催者のリアル

2026年1月14日(水)19:30から、Newbeeさん主催のYouTube Liveに出演します。RSGT、pmconf、emconfの運営に携わるメンバーが集まって、普段は表に出ない「主催者のリアル」を語り合う企画です。

有志スタッフの熱量をどう保つか、規模拡大とコミュニティの質をどう両立させるか、なぜ大変な苦労をしてまでカンファレンスを作り続けるのか……といった話ができればと思っています。

詳細・視聴登録はこちら:https://newbee.connpass.com/event/377762/

(2月) Women in Agile Tokyo & Agile Leadership Summit も開催

2026年2月3日〜4日にはWomen in Agile & Agile Leadership Summitを大崎で開催します。こちらもスポンサーさまを募集しておりますので、あわせてよろしくお願いいたします。

(2月) スクラムフェス盛岡も始まります

2026年2月20日〜21日には、スクラムフェス盛岡が初開催されます。なんと基調講演を拝命しましたので、どんな話をしようと思っているかは別エントリでまとめたいと思います。


皆さまのご参加、ご支援をお待ちしております!

 

この記事は Regional Scrum Gathering Tokyo & Scrum Fest Advent Calendar 2025 の6日目の記事です。

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【動画シリーズ】脱予算経営(Beyond Budgeting)をIT視点で学ぶ

「予算が足りないからできません」「予算は来期まで動かせません」——こんな言葉を聞いたことはありませんか?

でも本当に足りないのは予算なのでしょうか。足りないのは、現場に裁量を任せるだけの度量と、リスクのある挑戦的な活動に対する社会的な寛容さではないか。そしてそれを支える仕組みと文化の両面が必要なのではないか。

そんな課題に対する一つの答えが「脱予算経営(Beyond Budgeting)」です。

スクラムギャザリング東京実行委員会のメンバーが、会計の専門家を交えて脱予算経営について語る動画シリーズを公開しました。IT業界の視点から、なぜ今この考え方が重要なのかを掘り下げています。

脱予算経営との出会い

私(川口)が脱予算経営に出会ったのは2012年、Agile 2012のキーノートでした。当時の理解は「予算を使わない代わりにキャッシュフローの透明化をして、各部門の裁量になるべく任せる」というものでした。

kawaguti.hateblo.jp

その後、2022年にJoe Justice氏のトレーニングでテスラ社が脱予算経営を実施している話を聞き、改めてこの考え方の可能性を感じました。テスラ社は給料が時給制で均一、リーダーは特に偉いわけではなくそのロールをこなしていて、技術進歩のためにみんな働き、ストックオプションで資産形成をしているとのこと。お互いの削りあいが不要になり、みんなで前を向ける仕組みです。

そこでBBRT(Beyond Budgeting Round Table)が提唱する12の原則を日本語に訳しました。

kawaguti.hateblo.jp

アジャイルを学んで作られたわけではないのに、アジャイルとの共通性が非常に高い。現代のマネジメントの「よい原則」というものが変わってきたことを、それぞれが感じて一致していたのだと思います。

スクラムの源流にあった「任せる文化」

80年代、スクラムの源流になった野中郁次郎先生たちの論文「The New New Product Development Game」。そこで観察されたホンダの初代シティプロジェクトでは、風通しがよく自由闊達にアイデアを出し合う文化があり、そこに任せる上層部の意思がありました。

RSGT2025のクロージングキーノートで、当時のホンダで初代シティの開発に関わった本間日義さんがその様子を語っています。

youtu.be

ワイガヤは単なる知識の集合ではなく、スパイラルアップしていくもの。異分野の人たちと横に広げていく。70年代後半から80年代前半、日本のプロダクトが世界で一番強かった時代に、こうした文化があったのです。

脱予算経営が目指す「現場への権限委譲」「信頼」は、かつて日本企業が持っていた強さの源泉でもあるのかもしれません。

スクラムフェスとRSGTでの実践

2023年7月から、一般社団法人スクラムギャザリング東京実行委員会で脱予算経営を実践しています。全国各地で立ち上がったスクラムフェスを横に並べて月単位の集計表を作り、各カンファレンスの月額収支と全体での残額を把握できるようにしました。

kawaguti.hateblo.jp

ポイントは見える化と相互扶助です。赤字になれば他のカンファレンスから借りることになり、黒字なら他のカンファレンスを助けることになる。私たちはボランティアで給料は出ていませんので、お互いに格差も競争もありません。「こういう経費使っていいですか?」という問い合わせも承認もせず、すべて各地の実行委員の皆さんが自律的に検討しています。

動画シリーズ(全4本)

【前編】脱予算経営とは?IT視点で語る Beyond Budgeting 入門

youtu.be

2014年のアジャイルカンファレンスでビャーテ・ボグネス氏が行った基調講演をきっかけに、IT業界における予算管理の課題と、脱予算経営がアジャイル開発とどう親和性があるのかを議論します。

主なトピック:

  • IT業界における予算問題の「あるある」
  • プロフィットセンターとコストセンターの対立構造
  • なぜエンジニアは「コスト意識がない」と言われるのか
  • 予算が問題解決の天井になっている現状

出演: 川口恭伸、永瀬美穂(スクラムギャザリング東京実行委員会)


【中編 Part1】会計の専門家が解説!脱予算経営の基礎知識

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早稲田大学大学院会計研究科長の清水孝先生をゲストに迎え、会計の基礎知識を整理しながら脱予算経営について議論します。

主なトピック:

出演: 川口恭伸、永瀬美穂、服部佑樹(GitHub Japan)、清水孝(早稲田大学大学院会計研究科長)


【中編 Part2】マイクロソフト地方銀行の事例から学ぶ脱予算経営

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GitHub Japanの服部佑樹さん(元マイクロソフト)の経験談を中心に、大企業における予算管理の課題と脱予算経営の実践について議論します。

主なトピック:

  • マイクロソフトと日本大企業の予算管理の違い
  • プロダクト開発 vs プロジェクト開発
  • インナーソースと「予算の切れ目が縁の切れ目」問題
  • 地方銀行における脱予算経営への転換
  • 顧客本位の経営と予算制度の矛盾
  • トラストを取り戻すためのBeyond Budgeting

出演: 川口恭伸、永瀬美穂、服部佑樹(GitHub Japan)、清水孝(早稲田大学大学院会計研究科長)


【後編】テスラの実践から学ぶ!脱予算経営を組織で実現する方法

youtu.be

テスラ・スペースXでの脱予算経営の実践例と、スクラムギャザリング東京実行委員会での具体的な取り組みを紹介します。

主なトピック:

  • テスラ・スペースXでのBeyond Budgeting実践
  • 時給制+ストックオプションによる給与設計
  • スクラムギャザリング東京の地方展開と権限移譲
  • 「聞かれたら全部OK」から始める信頼ベースの運営
  • ローリングフォーキャストと相対的目標の使い方
  • 脱予算経営は「ツール」ではなく「考え方」

出演: 川口恭伸、永瀬美穂、服部佑樹(GitHub Japan)、清水孝(早稲田大学大学院会計研究科長)

※テスラ・スペースXでの実践については、スクラムフェス三河でのJoe Justice氏のキーノートで詳しく紹介されています。

Keynote: Joe Justice - Agile at Tesla and SpaceX(テスラとスペースXにおけるアジャイル

www.youtube.com


Beyond Budgeting 12の原則

動画の中でも触れていますが、脱予算経営にはBBRT(Beyond Budgeting Round Table)が提唱する12の原則があります。

リーダーシップ原則

  1. 目的 - 大胆で崇高な目的のために人々を巻き込み、奮起させる。短期的な財務目標ではなく。
  2. 価値 - 共有された価値観と適切な判断によって経営する。細かいルールや規則ではなく。
  3. 透明性 - 自律的な規制、イノベーション、学習、コントロールのために情報をオープンにする。
  4. 組織 - 強い帰属意識を育み、責任あるチームを組織する。階級的管理・官僚主義を排除する。
  5. 自律性 - 人々を信頼し、自由に行動させる。もしそれを乱用する人がいても全員を罰することはしない。
  6. 顧客 - 全員の仕事を顧客ニーズと結びつける。利益相反を回避する。

マネジメントプロセス

  1. リズム - ビジネスリズムやイベントに合わせて、ダイナミックにマネジメントプロセスを組織化する。
  2. 目標 - 方向性と、野心的・相対的な目標を設定する。固定の、カスケード目標を避ける。
  3. 計画と予想 - 計画や予測を、無駄のない公平なプロセスにする。硬直的で社内政治的なエクササイズではなく。
  4. リソース配賦 - コスト意識を醸成し、必要なリソースを提供する。年次の詳細な予算配分を行わない。
  5. パフォーマンス評価 - 学習と能力開発のために、パフォーマンスを総合的に評価する。
  6. 報酬 - 競争ではなく、ともに成功することに報いる。

ビャーテ・ボグネス氏 来日イベント

動画シリーズでも繰り返し登場するビャーテ・ボグネス氏が来日します!

RSGT2026 基調講演

Regional Scrum Gathering Tokyo 2026では、ビャーテ・ボグネス氏が基調講演を行います。

一日集中ワークショップ

RSGT2026の前日には、ビャーテ・ボグネス氏による一日集中ワークショップも開催されます。

Beyond Budgeting - 組織のアジリティを解き放つ

脱予算経営の第一人者から直接学べる貴重な機会です。

このワークショップは、ノウハウを得るだけでなく、会計、財務、IT、マネジメント、インナーソース、さまざまな立場の人が集まる場になったらいいなと思っています。

脱予算は、トップダウンで降りてくる予算がなくなるだけで、現場ではちゃんと自分たちで目標を立てて達成に向かって努力する。それを信頼する企業会計の取り組み。

脱予算経営はエンジニアにも会計関係者にも経営者にもマネージャーにも、急成長スタートアップにも大企業にも役立つ取り組みだと思います。むしろ「全方位から他人事にされそう」という危機感もあります。だからこそ、様々な立場の人が一堂に会して議論できる場を作りたい。

動画シリーズを見て興味を持った方は、ぜひご参加ください。


関連リンク

イベント

過去ブログ記事

その他

Zoom登壇で「発表者ディスプレイ」を使う技:HDMIダミープラグ活用法

PowerPointKeynoteでプレゼンする際、発表者ディスプレイモード(スピーカーノート、次のスライド、経過時間が見える画面)を使っていますか?

会場での対面登壇では、プロジェクタにHDMIケーブルを接続すれば自動的に:

  • プロジェクタ側:スライド本体が全画面表示
  • ノートPC側:発表者ディスプレイ(ノート、次のスライド、タイマー)

という理想的な環境が整います。

ところが、Zoomでのリモート登壇やオンライン配信では、HDMIケーブルを挿さないため、発表者ディスプレイモードが使えないという問題があります。

note.com

この問題を解決してくれるのが、HDMIダミープラグです。

ダミープラグとは?

HDMIダミープラグは、PCのHDMIポートに接続することで「外部ディスプレイが接続されている」とPCに認識させる小型デバイスです。実際のディスプレイは不要で、仮想的な2画面目を作り出します。

価格は1,000円~3,000円程度で、手軽に入手できます。

リモート登壇での課題

会場登壇の場合

  1. プロジェクタにHDMIケーブルを接続
  2. PowerPoint/Keynoteが自動的に外部ディスプレイを検出
  3. 発表者ディスプレイモードが有効になる
  4. 接続不良のリスクはあるが、発表者ディスプレイは使える



Zoom画面共有の場合

  1. HDMIケーブルを接続しない
  2. PowerPoint/Keynoteは外部ディスプレイを検出できない
  3. 発表者ディスプレイモードが使えない
  4. 接続不良の心配はないが、スピーカーノートが見られない



ダミープラグを使った解決策

  1. ダミープラグをHDMIポートに接続
  2. PowerPoint/Keynoteが「外部ディスプレイあり」と認識
  3. 発表者ディスプレイモードが有効になる
  4. 2画面目(ダミープラグ側)のスライド本体をZoom共有
  5. 会場登壇と同じ環境を、接続トラブルなく実現



セットアップ方法

1. ダミープラグの接続

ノートPCのHDMIポート(またはUSB-C/Thunderboltポート経由でHDMI変換アダプタ)にダミープラグを挿入します。

2. ディスプレイ設定の確認

Windowsの場合:

  1. デスクトップ上で右クリック →「ディスプレイ設定」
  2. 「複数のディスプレイ」セクションで2つの画面が認識されていることを確認
  3. 「表示画面を拡張する」を選択
  4. 画面の配置を調整(ドラッグで位置を変更可能)

macOSの場合:

  1. システム設定 →「ディスプレイ」
  2. 「配置」タブで2つの画面を確認
  3. ミラーリングのチェックを外す
  4. 画面の配置を調整

3. 解像度の設定

プレゼン用途の場合、2画面目の解像度は以下がおすすめです:

  • 1920×1080(フルHD:最も一般的で、配信品質も十分
  • 1280×720(HD):軽量で、ネットワーク負荷を抑えたい場合

4K対応のダミープラグもありますが、配信では帯域を消費するため、用途に応じて選択してください。

4. 発表者ディスプレイモードの設定

PowerPointの場合:

  1. スライドショータブ →「スライドショーの設定」
  2. 「発表者ツールを使用する」にチェック
  3. スライドショーを開始
  4. 自動的に2画面目にスライド本体、1画面目(ノートPC)に発表者ディスプレイが表示される

Keynoteの場合:

  1. 再生メニュー →「発表者ディスプレイをカスタマイズ」
  2. 表示したい情報(ノート、次のスライド、時計など)を選択
  3. スライドショーを開始
  4. 2画面目にスライド本体、1画面目に発表者ディスプレイが表示される

Google Slidesの場合:

  1. プレゼンテーションを開始
  2. 発表者ツールを開く(通常は自動的に開く)
  3. ブラウザウィンドウを2画面目に移動
  4. 発表者ツールは1画面目に配置

Zoomでの画面共有設定

  1. 事前にスライドショーを開始し、発表者ディスプレイモードにする
  2. スライド本体(全画面表示)を2画面目に配置されていることを確認
  3. Zoom会議中に「画面を共有」をクリック
  4. 2画面目全体を選択して共有(特定のウィンドウではなく、画面全体を選ぶのがポイント)
  5. 1画面目(ノートPC)には発表者ディスプレイが表示され、スピーカーノートや次のスライドを確認できる

この設定により:

  • 参加者にはスライド本体だけが見える
  • 発表者はスピーカーノート、次のスライド、経過時間を確認できる
  • 会場登壇と全く同じ感覚でプレゼンできる

実践的な活用シーン

パターン1:プレゼンテーション

  • 1画面目:Zoomのギャラリービュー、チャット、スピーカーノート
  • 2画面目:PowerPointKeynoteのスライド(全画面表示)

パターン2:ライブコーディング

  • 1画面目:資料、ターミナル、参加者の反応確認
  • 2画面目:エディタのコード画面のみ

パターン3:配信ツール使用時

  • 1画面目:OBSの設定画面、プレビュー
  • 2画面目:配信用の映像(OBSのキャンバス)をZoom共有

パターン4:ワークショップ

  • 1画面目:参加者リスト、ブレイクアウトルーム管理
  • 2画面目:共有する作業画面やホワイトボード

よくあるトラブルと対処法

ダミープラグが認識されない

  • PCを再起動してみる
  • 別のHDMIポート(またはUSB-Cポート)で試す
  • ダミープラグの解像度がPCの対応範囲内か確認

画面の配置がおかしい

  • ディスプレイ設定で画面の配置を調整
  • ウィンドウが2画面目に移動できない場合は、「表示画面を拡張する」が選択されているか確認

Zoomで意図した画面が共有されない

  • 共有前に、目的のウィンドウやアプリを2画面目に移動させておく
  • 「特定のウィンドウ」ではなく「画面全体」の共有を選択

2画面目のウィンドウが見えない

  • Windowsキー + Shift + 矢印キーでウィンドウを画面間で移動
  • macOSの場合は、ウィンドウをドラッグして画面外に移動

おすすめのダミープラグ

選ぶ際のポイント:

解像度:

  • 講演/配信用途なら1920×1080対応で十分

接続端子:

  • HDMI端子があるPCならHDMI
  • USB-CのみのPCなら、USB-C→HDMI変換アダプタ + ダミープラグ

価格帯:

  • エントリーモデル:1,000円前後(1080p対応)
  • ミドルレンジ:2,000円前後(4K対応、EDID設定可能)
  • ハイエンド:3,000円以上(複数解像度対応、耐久性重視)

1,500円前後の1080p対応モデルで十分実用的だと思います。

まとめ

HDMIダミープラグは、小さくて安価ながら、配信環境を大きく改善してくれるツールです。特にノートPC1台で頻繁に配信やプレゼンを行う方には、投資効果の高いアイテムと言えるでしょう。

この方法のメリット:

  • 外部ディスプレイを持ち運ぶ必要がない
  • 配信機材がコンパクトになる
  • 画面共有の操作が直感的になる
  • プレゼンの質が向上する

RSGTやスクラムフェスでは、現地でもZoomを使って資料の投影をしています。ですので、ご自宅の環境と同じ設備で講演できます。

ダミープラグも配信キットに入れてあります(このリストには載せてませんでした)。

kawaguti.hateblo.jp

ぜひ、事前に試してみていただければ幸いです。

Microsoft Teams 二要素認証問題+Windowsでアクセスできない問題の記録:10/24から始まった長い戦い

まだ継続中ですが、Microsoft Teams の顧客テナントにアクセスできなくなり、いくつかの対応をこの二週間ほど強いられております。似たような経験をする方もいるかもしれませんので、記録として残しておきます。

2025年10月24日:問題発生

突然、Teamsにアクセスできなくなった。二要素認証が勝手にONになっており、存在しないAuthenticatorアプリを求められる状態に。

背景:Microsoftの多要素認証必須化ロールアウト

2024年10月から、Microsoftは管理ポータルへのアクセスに多要素認証(MFA)を段階的に必須化するロールアウトを開始していた。2025年2月以降はMicrosoft 365管理センターにも適用が拡大され、2025年10月の時点でも継続的に展開が進められていた。

詳細については以下を参照:

2025年10月24日、ちょうどこの展開から約1年後のタイミングで、自分のアカウントにもMFAが自動的に適用されたようだ。しかし、事前にAuthenticatorアプリの設定をしていなかったため、存在しない認証方法を求められてログインできない状態に陥った。

Facebookでの反応

この問題をFacebookに書いたところ、5人くらいが同じ問題に遭遇しており、Microsoftサポートに救ってもらったとのコメントをいただいた。同じ時期に同じような問題が多発していたようだ。

初日のサポート対応:AIとの格闘

Microsoftのコールセンターに電話するも、AIが「パスワードリセットしてください」の一点張りで電話を切断される。5回ほど掛け直してようやくAIを突破し、人間のオペレーターに接続成功。

いろいろ確認した結果、エンジニアからの折り返し対応が必要とのこと。ただし対応時間は平日17:30まで。つまり、実質的に翌週対応となる。

2025年10月27日:MFAリセット対応

Microsoft 365 Data Protection サポートから連絡。全体管理者アカウント(自社ドメインのメールアドレス)に関するMFAリセットのリクエスト確認。

電話で丁寧なご対応をいただき、メールで正式に承認。

承認メール送信:

本リクエストを承認します。

2025年10月28日:MFA設定完了、しかし...

指示された二要素認証の設定を完了。多要素認証は正常に動作するようになった。

しかし、Windows上でのTeamsログインは依然として失敗する状況。失敗するのは今回のメールアドレスと自社テナントであって、顧客の方で設定していただいたゲストアカウントではないのだけど、Windowsクライアントはまず大元のテナントにアクセスする前提で作られているようだ。

一方、iPhone版Teamsアプリでは、なぜか失敗するテナントを経由せずに顧客のEntra IDに直接アクセスできるようで、お客様のTeamsのチャットに入れるようになった。

2025年10月29日:問題の詳細報告と追加調査依頼

サポートに状況を報告:

現在の状況:

  • Microsoft Teamsにサインインできない
  • 多要素認証は正常に動作している(10月28日に解決済み)
  • テナントの管理者アカウント

エラー詳細:

エラーコード: -895XXXXXX
Request ID: xxxxxxxx-xxxx-xxxx-xxxx-xxxxxxxxxxxx
Correlation ID: xxxxxxxx-xxxx-xxxx-xxxx-xxxxxxxxxxxx
タイムスタンプ: 2025-10-29T06:04:XX.XXXZ

診断結果:

「テナントが見つかりませんでした。テナントのドメイン名が正しいことを確認して、診断を再実行してください。」

正しいドメイン認証情報を使用しているにもかかわらず、エラーメッセージはテナント認識の問題を示唆している。

なお、電話でのやり取りでは、iPhoneが勝手に電話を切ってしまう問題も発生。

サポートからの追加情報依頼

サポートから詳細な切り分け調査の依頼が届く:

PC端末での確認項目:

  • Microsoft 365 Copilot へのアクセス可否
  • Microsoft 365 管理センターへのアクセス可否
  • Web版のMicrosoft Teams へのアクセス可否
  • クライアントアプリ版のMicrosoft Teams へのアクセス可否

モバイル端末:

  • 問題なくMicrosoft 365サービスへアクセス可能かの確認

2025年10月31日:担当者交代とスケジュール調整

Microsoft Teams サポートエンジニアに担当が変更となり、11月5日 10:00-11:00 または 13:00-17:00 での電話対応を提案される。

また、重要な注意事項として以下の通知を受ける:

MFA必須化のお知らせ:

2025年2月3日以降、順次Microsoft 365管理センターにアクセスする際に多要素認証(MFA)が必須となります。

2025年11月2日:スケジュール再調整

外出予定が入ったため、対応可能時間を再連絡:

  • 11/4: 10:00-13:30、16:00-18:00
  • 11/6: 10:00-18:00

11/5は対応不可となった。

2025年11月4日:電話サポートで根本原因が判明

代理のサポート担当者との電話で、詳細な状況をヒアリング。

2025年11月5日:問題の本質が明確に

サポートから正式な分析結果が届く。

問題の根本原因:

個人向けMicrosoftアカウント/組織向けMicrosoft 365アカウントに登録されたメールアドレス(自社ドメインのアドレス)が重複していることにより、本事象が発生している。

公式情報の引用:

個人向け Microsoft アカウント/組織向け Microsoft 365 アカウントに登録しているメール アドレスが重複していることにより、クライアント アプリでゲスト アクセスできないことが明言されています。

参考情報: ゲスト ユーザーとして Teams にサインインができない場合の確認事項

提案された解決策と新たな壁

電話で合意した方針:

  1. 個人向けMicrosoftアカウントのメールアドレスを変更する

しかし問題発生:

個人向けMicrosoftアカウントにサインインできない状態のため、以下の対応ができない:

  • Microsoftアカウントの削除申請
  • メールアドレスの変更

サポート範囲の限界

法人用のMicrosoft 365スタンダードサポートでは、個人向けMicrosoftアカウントに関してはサポート範囲外となる。

個人向けサポートへの問い合わせが必要:

  1. Microsoftアカウントのパスワードがわからない
  2. Microsoftアカウントに登録しているメールアドレスを自社ドメイン以外に変更する、もしくはアカウント削除申請する

マイクロソフト個人向けサポート:

  • URL: https://aka.ms/online
  • 営業時間: 平日9:00-18:00 / 土日10:00-18:00 (祝日、弊社指定休業日を除く)

11月5日夜:個人向けサポートへの問い合わせ困難

個人向けサポートへの問い合わせを試みるも、新たな問題が発覚:

現在の状況:

  • パスワードマネージャーには自社ドメインのメールアドレスとして1つのエントリのみ保存
  • 現在このパスワードで企業向けアカウントにはログイン可能
  • 個人向けアカウントには同じパスワードでログインできない

2025年11月6日:「ほかのアカウント」でのログイン試行も失敗

前日に指示された「ほかのアカウントでのログイン」を試行するも、やはり問い合わせができない状況が継続。

スクリーンショット添付でサポートに報告。

問題は、電話サポートを受けるにはログインできないとダメなこと。当該リンクをクリックすると、今回問題のアカウントでしかログインできない状態になっている。

コラム:せいせいAI - 生成AIでアンガーマネジメント

この時点で、あまりに腹が立った(サポート担当さんにではなく、この設計をしたMicrosoftの誰か)ので、Claudeに「ばかふざけんな」という縦読みができる強いクレームメールを作成してもらった。

作成してもらった縦読みメール:

サポート担当者様

かばかしい状況に困惑しております。

りに個人向けアカウントにログインできるなら、そもそも問題は発生していません。

ざけた話ですが、ご案内の https://aka.ms/online では問い合わせにログインが必要です。

んねんながら、「パスワードがわからない」問題を解決するためにログインせよというのは論理的に不可能です。

っして誇張ではなく、これは実行不可能な案内です。

ともかんとも、対応のしようがありません。

んとかしていただきたく、以下を求めます:

気持ちを吐き出すことでスッキリし、実際には冷静で建設的な「まろやかバージョン」のメールを送ることにした。

さらに、作成した縦読みメールをBluesky に投稿したところ、慰めのコメントをいただいた。とりあえず清々したので、「せいせいAI」と呼びたい。

このエピソードから学んだこと:

  • 生成AIは感情の吐き出し場所として機能する
  • 怒りを言語化することで冷静さを取り戻せる
  • SNSコミュニティとの共有で孤独感が軽減される
  • いわゆる「ゴムのアヒル」の上位互換

2025年11月7日:法人サポートとの粘り強い対応で突破口

本日、法人サポートから電話をいただき、1時間数分の電話の間に、個人アカウントの削除のための作業を行う。

個人用アカウント管理ポータルへのアクセス

まず個人アカウントで live.com (これが個人用アカウント管理のポータルだそうです。法人用は office.com だと教えてもらった。そんなのわからない) に Edge の InPrivate ウィンドウでアクセス。(プライベートモードであれば他のブラウザでもいいと思います)。

ここで法人用のサポート担当さんからは、個人用アカウントは対応の担当外なので対応はできないが、「アカウントのパスワードを忘れた」というサポートを受けてほしい、とにかく個人用サポートの電話につながれば対応してくれるはず、ということで、法人用の電話を切らないまま対応を進める

サポート担当者の粘り強さ

ふむ。ここで一人ならあきらめるところ(実際昨日はあきらめた)だが、さすが法人のサポート窓口の担当さんは粘り強い。

まずこの問合せ「以前」に、先に別のアカウントでログインしておくことは可能でしょうか?と聞かれる。なるほど。問い合わせ時にメールアドレスを入れるからその問い合わせではそのアカウントが表示されるので、先に別アカウントでログインしてから問い合わせればいいのだと。

で、機能している別アカウント、こちらはもともと自分のテナントでもないから企業用アカウントが存在しえない。こちらでログインしてから、問題の自社アカウントの「個人用アカウント」にログインできない旨の問い合わせを進める。

パスワードリセットと個人アカウントの整理

パスワードリセットがメールの認証経由でできたので、なんとか live.com の個人設定にたどり着く。

ここでどうせ使っていないのでプライマリアドレスごと消去したいところだが、その選択肢はないらしい。なので、いったん outlook.jp/com で仮のアドレスを作成し、それをプライマリに変更することで、問題のアドレスをセカンダリに落としたうえで削除すればよいだろうということで、作成。

この辺でもう私の頭はパンク状態。

しかし、セカンダリに落としたうえで当該アカウントの削除は成功したっぽい。

なぜかこの対応中に法人用アカウントのパスワード変更をしてしまったっぽい。いちいち謎であるが、とにかくパスワードも整理でき、個人用アカウントは outlook.jp/com のどうでもいいアカウントなので作りっぱなしで放置することになり、とにもかくにも個人用アカウントから当該アドレスの削除には成功したっぽいということです。

24時間の待機期間

一応24時間ほど削除にはかかるということなので、その完了を待っている状態です。

今後の対応について

ただ、Microsoftのサポートドキュメントによると、この個人アカウントの重複を解消した場合でも、Teamsアクセス回復のためには顧客テナントのEntra IDへの登録をいったん削除して再登録することが推奨、ということなので、もしかすると来週Teamsにアクセスが回復しなければそれをお客様にお願いする必要が出てきそう。

問題再発しないためには、お客様Entra ID担当様に、すでに動作確認できている方の個人用アカウント(Gmail等)に変更依頼をかけるのがいいのでは?という案もあったのだけど、それをすると、Teamsの発言履歴や権限設定はすべて削除されるため、それはそれで、お客様の現場の担当当事者の方に権限の再設定や私の履歴忘却の問題が発生してしまって、ご迷惑この上ない。

なのでこの案はいったん24時間待ってTeamsアクセス問題が解決しない場合に依頼することにしようということで、法人担当さんと来週のアポ取りをしたうえで、24時間の待機に入りました。

学んだこと

生成AIの意外な活用法:アンガーマネジメントと事実整理

  • 途中、あまりに腹が立った(サポート担当さんにではなく、この設計をしたMicrosoftの誰か)
  • Claudeに「ばかふざけんな」の縦読みメールを作成してもらった
  • 作成した縦読みメールをBluesky に投稿してみんなに慰めてもらった(「せいせいAI」というワードも生まれた)
  • 気持ちを吐き出すことでスッキリし、実際には冷静で建設的な対応ができた
  • 生成AIに相談しながら進めることは、アンガーマネジメントとして有効であり、事実の整理にも重要
  • いわゆる「ゴムのアヒル」の上位互換として機能
  • 感情的になりそうな時に、一度AIに状況を説明することで自分の考えを整理し、冷静さを取り戻すことができる
  • SNSでの共有によるコミュニティからのサポートも効果的

Microsoftのサポート体制

  • AIゲートキーパーの突破が必要(5回の試行)
  • 実際のエンジニア対応までに時間がかかる
  • 一方で、担当さんの対応は丁寧で適切
  • 担当さんの引き継ぎがあり、それぞれの専門分野でサポートが提供される
  • 法人向けサポートと個人向けサポートで範囲が分かれている
  • 法人サポート担当さんの粘り強さと工夫が問題解決の鍵になる

アカウント設計の重要性

  • 法人用(office.com)と個人用(live.com)の区別を明確にする
  • 同じメールアドレスを両方に登録すると重大な問題が発生する
  • 可能であれば、企業のEntra IDには個人ドメインのアドレス(Gmail等)を使用する方が安全

Microsoftアカウントの管理ポータルの違い

  • 個人用アカウント管理: live.com
  • 法人用アカウント管理: office.com
  • この違いを知らないと適切な対応ができない

個人用Microsoftアカウントの削除プロセス

  • プライマリアドレスは直接削除できない
  • 別のアドレス(outlook.jp/com等)を作成してプライマリに変更する必要がある
  • 問題のアドレスをセカンダリに落としてから削除する
  • 削除完了には24時間程度かかる

サポート問い合わせの工夫

  • 問い合わせ前に別の機能しているアカウントでログインしておく
  • InPrivateウィンドウ(プライベートモード)を活用する
  • 法人サポートと個人サポートを同時に進行させる工夫

顧客企業のEntra IDへのゲスト登録について

  • 個人用Microsoftアカウントの削除を行った場合、顧客企業のEntra IDに同じメールアドレスが登録されているときは、いったん削除する必要があるというMicrosoftからの推奨がある
  • 既存のゲストアカウントのメールアドレスだけを変更することはできない
  • 新規アカウント作成が必要で、アクセス設定も再設定が必要
  • ストアカウントを変更すると、Teamsの発言履歴や権限設定がすべて削除される

診断ツールの限界

  • 「テナントが見つかりませんでした」というエラーが出ても、実際にはテナントは存在している
  • エラーメッセージが必ずしも真の問題を示していない

プラットフォーム間の挙動の違い

  • Windows端末では問題が発生するが、iPhoneでは異なるルーティングでアクセスできる場合がある
  • モバイル端末とデスクトップ端末で認証フローが異なる可能性
  • iPhoneでは失敗するテナントを経由せずに顧客のEntra IDに直接アクセスできることがある

サポートプロセス

  • 詳細な切り分け作業が必要
  • 複数の観点から問題を調査する必要がある
  • スケジュール調整には柔軟性が求められる
  • サポート範囲の境界で問題が複雑化する場合がある

パスワード管理の落とし穴

  • 同じメールアドレスで複数のアカウントタイプが存在する場合、パスワードマネージャーでの管理が困難
  • 個人用と法人用で異なるパスワードを使用していた可能性があるが、記録が統合されてしまった

MFA必須化ロールアウトの影響

  • 2024年10月から段階的に適用が開始され、2025年にも継続
  • 事前準備なしでMFAが自動適用されるケースがある
  • 同じタイミングで多くのユーザーが同様の問題に直面した

現在の状況(11月7日時点)

  • 根本原因は明確になった:個人用と法人用のアカウント重複
  • 個人用Microsoftアカウントから問題のメールアドレスの削除に成功
  • 削除完了まで24時間の待機中
  • 24時間後もTeamsアクセスが回復しない場合は、顧客企業のEntra IDでのゲストアカウント削除・再登録が必要になる可能性
  • ただし、その場合はTeamsの発言履歴と権限設定がすべて失われるため、最終手段として検討
  • 法人サポート担当さんと来週のフォローアップのアポを取得済み

pretixのチケット譲渡:URLを渡すだけ、の裏側

前回の記事で、RSGT2026のチケット販売システムとしてpretixを採用した話を書きました。

kawaguti.hateblo.jp

RSGT2026でのチケット譲渡方法についてお問い合わせをいただきましたので、仕組みの説明を含めて、ブログにしました。

RSGT2026でのチケット譲渡方法

Regional Scrum Gathering Tokyo 2026(RSGT2026)では、pretixというチケット管理システムを採用しています。チケットを譲渡したい場合、以下の手順で行うことができます。

譲渡する側(現在の購入者)

  1. 購入時に受け取った注文確認メールを開く
  2. メール内の注文URLをコピー
  3. 譲渡先の方にそのURLを送る

譲渡される側(新しい参加者)

  1. 受け取った注文URLにアクセス
  2. 参加者情報(氏名、メールアドレスなど)を自分の情報に変更
  3. チケットをダウンロード

これだけです。 専用の譲渡フォームや複雑な手続きは一切不要です。

ただし、秘匿URLをほかの人に知られてしまうとチケットにアクセスできてしまうので、取り扱いにはご注意ください。

以前使っていたEventbriteとの比較

RSGTでは以前Eventbriteを使っていました。Eventbriteでは以下のような手順が必要でした:

Eventbriteの場合:

  1. 購入者がEventbriteアカウントを作成(必須)
  2. アカウントにログイン
  3. 譲渡機能を使って参加者情報を変更
  4. パスワード管理が必要

pretixの場合:

  1. アカウント作成不要
  2. 注文URLを共有するだけ
  3. パスワード管理不要

アカウント作成やログインという手間がなくなったことで、参加者にとっても運営側にとっても負担が大きく減りました。

では、なぜpretixはこんなにシンプルなのでしょうか?その裏側の仕組みを見ていきましょう。

チケット譲渡 = 秘匿URLの共有

pretixでチケットを譲渡する方法は、注文確認ページのURLを相手に共有するだけです。専用の譲渡機能や複雑な手続きは不要です。

これは、pretixがログイン認証の代わりに秘匿URL(secret token)で正当性を確保しているからです。

公式ドキュメントからの引用

Customer Accountsドキュメント

pretixの公式ドキュメント Customer accounts には、以下のように記載されています。

If a customer places an order without logging into a customer account or creating one, they receive an email with a URL. The URL points to a page on which they can make a payment, download their ticket, as well as change the details of their orders, shipping, and personal information. The URL is specific to that order.

日本語訳:

顧客がカスタマーアカウントにログインせず、またはアカウントを作成せずに注文を行った場合、URLが記載されたメールを受け取ります。このURLは、支払い、チケットのダウンロード、注文詳細、配送情報、個人情報の変更ができるページを指しています。このURLは、その注文に固有のものです。

仕組みの解説

認証方式の比較

pretixの設計を理解するために、従来のログインベース認証と比較してみましょう。

従来の方式(ログインベース)

  • ユーザー名/パスワードでログイン
  • セッション/トークンで認証状態を維持
  • アカウント管理が必須
  • チケット譲渡には専用の譲渡機能が必要

pretixの方式(秘匿URLベース)

  • 推測困難なsecret tokenを含むURL
  • URLを知っている = 正当な所有者
  • アカウント作成不要(オプション)
  • チケット譲渡 = URLを共有するだけ

秘匿URLによる認証

pretixは、各注文に対して推測困難なsecret tokenを生成します。デフォルトでは32文字の英数字(一部の紛らわしい文字を除く)です。

例えば、注文URLはこのような形式になります:

 
 
https://pretix.eu/organizer/event/order/ABC12/k24fiuwvu8kxz3y1/

この k24fiuwvu8kxz3y1 の部分がsecret tokenです。このURLを知っている人だけが注文にアクセスでき、チケットをダウンロードしたり、参加者情報を変更したりできます。

まとめ

pretixのチケット譲渡の仕組みは、ログイン認証の代わりに秘匿URLで正当性を確保するというシンプルな設計になっています。

 
 
ログイン認証(ID/パスワード) → 秘匿URL(secret token)

この設計により:

  • ✅ ユーザーはアカウント登録不要
  • ✅ URLを共有するだけでチケット譲渡が可能
  • ✅ UXがシンプル

一方で、URLの取り扱いには注意が必要というトレードオフがあります。