Fearless Change 第一章の非公式翻訳

Agile Japan 2011 の基調講演のため、Linda Rising さんが来日予定です。基調講演は日本中のサテライト会場にも中継される予定です。

Linda さんは、企業組織の柔軟な変化について、コンサルティングコーチングを行っています。その方法は、パターンランゲージを用いて、誰にでも実行可能な方法を記述していく、というアプローチです。コンピュータサイエンスのバックグラウンドを持ち、通信系の大企業で勤務した経歴をもっているせいか、その一人称の語り口、安易に切り捨てない包容力に驚かされます。

"Fearless Change" という本は、彼女と、ビジネスマネジメント系のバックグラウンドを持つMary Lynn Manns さんの共著で、組織・会社に新しいアイデアを持ち込んで変化を導くための方法をまとめた有名な著書です。企業で特別に権限を付与された人々のためではなく、企業で働くふつうの人々のための、実践的なストーリーが書かれています。

私たちは Agile本読部 という小さなコミュニティを通じて、この本を読み始めて、4月で21ヶ月になります。

日本国内の在庫はないようですが、Kindle版は安価に手に入ります。

リアル書籍版はこちらです。

Fearless Change: Patterns for Introducing New Ideas

Fearless Change: Patterns for Introducing New Ideas

[追記] 掲載パターンの概要説明部分を安井さんが翻訳してくれたので、読書会の宣伝を兼ねて資料を作りました => PDF


残念ながら日本語訳が出版されていませんので、せっかくの来日の機会に、この内容が日本の方々に十分に伝わっていないことを残念に思いますので、第一章の翻訳を無許可で掲載させていただこうと思います。フェアユースの範囲であることを信じておりますが、本件の責任は私にあります。

訳者の力量不足で、翻訳の質が余り高くないと思いますので、その点はすみませんが責任もちません。

第一章 : 組織と変化

1993年ー。エリック・サパーストンは大学を卒業し、買ったばかりの1971年製のフォルクスワーゲンのワンボックスカーに、愛犬ジャックをのせて旅に出た。彼はこれから世界で最も情熱にあふれた人たちと、コーヒーを一緒に飲む、ということを心に決めていた。そして、彼の冒険は「ザ・ジャーニー」という映画に記録された。新しいアイデアをたくらむ人々は、興奮と、大冒険へ期待と、今すぐ冒険に出るんだ!という気持ちから、物事を始めるものだ。そういう人々の旅路に、本書がガイドブックとして役に立つことを願っている。


会社に変化を起こしたい。変化が起こりやすくなるように手助けしたい。そして、その中で、より多くのことを学びたい。なぜ変化が困難なのかを知りたい。-- この本では、そういった想いのひとつひとつに取り組んで、戦略を考えていきたい。まずはじめに、本章では変化のプロセスについて,そして、あなたの変化に良い影響も悪い影響を及ぼす「フォース」という概念を紹介する。


変化を実現するには、時間がかかる。どれくらいかかるだろうか?それはいろいろなパラメータの影響を受ける。数人の仲間の興味を惹きつけることは簡単で、あなたの目標としては、それで十分かもしれない。例えば、新しいソフトウェアツールを導入したい場合は、あなたの属するチームがそのツールを使ってくれるように促すだけで、ゴールみえてくるかもしれない。しかし一方で、最終的にそのソフトウェアを会社全体で統一して使えるようにしたい、という目標を考えているとしたら、挑戦のハードルが高くなり、何年もの継続した努力と、一時的な後退や落胆を覚悟する必要があるだろう。


研究の結果、変化を起こす要因について私たちがあたりまえだと思っていることのなかに、いくつかの誤解がみつかっている。まず第一の誤解は、イノベーションはそれ自体がよいアイデアだから受け入れられる、という捉え方だ。よいアイデアであっても、失敗して他の(しばしば取るに足らない)アイデアに取って代わられる例は、容易に思い浮かぶのではないだろうか。ソニービデオカセット「ベータ」方式は、VHS方式に取って代わられた。また、あきらかに優秀だったマッキントッシュOSも、市場での影響力を失い、DOSそしてWindowsに取って代わられた。


可能性を発見した人は、そのアイデアの優位性をはっきりとわかっているため、論理的に既存のアイデアから乗り換えるべき理由を説明しさえすれば、きっと他の人はわかってくれる、と考えがちだ。読者もこのような仮説を立て、あとで「やるべきことはもっとたくさんあった」と気付いた経験をお持ちではないだろうか。


2つ目の誤解は、新しいアイデアが一旦導入されてしまえば、あとは放っておいても大丈夫、というものだ。「この新しいアプローチを受け入れてください。以上。」というように。これは、種を蒔くだけで、水も肥料も収穫も手入れもしないということに等しい。残念ながら、現実はもっと多くの忍耐が必要だ。旅の終着点にたどり着くまで、長い道のりを重荷を背負って歩いてゆかなければならない。


新しいアプローチを導入したいなら、強制的に使わせるのが一番早い、という主張を聞いたことがあるかもしれない。もし一度した約束には絶対に従わなければならないとすれば、人はなるべく約束を回避するようになるだろう。王様が性急な改革を命令するかもしれないとわかれば、すぐに抵抗勢力が結成される。経営陣が「さあみんな、今すぐ<イノベーション>に飛び込もう!」と言えば、すぐに実現されるなんてことは期待できない。トップダウンの変化の特徴は、そのスピードにあるが、問題があればすぐに対応しなければならない。ボトムアップの変化はゆっくりだが、抵抗勢力への対応はもっと効率的にできる。ボトムアップな変化の特徴は、参加型、情報共有、不確実性、そして抵抗が最小限になることだ。私たちは経験上、現場管理職や上級管理者の適切な援護射撃をもらいながらのボトムアップな変化こそが最良と信じている。『最強組織の法則』を著したピーター・センゲも、このように言っている。


過去数年間、組織変革プロセスにおける新たな発見が続いている。それはトップダウンでもボトムアップでもなく、全ての階層が参加し -- システムの共通理解を通じて発生する。 *1

すでにお分かりの通り、私たちは参加型のアプローチを支持している。カーリー・フィオリーナ氏がヒューレット・パッカード社の社長になり、大改革に臨んだ際の話を紹介する。執行部は人々を巻き込む機会をあまり作らなかったために、多くの従業員は懐疑的で、抵抗派になっていた。彼らは表立って批判することはなかったが、単にこれまでにやってきた通りに物事を進めながら、彼女の目標にあわせていこうとした。抵抗派は薄く広く浸透しており、なにをするにも難しかった。中国の古い言い回しで「階段の上は騒がしいのに、誰も降りてはこない」というのがあるが、まさにその状況だった。組織の上層部からの変化は、全社的な参加を得られなければ、あっという間に、見事な失敗例になってしまうことがあるということだ。


そこで本書では、普及させたい新しいアイデアそのものへの興味や関心を引き出し、人々が自発的に変化に巻き込まれたくなるような進め方を目指している。


本書で紹介する戦略の背景には、EMロジャーズとジェフリー・ムーアの研究成果がある。彼らは人がどのようにイノベーションを認知し、採用するか却下するかについて観察を行った。その結果、わかったことは、変化というものは実は一過性のイベントではなくプロセスである、ということであった。イノベーション決定プロセス(innovation-decision process)と呼ぶ。人々が新しいアイデアの採否を決定するまでには、いくつかの段階がある。はじめの3つの段階は、知識/納得/判断で、情報を集め、自分なりの意見をまとめていく。そこでイノベーションに適応することを決めたなら、残りの2段階に進む。実装/裏付けは、利用者として自分の決定が間違っていないことを確認していく段階になる。


この研究はイノベーションへの適応決定プロセスのスピードを変化させる要因を明らかにしている。すなわち、組織文化と人だ。変化を成功導くための第一歩として、それらをよく知り、活用する方法を考えていく必要がある。

チェンジエージェント

変化というものは、誰かがそそのかし、周りを導いていくことで始まる、と我々は信じている。権力がないことは、消極性やあきらめの言い訳にはならない。リーダーシップが、相対的に権力のない人々によって発揮されるのを、実はあなたも毎日、目にしているのだ。すごい権力を背景にせず、他の人に影響を与える人々が存在する。健全な会社では、社員が同僚だけでなく、上司すらも導く。それをするのに公式な許可は必要ない。


冒頭のエリック・サパーストンの旅の話題に戻ろう。CEOや著者、ジミー・カーター大統領に会いに行く旅の途中にいる。エリックはカーター大統領に、自分たちの世代へのメッセージを求めた。大統領は「あなたたちには、変化を起こす凄まじい力を持っていることを忘れないでほしい。その可能性にみんなを巻き込み、世界を変え、コミュニティを変え、家族を変え、そして、あなた自身を変えてほしい」と応じた。


我々はカーター大統領のメッセージを心に刻もう。我々自身の持っている力を認識しよう。あなたにコミュニケーション能力があり、他人を正当に評価でき、他の人と一緒に仕事をしているなら、あなたのアイデアを共有するきっかけは既に持っている。もし、あなたが空き時間ではなく業務の一部として、変化への取り組みを行えるなら、もっと時間を使うことができるかもしれない。いずれにせよ、あなたを突き動かす情熱とそのアイデアに対する確固たる信念こそが、最も重要な駆動装置になる。必要なのは、それを 信じ、それをあなたの環境へも導入しようと思い、それを実現する方法を知っていること。既にあなたは2つ目(信じる、導入しようと思う)まで満たしているので、本書は3つ目(実現する方法)を提供したい。

文化

あなたの同僚たちが行うイノベーション決定プロセスに対して、組織文化が大きく影響することは明らかだ。組織文化によって支援・育成されれば、より簡単に素早くイノベーション決定プロセスが駆動される。人々がそれを学ぶ時間を取ることが許されたり、長期にわたるイノベーションの効果をじっくり待つことができたり、人々の学習曲線が長期化する可能性も了承されたり、失敗を死の宣告と考えなくてよい、というような文化だ。さらに、励ましの文化があれば、人々が組織内の感情とうまく付き合うことの手助けとなり、その結果、人々は目前のタスクに集中できるようになる。


変化を受容するには、組織に十分な柔軟性が必要だ。スティーブン・R・コヴィーは『7つの習慣』で、必死で木を切っている男の話を紹介している。*2

  「一体なにしているんだい?」
  「わからないのかい?木を切っているんだよ。」
  「ずいぶんくたくたのようだけど、そんなに大変なのかねぇ?」
  「5時間以上だ!もう疲れたよ!これはとっても大変な仕事だ。」
  「へぇぇ。すこし休みをとって、刃を研ぎ直したら? その方がよほど早く終わると思うんだけど。」
  「切るのに忙しくって、そんな余裕ないよ!」


残念ながら、効率や品質を向上するために学習する時間はそれほど多くない(もしくは、全くない)。うまくいく学習法は、だいたい新しいやり方のための時間を取らなければならない。計画、協調作業、練習、そして反省...。現実には、たとえ世間に注目されているようなものであっても、先行投資なくして変化が起こることはない。保守的な文化を持つ組織でも小さな変化は起こせるが、緩慢な変化を待つだけの忍耐が必要になる。


大きな変化は、いつも局所的に始まり、だんだんと成長していく。変化を継続させる鍵となるいろんな人々が必要だ。それは「先導者たち」。自然体で、継続的に適応し、自ら再投資する人々の集団。トップがリードするだけでなく、多様な階層に属した多くの有志によるリーダーシップが必要だ。

人々

チェンジ・エージェントそして文化に続く3つ目の要因は「人々」だ。あなたの旅を始めるにあたって、ぜひ覚えておいていただきたいのは、あなたが組織に導入したいものよりも、組織内の人々の個性が鍵になるということだ。新しいアイデアに対してオープンな文化を持っている組織であっても、人々はそれぞれに違った許容度を持って変化を受け入れる。あなた自身はそのイノベーションの価値は明らかで広く知られていると信じていても、他の全ての人々は、これからその光を評価して適応することになる。理性を持つ人間としては、自分たちの決定は論理的になされることを期待してしまうが、普及戦略論や社会心理学上で最も有力なのは、「人々は感情によって決定し、現実を用いて正当化する。」という立場だ。国民的ビジネス評論家であるデイル・ドーテンは「現実というのは便利なものだ。感情で正しいと決めたことに、正気で取り組めるようにしてくれる。」と述べた。


イノベーション決定プロセスをさっさと通り抜ける人もいるが、多くの人はゆっくりと通り抜ける。誰かに強要されないと受け入れない人もいるかもしれない。人々が受け入れる/拒絶する過程にどんな個人差があるかを理解しておくと、各々のスタイルを意識してあなたの戦略をうまく調節することができるようになる。


あなたが話す相手のポジティブな側面を探すようにしよう。ハノーバー生命保険の前社長ビル・オブライエンはこう述べた。

もしあなたが人々について決定論的観点を持っているなら -- 上位10%だけが改善し、20%の人々は隙あらばぐちゃぐちゃにしようと狙っている、と考える。 -- ゆえに、それを信じることは、あなたが大きな変化をもたらそうとする能力を著しく制約することになるだろう。

反対に、あなたが人々のことを誠実に愛しており、それぞれの人が広い許容力を持っていると信じているならば、あなたの役目はちょっとその背中を押すだけということになる。このような態度をもって人々と接し、勇気と思いやりをもってあたれば、より効果的に動くことができる。


EMロジャーズは、彼の代表作『イノベーション普及学』において、このように述べている。イノベーションはまずイノベーターと呼ばれる小さなグループで起こる。次に2番目のグループであるアーリーアダプター、そして次にアーリーマジョリティ、レイトマジョリティの淳に受け入れられていく。一番最後に、ラガードが適応する。


イノベーター (Innovator)は、全体のうちで、極めて少数しかいない -- だいたい 2.5%だ。彼らは新しいアイデアをすぐに受け入れる。ほとんど説得は必要ない。ただ新しいというだけで、関心を持ってくれるからだ。「正しく動かないものの方が可愛いよ!」と言ってしまうタイプの人々がいるのはご承知の通り。彼らが新しいアイデアに早期に食いつくことで、アイデアに火がつき、検証を助けてくれる。しかし彼らはそれほど長く関心を持ち続けてはくれない。彼らのベンチャー精神はリスクに寛大すぎるため、他の人々は彼らの意見を受け入れることがない。そのため、イノベーターは素晴らしい門番である一方で、一般的には優秀なオピニオンリーダーたりえない。


アーリーアダプター (Early Adapter)は全体のなかでも、もう少し多くの人数が属している -- だいたい 13.5%。彼らも新しいアイデアに寛大だが、少しだけ真剣に考えてから、受け入れを決める。彼らはイノベーションを活用できるような戦略的機会を探しており、根本的なブレイクスルーが行えるような新しいアプローチを見つけて始めて動き始める人もいる。仲間内で尊敬を集める志し高いビジョナリーであるため、新しいアイデアを受け入れたあとはオピニオンリーダーとして手助けしてくれることもある。しかし、イノベーターとアーリーアダプターは、所詮は小さな集団にすぎない。組織に影響を及ぼすには、大多数の人々を納得させる必要がある。


アーリーマジョリティ (Early Majority) は、新しいアイデアを受け入れてもらうために重要な1つ目のグループだ。全体の3分の1が属している。アーリーマジョリティの人々は、仲間同士で情報交換をするが、あまり先導者たちとは話さない。仲間を作りたがり、新しいアイデアを自分自身で評価する前に、他人の成功事例を知りたがる。実用主義者として、イノベーションが漸進的で計測可能で予測可能な進歩をもたらす場合に、納得する。いったんこの大きなグループを説得できれば、イノベーションの草の根組織が作られる。アーリーマジョリティはアーリアダプターとその後のグループとの間を結ぶ生命線となる。アーリーマジョリティは古いものと新しいものをつなぐ架け橋となるのだ。


レイトマジョリティ (Late Majority)は新しいアイデアを受け入れてもらうために重要な2つめのグループだ。やはり全体の3分の1が属する。レイトマジョリティは新しいアイデアに対しては懐疑的で注意深い人々が集まっている。彼らはもともと保守的で、ほとんどの不確実性が取り除かれたあとに、やっとアイデアを受け入れる。また、受け入れる前になんらかのプレッシャーが必要だ。必要なプレッシャーの種類はいろいろある。例えば、周りの人々がみんな使っているのを見るとか、上司がそのアイデアの採用を強く示唆するとか、チーム全体が受け入れてしまい業務効率上従わざるを得ないとか。


ラガード (Laggards)はアイデアを最後に受け入れる人々だ -- 彼らが受け入れれば完了だ。彼らの考え方は一般的に「私たちはこの方法でいつもやってきた」というものだ。彼らの友人はやはりラガードになりがちだ。イノベーションや変化に対し懐疑的なため、彼らが受け入れる場合、外部からの大きなプレッシャーがあり、さらに、すでにイノベーションが失敗しえない状況になっていることとセットであることが多い。


これまで、人々の何%と言ってきたことに注意してほしい。組織の何%とは言ってこなかった。組織はそれぞれの特徴を持っている。極めてイノベーティブな企業では、属する人々もイノベーターの比率が高かった、という例もある。そうでない企業はより保守的な特徴をもつ。EMロジャーズが挙げた数字や、他の研究者の観察結果の数値は、統計的な指標値にすぎない。どの数値があなたに役立ちそうかは、あなた自身が一番わかるはずだ。


我々の哲学は、品質管理コンサルタントのデヴィッド・ハットンの「The Change Agent's Handbook (チェンジエージェントハンドブック)」に上手に記述されている。

変化に強く反発する人々のために時間を使う必要はない。変化を望む人々を助け、守るだけでいい。そうすれば彼ら自身が成功する。言いかえると、あなたの仕事は森全体の木を一列一列すべて植えていくことではなく、生育に適した環境選んで種を蒔いて育てていくことだ。木々が成長すると、自分自身で種をばらまき、最終的には肥沃な大地いっぱいに森が広がっていくだろう。もちろん未整備の荒野には岩が邪魔をすることもあるかもしれない。しかし、あなたの限られたリソースを論理的に、効果的に活用する確かな方法はこれなのだ。これは変化に反対する明確で影響力のある反対勢力の存在を無視することを勧めているわけではない。プロセスを妨害する人々に対応する方法を探さなければならない場合もあるかもしれない。しかし、一旦、変化しないだろう人々を判別できてしまえば、彼らを説得することを試みて時間を捨てる必要はない。 *3

私たちの戦略は新しいアイデアを導入することにフォーカスしているので、懐疑的な人々(レイトマジョリティとラガード)はターゲットとしていない。しかし、無視するわけでもない。懐疑派はイノベーションの問題点を発見する貴重な機会を与えてくれることがある。多くの人は意見の衝突は不愉快で非生産的で時間の浪費だと考えるかもしれないが、私たちはそれをチャンスと捉えることをお勧めする。意見の衝突は有害とは限らない。問題解決と改善にエネルギーを注ぐことができる。その人たちも、なぜ変化が必要なのか、望ましい未来の状態はなにか、そこに行くにはなにをしたらいいのか、といった情報が欲しかっただけという可能性もある。


変化への抵抗のほとんどは、自分たちの環境と運命をコントロールしたいという欲求から生じる。あなたもたまにはオフィスの模様替えを楽しむこともあるだろう。しかし、ある日会社の設備担当がいきなり来て、どこかで勝手に承認されたマスタープランに従ってオフィス環境を再編成する、といわれたら話は別だろう -- すぐディルバートの漫画にできる。組織の変化について研究している人々は、これまで 変化の初期に反抗するほどには、変化そのものには反対しないという事象に出会ってきた。人は自身が関わった変化の実績があれば、それをコピーするのは上手にできる。そこで、この本で戦略を記述するにあたり、私たちが採用した哲学は、全ての階層の人々を結びつけ、計画段階から参加してもらい、なにをするか、変化が起きるようにどう手助けするかについて、みんなで共有することだ。


人が新しいアイデアを受け入れる過程については、『ティッピング・ポイント』の著者マルコム・グラッドウェルによる説明を紹介する。変化を起こすには3つの役割(物知り、セールスマン、コネクター)のが必要だ。物知りとは「情報スペシャリスト」のことだ。彼らはイノベーションに関する知識を提供してくれる。イノベーションを広めたい場合は、アイデアの説明役としてセールスマン、多岐にわたる人脈を持つコネクターも必要になる。あなたはなるべく広範にアイデアを拡げるために、物知り、セールスマン、コネクターの役割を引き受け、他の人にも手伝ってもらわなければならない。あなたが物知り役であるなら、最新情報を共有することを手助けしてくれる人が必要になる。アーリーアダプターの中に、よいセールスマンや協力してくれるコネクターたちがみつかることもある。


新しいアイデアを導入するのは段階的で、やりながら学んでいくプロセスだ。その道には、後退も小さな成功もあるだろう。私たちは、ゆっくり始めること、そして多くの時間と忍耐が必要になることを覚悟して進むことを、お勧めしたい。この旅の成功は、あなた自身、文化、そしてあなたの周りの人々を理解すること無しには、おぼつかないだろう。このことを理解していれば、この本をとても上手に活用できるはずだ。最後に、このプロセスを楽しんでアップルコンピュータスティーブ・ジョブズ曰く「旅そのものが報酬だ!」。Bon Boyage! さあ出航しよう!

ご指摘

  • 4/10: yattomさんより、7つの習慣のくだり"saw" はのこぎりの意味だというご指摘を頂きました。修正しました。ご指摘感謝です!
  • 4/12: E.M. ロジャーズ の Laggards は ラガーズじゃなくてラガードと表記されることが多いと言うご指摘を頂きましたので、修正しました。

*1:Senge, P. et al., Te Fifth Discipline Fieldbook: Strategies and Tools for Building a Learning Organization, Doubleday, 1994.

*2:Covey, S.R., *The 7 Habits of Highly Effective People, Simon & Schuster*, 1989.

*3:Hutton, D. "The Change Agents' Handbook: A Survival Guide for Quality Improvement Champions, ASQ Quality Press, 1994."